M&Aコラム
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近年は、貸借対照表や損益計算書だけでなく、キャッシュフローに重点を置く企業が増えてきました。本記事では、キャッシュフロー重要性とその種類を説明したうえで、キャッシュフロー計算書の作成方法やその見方などについて解説していきます。

キャッシュフローとは?

キャッシュフローとは、文字通りお金の流れを指します。キャッシュフローは企業を経営していく上でどのような役割を果たしているのでしょうか。もう少し掘り下げて見ていきましょう。

「キャッシュイン」と「キャッシュアウト」

売掛金などを回収して会社に現金などが入金されることを「キャッシュイン」と言います。
損益計算書では売掛金を請求した時点で収益を計上しますが、キャッシュインはこれとはまったく関係ありません。あくまで現金などが会社に入金された時点で、キャッシュインが起こったと考えます。

一方キャッシュアウトとは、買掛金などの支払いのために会社から現金などを出金することを言います。こちらも費用が発生した時点(請求書を受け取った等)で生じるわけではありません。実際に現金などが社外へ流出した時点でキャッシュアウトが起こったと考えます。
キャッシュフローはこのキャッシュイン(収入)やキャッシュアウト(支出)の差額であり、関係は以下のようになります。

「キャッシュフロー」=「キャッシュイン」ー「キャッシュアウト」

キャッシュフローを把握することの重要性

企業にとって最悪の事態とは、倒産することです。しかし、必ずしも赤字が続いたからといって倒産するわけではありません。たとえば毎年1億円の赤字を出し続けていたとしても、資本金が100億円でその全額が現金で残っているのであれば、計算上は100年間存続できます。

一方、黒字にもかかわらず現金が手元にない場合はどうでしょうか?
売掛金などの回収よりも買掛金などの支払いが早ければ、仕入先などに代金を支払うことはできません。代金が支払えなければ仕入業者や外注業者は離れていくため、そのまま会社を畳むことになってしまうでしょう。これを「黒字倒産」といいます。

企業経営は、黒字の時ばかりではありません。赤字であってもそれを乗り切り、事業を継続すべき必要があります。そのために最も必要なのは、実は、黒字や赤字などの会計上の収益ではなく、キャッシュフローを把握しておくことです。

もちろん、長期的に見れば、黒字を続けることが企業経営に大切であることは言うまでもありません。しかし、短期的に見れば、キャッシュフローを把握することこそが経営を安定させる上でもっとも大切なことなのです。
これらの理由から、上場企業では貸借対照表・損益計算書と並んで「キャッシュフロー計算書」の作成が義務付けられています。

4種類のキャッシュフロー

キャッシュフローは、それが生じた理由に応じて以下の4つに分類されています。

  1. 営業活動によるキャッシュフロー
  2. 投資活動によるキャッシュフロー
  3. 財務活動によるキャッシュフロー
  4. フリーキャッシュフロー

この章では、それぞれのキャッシュフローが持つ特徴や具体的な内容について解説します。

①営業活動によるキャッシュフロー

営業活動によるキャッシュフローは、本業によって生じたキャッシュインとキャッシュアウトを集計したものです。本業によって生じたキャッシュインとは、主に以下のものを指します。

本業によって生じたキャッシュイン
現金での売上
売掛金の回収
受取手形の入金(割引も含む)
預貯金の金利(受取利息)

なお、営業キャッシュフローにおけるキャッシュインは、売り上げに関わる入金以外にも、投資活動や財務活動以外によって生じた受取利息が含まれます。

次に、本業によって生じたキャッシュアウトとは、おもに以下のものを指します。

本業によって生じたキャッシュアウト
現金での支払い(仕入や諸経費など)
買掛金の支払い
支払手形の支払い
給料の支払い
借入金の金利(支払利息)
法人税等の支払い

仕入や外注費などの支払いだけでなく、給料や支払利息・法人税等の支払いも含まれます

このように営業に関する現金での入出金を、営業活動によるキャッシュフローと言います。なお、営業活動によるキャッシュフローは本業によって生じたキャッシュインとキャッシュアウトの総和を表しているため、プラスであることがのぞましいです。
もしマイナスであれば、本業での収益に何らかの問題があることを表しているため、早急に手を打たなければなりません。

