【第12回】企業にとっての本質的メリットとは?「新技術等実証制度(規制のサンドボックス制度)」が目指す産業の進化
(画像=THE OWNER編集部)

日本は海外に比べ、テクノロジーの導入が遅れがちだ。それは、リスクを嫌う国民性や文化的背景が大きいといわれるが、規制の存在とその改正の難しさがあることも大きな要因である。だが、フィンテック、モビリティ、医療など、規制の強い領域でもテクノロジーはどんどん進化している。これらの新しい技術の社会実装を目指す「新技術等実証制度(以下、規制のサンドボックス制度)」をご存知だろうか?

規制のサンドボックス制度は、テクノロジーが進化するスピードと、規制やルール面の見直しのスピードの間にあるギャップを埋めるための政府の取り組みである。2018年6月の施行以降、分野を問わず21事業計画が認定、実証実験が行われ、実際に法改正に進む事例も出ている。これはスピード感のある改革を目指す日本企業にとって追い風となる仕組みなのではないだろうか。

そこで今回、規制のサンドボックス制度の活用に関する政府一元窓口を務める内閣官房・新しい資本主義実現本部事務局企画官、松山大貴氏に、具体的事例を詳しく聞いた。

松山大貴(まつやま・だいき)
東京国際映画祭事務局等を経て、2011年経済産業省中途入省。エネルギー政策(関連税制・予算等)、地域経済産業政策(地方創生等)に従事し、スポーツ庁創設時に出向しスポーツ産業振興を担当。帰任後、中小企業政策(下請取引対策等)、商務サービスグループ政策企画委員を経て、2021年7月より現職。規制のサンドボックス制度の運用や総合調整等を担当。

規制に悩まされる新規事業創出の追い風となるか?

「行政の規制が強くて事業に必要なデータを取得できない」。そんな嘆きが、企業から聞こえてくる。データドリブンの事業やサービス展開が進んできている現在、データを集められない環境はビジネスにとって大きなブレーキとなってしまう。

だが、規制当局の言い分もある。安心や安全にかかわる領域においては、考えうるリスクをできる限り排し、国民が安心して利用できることが証明されなければ、改革に踏み切れないということだ。特に金融、医療、交通など人々の暮らしに密接にかかわる分野ほど変革には慎重にならざるをえない。

事業者側と規制当局側のお互いの考えを受け入れ、産業の進化を妨げずに変革を起こすきっかけをつくるために、規制のサンドボックス制度は生まれた。

「製品やサービスが生まれるスピードとルール面を見直すスピードのギャップを埋めるため、期間や参加者を限定した実証を行う仕組みを生み出しました。このようにして成立した『規制のサンドボックス制度』は『まずやってみる!』をスローガンにしています。さまざまな実証で得られたデータや知見、浮き彫りになった問題点などを、事業化や次の規制の見直しにつなげていくことを狙いとしています」(松山氏)

本制度は、2018年6月に生産性向上特別措置法に基づき創設された際は、3年間の時限措置となっていた。だが3年間の取組みを踏まえ、2021年6月に産業競争力強化法に同制度を規定し、恒久化されることとなった。

2018年以前は、規制改革を求める企業やプロジェクトに対して、「グレーゾーン解消制度」「新事業特例制度」(ともに2014年1月創設)という2つの制度を活用して各省との調整を経て事業を行ってきた。

だが、これら「事業」を行うための調整にも時間がかかってしまうことが多い。そこで、初めから「事業」を行うのではなく期間・場所・参加者などを限定して「実証」という形でデータを集められる取り組みが制度化されたのだ。

「いきなり事業だと規制の解釈や展開方法が複雑で企業が二の足を踏んでしまうこともある中で、実証という形にフェーズを1つ下げることで安全性を担保した状態でデータを集めることができるようになります。影響範囲は限定的にはなるものの、実証してみることで新しく見えてくるものはありますので、政府としても積極的に推進したい取組みとなっています」(松山氏)

政府一元窓口がハンズオンで支援 ついに法改正に着手した領域も

企業にとって、これまでは時間も工数もかかっていた新事業の実証実験を、比較的手軽に行うことができることは大きなメリットだ。企業と規制当局(各省庁)との間を取り持ち、実証計画を立てて実行し、エビデンスを集めて法律的解釈まで伴走して考えていくのが、松山氏ら内閣官房の一元窓口である。

