矢野経済研究所
(画像=makoto-garage.com/stock.adobe.com)

国内乗用車メーカー7社の2021年4-12月決算が出揃った。マツダ、ホンダ、日産自動車、三菱自動車の4社が2022年3月期の営業利益見通しを上方修正、トヨタ自動車は従来予想を維持したが4-12月期の営業利益は過去最高を更新しており、期首計画の達成はほぼ確実だ。半導体不足、材料費高騰、国際物流網の停滞、コロナ禍の長期化など自動車業界は依然として厳しい事業環境の中にあるが、ここ数年各社が取り組んできた事業構造改革の成果を円安が一段押し上げた格好だ。

こうした中、部品大手マレリホールディングス(旧カルソニックカンセイ)が金融支援の要請を行った。負債総額は1兆円、債務免除や返済猶予について裁判所を介さず債権者と交渉する “事業再生ADR” の申請が検討されているという。
背景にはマニエッティ・マレリ社(伊)との経営統合効果の遅れやEV化の急速な進展といった構造要因がある。とは言え、上記した “厳しい事業環境” がそもそも脆弱だった財務体質をもう一段悪化させたと言えよう。自動車メーカー各社は断続的に生産調整を実施し、一方でこれを挽回するための増産計画も打ち出してきた。結果、マレリの生産計画は混乱、業績回復は遅れ、資金繰りが逼迫したものと思われる。

生産調整の影響はマレリだけの問題ではない。下請部品メーカーはいずれも生産計画が見通せない中、増産要請への対応も進めていたはずだ。材料費の高騰に加えて、生産効率の低下が経営を圧迫する。
しかしながら、高騰した材料費の価格転嫁や過剰在庫の費用負担に大きな声を挙げられる下請会社は皆無であり、多くが我慢を強いられている状況であろう。生産調整、資材高騰の長期化は、下請取引の連鎖で構成される業界の負の側面を一挙に露呈させる可能性もある。

公正取引委員会が昨年6月に発表した2020年度の下請法に関する調査によると、下請法違反被疑事件8393件のうち、勧告や指導などの措置が講じられた件数は8111件、これは下請法が施行された1956年以来の最多件数である。業種別では製造業が4割と突出、支払遅延、減額、買い叩きで84.5%を占める。
2月10日、経済産業省は、価格転嫁の促進、下請取引の監督強化、知財Gメンの新設、約束手形の廃止に向けた要請の発出など、取引の適正化に向けての強化策を発表した。サプライチェーン全体の付加価値向上は日本経済全体の底上げをはかるうえでの一丁目一番地だ。リスクと利益の適正な配分を前提としたフェアな関係構築に向けて、“親事業者” 側の踏み込んだ対応を望む。

今週の“ひらめき”視点 2.14 – 2.17
代表取締役社長 水越 孝