②投資活動によるキャッシュフロー

投資活動によるキャッシュフローとは、おもに有価証券などへの投資です。また設備投資のように、将来の収益に対する投資によって生じたキャッシュインとキャッシュアウトを集計したものも含まれます。
有価証券などへの投資や設備投資によって生じたキャッシュインとは、おもに以下のものを指します。

有価証券などへの投資や設備投資によって生じたキャッシュイン
定期預金・積金等の払い戻し(満期など)
固定資産の売却による現金入金
投資有価証券(株式等)の売却による現金入金
貸付金の現金回収

逆に、同様の投資によって生じるキャッシュアウトとは、おもに以下のものを指します。

有価証券などへの投資や設備投資によって生じたキャッシュアウト
定期預金・積金の預け入れ
固定資産購入による現金支出
投資有価証券の購入
貸し付けによる現金支出

投資活動によるキャッシュフローは、 企業がどれだけ将来に向けた投資を行っているのか を表したものです。したがって、プラスであれば投資物件の回収段階を表し、マイナスであれば積極的な将来への投資を表しています。そのため、投資活動によるキャッシュフローは、プラスやマイナスで単純に良し悪しを決めることはできません。

ただし、営業活動によるキャッシュフローと比べてあまりにもプラスやマイナスが多いようであれば、何らかの問題が生じていると考えても良いでしょう。

③財務活動によるキャッシュフロー

財務活動によるキャッシュフローとは、外部からの資金調達とその返済によって生じたキャッシュインとキャッシュアウトの総和を表したものです。
外部からの資金調達によって生じたキャッシュインとは、おもに以下のものを指します。

外部からの資金調達によって生じたキャッシュイン
新規借り入れによる現金収入
社債発行による現金収入
株式発行による現金収入

反対に、同様の資金調達によって生じたキャッシュアウトとは、おもに以下のものを指します。

外部からの資金調達によって生じたキャッシュアウト
借入金の返済による現金支出
社債の償還による現金支出
自社株買いによる現金支出
配当金の支払いによる現金支出

財務活動によるキャッシュフローの増減は、 資金調達の状況とそのためのコスト(配当金)がどれくらいだったか を表したものです。これも、投資活動によるキャッシュフローと同じで、単純にプラスやマイナスで良し悪しを測ることはできません。

ただし、他のキャッシュフローと比べて金額が大幅に異なる場合は、何らかの問題が生じていることが多いと言えます。

④フリーキャッシュフロー

フリーキャッシュフローとは、企業が本業で稼いだお金と、将来に向けた設備投資やM&Aなどの投資にかかった費用(もしくは有価証券や設備投資の売却で得たお金)の合計を指します。したがって、フリーキャッシュフローは以下の算式で求められます。

「フリーキャッシュフロー」=「営業キャッシュフロー」+「投資キャッシュフロー」

フリーキャッシュフローで知ることができるのは、借入金の返済可能金額や投資家への配当金額、将来のための投資金額などです。そのため、M&Aなどの投資において 企業の稼ぐ力 を見る時には、このフリーキャッシュフローが用いられます。

キャッシュフローの計算方法

営業キャッシュフローの表示方法には、直説法と間接法の2つの方法があります。ここでは、それぞれの違いについて簡単に解説します。

直接法による算出

直説法とは、営業キャッシュフローのキャッシュインやキャッシュアウトを、 主要な取引ごとにまとめて表示 したものを言います。具体的には、「営業における収入」や「材料の仕入」、「給料の支払い」や「経費の支払い」など項目ごとにまとめ、営業キャッシュフローを算出していきます。

キャッシュインやキャッシュアウトの内訳が、誰が見ても分かりやすく書かれている点がこの方法のメリットです。しかし、主要な取引ごとにキャッシュインやキャッシュアウトを合算していくのには大変手間が掛るため、実務で使われることはあまりありません。