企業はまず、一元窓口に問い合わせ、事業や実証のプラン、課題を話し合う。そこから各省庁に向けた必要な調整を行い、実証につなげる。実証に移ったら、今度は実証の中で得られたデータや浮かんできた新たな課題に関しても、内閣官房と対話しながら改善をすることができる。このようなハンズオンの支援がこの仕組みの肝となっている。

「事業者さんからご相談いただいたら、その実証計画を関係省庁に当てる前にまず我々から指摘しながら、その事業の意義も含めてやり方や実証内容を詰めていきます。その内容を各省に展開し、ある程度固まってきたら内閣府に設置されている新技術等効果評価委員会の中で、有識者の方々からご意見をいただいて、実証に進むというフローで進めていきます」(松山氏)

このように、比較的ライトな手続きを経ながらも、各省庁を巻き込んで正式に実効性が担保された状態で進めていけることが規制のサンドボックス制度の大きなメリットである。

まさに今、法改正に向けて動き出しているのがモビリティ分野だ。

最近は都市部などで「電動キックボード」が走っているのを見かけた人もいるかもしれない。これは規制のサンドボックス制度がきっかけとなっている。

サンドボックス制度では、安全性を検証するために、事業者が大学の構内で走行実証を行い、その結果を踏まえて、規制の特例措置を設けて事業を推進していく「新事業特例制度」にステップアップした。そして今、道路交通法や道路運送車両法といった関係法令の見直しに向けた議論が始まっているという。

安全にかかわる領域ながら、モビリティの形は時代に応じて変わっていく。「規制のサンドボックス制度をきっかけに取組みが進み、エビデンスを積み上げて安全性を確かめ、法整備の流れが生まれてきた。そういう意味で象徴的な事例です」と松山氏は胸を張る。

相談から実証までの期間はケースバイケースだ。数ヵ月で実証まで進む案件もあれば、1年近くかかる案件もあるという。ただ、企業側の準備次第でその期間を短くすることは可能なようだ。

「法律的な観点、社会的な意義なども含めて、進め方は話し合いながら案件ごとに決めていく形となります。ただ、ご相談いただく時点で、事業者さん自身の課題意識や実証の構想の明確さによって実証まで進む時間の長さに影響しているのが正直なところです。また、実証実験の中で、もう少し期間を延ばしたい、やり方を少し変えたいというご要望が出てきたら、計画の変更もできる形になっています」(松山氏)

このような柔軟性を備えている点は、企業にとっても着手しやすい取組みになっているのではないだろうか。

成功例が生まれるほど案件数も増えていく“事業創出の苗床”に

本制度に関して当面の課題は、制度をより多くの事業者に認知してもらうことだという。「制度の理解だけでなく、実証を行った結果もしっかりと発信していく必要がある」と松山氏は課題を口にした。

実証事業はいろいろな分野で行われ、規制緩和や改革につなげることが重要だ。そのためには、具体的な成功事例を世の中に打ち出す必要がある。ある領域の案件によって法改正につながったというケースが生まれたら、そのことを呼び水にして同領域の別案件が集まってくる。

実際にこのようなケースが出始めているという。成功例と案件増加の好循環を生み出せるかどうかが、日本の規制改革の今後を決めるのではないだろうか。

実証によりエビデンスを集めていくことで、結果的に事業の成功率は高まる。松山氏はここで、本制度の本質的な効果と企業へのメッセージを述べた。

「『規制のサンドボックス制度』という名称上、どうしても規制改革的なイメージが先行してしまうのですが、我々は事業者さんの活動をより前進させる役割を担っていると思っています。よりクリアに先を見通しながら、新しい事業計画を作っていくことにも、この制度は活用できますので、規制的な問題を抱える領域や事業のみならず、「新事業の創出」に大きく資する取組みになるでしょう」(松山氏)

松山氏らが目指すのは、新事業がどんどん生まれていく“事業創出の苗床”のような機能となることだ。あらゆる領域で規制のサンドボックス制度が活用されれば、日本の産業界の進化は今よりももっと加速することになるだろう。

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