間接法による算出

間接法とは、 損益計算書をもとに営業キャッシュフローの流れを表示 する方法のことを言います。損益計算書の税引前当期利益をスタートに、損益計算書に表示されている内容を「加算項目」と「減算項目」に振り替え、最終的に営業活動によるキャッシュフローを算出します。

直説法と比べると直感的に分かりにくい面はありますが、作成が簡単なため実務では間接法を用いる会社が多く見られます。なお、どちらで表示しても最終的な営業活動によるキャッシュフローの金額は同じです。
ちなみに、間接法による加算項目にはおもに以下のものがあります。

間接法による加算項目
非資金損益項目(減価償却費・のれん償却費など)
営業外費用(リース資産の支払利息など)
営業活動にかかる資産の減少(棚卸資産の減少など)
特別損失(固定資産の売却損など)

反対に、減算項目にはおもに以下のものがあります。

間接法による減算項目
営業外収益(受取利息など)
営業活動にかかる資産の減少(棚卸資産の増加など)
特別利益(固定資産の売却益など)

キャッシュフロー計算書とは?

キャッシュフロー計算書とは、キャッシュの流れから企業の業績や経営状態を判断するための財務諸表のひとつです。貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の3つを合わせて財務三法といいます。
キャッシュフロー計算書は、企業活動における資金の増減を以下の3つの要素に分類し、その流れを表します。

  • 営業活動によるキャッシュフロー
  • 投資活動によるキャッシュフロー
  • 財務活動によるキャッシュフロー

「貸借対照表」「損益計算書」との関係・違い

貸借対照表、損益計算書とキャッシュフロー計算書の関係や違いを、簡単な例で説明します。

(例)
・手許の資金100で事業をスタート
・銀行から50を借りて150の商品を仕入れ、それを200で売って現金200を回収した

この状態を、「手元の現金は200、銀行からの借入金が50」と表すのが貸借対照表です。一方、「売上高は200、仕入高が150、当期利益が50」と表すのが損益計算書になります。これらに対し、「営業キャッシュフローが50(営業収入200、商品仕入れ△150)、財務キャッシュフローが50、現金及び現金同等物の増加額が100」と表すのがキャッシュフロー計算書なのです。
これらをまとめたのが以下の表です。

貸借対照表
(ある時点※での資産や負債の状態を表す)※通常は決算時
損益計算書
(ある一定期間※における収益と費用から導き出された当期利益を表す)
※通常は一会計期間
キャッシュフロー計算書
(ある一定期間内に企業活動で増減したキャッシュが、どのような理由によってどれくらい変化したのか表す)
・手元の現金は200
・銀行からの借入金が50
・売上高は200
・仕入高が150
→当期利益が50
・営業キャッシュフローが50(営業収入200、商品仕入れ△150)
・財務キャッシュフローが50
→現金及び現金同等物の増加額が100

キャッシュフロー計算書の見方、大きく7つのタイプに分けられる

キャッシュフロー計算書を見ると、その企業の経営状態がどうなっているのかを読み解くことができます。そこで、企業の状態ごとにキャッシュフロー計算書がどのようになるのかを解説していきます。

優良企業の場合

優良企業は業績が良く、将来に向けた投資を積極的に行います。したがって、営業活動によるキャッシュフローはプラスになり、投資活動によるキャッシュフローはマイナスになります。また、低金利で融資を受けられるため、資金調達にも積極的です。したがって、財務活動によるキャッシュフローはマイナスになります。これらをまとめると以下のようになります。

優良企業の場合
営業活動によるキャッシュフロー
投資活動によるキャッシュフロー
財務活動によるキャッシュフロー

成長企業の場合

成長期にある企業の場合は業績が良く、その業績の良さから調達した資金をフル活用して将来への投資を積極的に行います。したがって、以下のようになります。

成長企業の場合
営業活動によるキャッシュフロー
投資活動によるキャッシュフロー -(スタートアップ企業の場合、かなりのマイナス)
財務活動によるキャッシュフロー

ダウンサイジングの場合

ダウンサイジングの過程にある企業は、赤字部門の切り離しや資産の売却などによって業務を縮小し、債務超過を解消していきます。したがって、キャッシュフローの流れは以下のようになります。

ダウンサイジングの過程にある企業の場合
営業活動によるキャッシュフロー +(場合によってはマイナス)
投資活動によるキャッシュフロー +(業務縮小に伴い資産の売却など実施)
財務活動によるキャッシュフロー -(借入金などを返済し、債務超過を解消)

再建企業の場合

再建中の企業の特徴は、事業の赤字を金融機関などからの借入金で埋め合わせている点です。また、設備投資などの将来に向けた支出は当面控え、目先の資金の流出を防ごうとします。したがって、キャッシュフローは以下のようになります。

再建中の企業の場合
営業活動によるキャッシュフロー
投資活動によるキャッシュフロー
財務活動によるキャッシュフロー +(キャッシュの不足分を金融機関などから借り入れ)

事業検討の場合

事業検討型の企業の特徴は、事業の継続が難しいほど業績が悪化している点です。赤字で設備投資もできず、新規の借り入れも断られるため借入金の返済でキャッシュアウトだけが続きます。したがって、事業検討中のキャッシュフローは以下のようになります。

事業検討型の企業の場合
営業活動によるキャッシュフロー
投資活動によるキャッシュフロー
財務活動によるキャッシュフロー

事業転換の場合

事業転換の企業は、収益自体はプラスであるものの現在の市場の将来性などから、新規事業へ転換を図り積極的な投資を行います。したがって、事業転換の場合のキャッシュフローは以下のようになります。

事業転換の企業の場合
営業活動によるキャッシュフロー
投資活動によるキャッシュフロー +(大型の設備投資など実施)
財務活動によるキャッシュフロー +(大規模な設備投資のために、金融機関などから資金調達)

経営状態が要注意の企業の場合

経営状態が要注意の場合は、収益は赤字のため設備などの固定資産を投げ打って少しでも資金を集めている状態であり、それでも資金が不足するため外部からの資金調達を目一杯行っています。
したがって、要注意の場合のキャッシュフローは以下のようになります。

経営状態が要注意の企業の場合
営業活動によるキャッシュフロー
投資活動によるキャッシュフロー +(設備の投げ売りなどが行われる)
財務活動によるキャッシュフロー +(金融機関などからの資金調達が目いっぱい行われる)

キャッシュフロー計算書を作成できるツール

決算書を手元に置いてキャッシュフロー計算書を作るのは、とても大変な作業です。しかし、ツールを使うと、簡単にキャッシュフロー計算書が作成できます。そこで最後に、キャッシュフロー計算書を作成するお役立ちツールを3種類紹介します。

中小企業庁の会計ツール集

中小企業庁が作成した会計ツール集をダウンロードすると、決算書の数字を入力していくだけで簡単にキャッシュフロー計算書を作成できます。ツールの使い方なども細かく説明してあり、中小企業が簡易的に作成するのにおすすめです。

日本公認会計士協会のキャッシュフロー作成シート

日本公認会計士協会も、簡単な操作でキャッシュフロー計算書を作成できるツールを無料配布しています。こちらも、過去の貸借対照表と損益計算書の一部を入力するだけで、キャッシュフロー計算書が出来上がるので簡単です。

Excelのテンプレート

Excelの無料テンプレートを使っても、キャッシュフロー計算書を作成できます。こちらも、決算書を手元にいくつかの数字を入力していくだけです。

終わりに

上場企業とは違い、中小企業にはキャッシュフロー計算書の作成義務はありません。しかし、キャッシュフロー計算書を用いると、貸借対照表や損益計算書ではわからない「お金の流れ」を知ることができます。企業経営にとってキャッシュフローの大切さは言うまでもありませんが、投資としてM&Aの売り手企業を検討する場合も同様です。キャッシュフロー計算書を使いこなし、自社の経営状況やM&Aなどの投資判断に役立てるようにしましょう。

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