【第十三回】女性の活躍は企業の存続にかかわる重要事項 今、企業に求められていることとは?
(画像=THE OWNER編集部)

令和元(2019)年、女性活躍推進法が改正され、企業が自社の女性活躍に関する行動計画(一般事業主行動計画)について、策定義務化の範囲が拡大されたことをご存知だろうか。その施行が今年、令和4(2022)年4月1日に迫っている。

これは「企業に女性活躍への取り組みをより意識づけたい」という政府の意向の表れだ。人口減少フェーズの日本において、女性が働き続けることは、日本経済としても企業の労働力確保においても重要な課題である。

その課題解決に向けた活動に、女性就業支援全国展開事業がある。主に女性の就業支援や健康管理支援に関する相談受付や資料提供、講師派遣などを行っている厚生労働省の委託事業だ。この取り組みを推進している厚生労働省、雇用機会均等課長・石津克己氏に、女性活躍が進む企業の事例と、今経営者が行うべき取り組みや心がけについて聞く。

石津
石津克己(いしづ・かつみ)
厚生労働省 雇用環境・均等局 雇用機会均等課長。愛媛県出身。1995年、労働省(当時)に入省。厚生労働省では、雇用均等・児童家庭局短時間・在宅労働課課長補佐としてパートタイム労働法の改正に、職業安定局派遣・有期労働対策部企画課課長補佐として非正規労働者対策の取りまとめに関わる。在イギリス日本大使館一等書記官、総務省人事・恩給局(現内閣人事局)調査官、内閣府子ども・子育て本部企画官など他省庁への出向を経て、厚生労働省職業安定局外国人雇用対策課長などを歴任。民間企業(電機メーカー)に出向して営業に従事した経験あり。昨年(2021)年9月から現職。

女性活躍に向けた法律の整備が進む

本年(2022年)4月1日から施行される改正女性活躍推進法とは、同法に基づく「行動計画の策定」等が義務づけられる事業者の範囲が拡大するものだ。これまで、「行動計画の策定」等は、常用労働者数301人以上の企業に義務づけられていたが、今回の改正で常用労働者数101人以上の企業まで義務対象が広がることとなる。

義務化されているのは「行動計画の策定」等であり、決して女性の採用や管理職登用を義務づけるものではない。企業の女性の能力を引き出そうとする取り組みに対する意識をより高めるため、義務の対象を拡大させた形だ。

国はこれまでも、女性活躍推進を重要課題と位置づけ、法整備や事業展開を続けてきた。昭和60(1985)年に制定された男女雇用機会均等法は現在までに何度も改正を重ねられており、平成11(1999)年には男女共同参画社会基本法が成立している。

厚生労働省は平成23(2011)年度から「女性就業支援全国展開事業」を実施しており、さらに平成27(2015)年に女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)が制定された。

女性就業支援全国展開事業では、Webサイト「女性就業支援バックアップナビ」を運営し、全国の企業や自治体への講師派遣や資料提供を行っている。また、令和3(2021)年1月には「働く女性の健康応援サイト」も立ち上げ、情報発信を強化している。

なぜ、金融保険業は女性割合が高いのか?

以上のように取り組みは進むが、依然として日本では「女性の活躍をもっと推進しなければならない」と言われ続けている。それは裏を返せば、女性が十分に活躍できる社会が実現できていない現状があるということだ。

数十年前と比べれば、女性の就業率は高まっており、職域や就業分野もどんどん広くなっているものの、さらなる環境整備が必要だと政府は考えている。日本の女性の就業状況をヨーロッパ各国と比較し、石津氏は「率直に、見劣りする現状がある」と語る。

例えば、女性就業率や女性管理職の割合は、各国と比べて低水準だ。日本が長年解消できないでいるM字カーブ(女性就業率が出産や育児を迎える年齢で一旦低下し、40代前半でもう一度上昇する現象)は、フランスでは20年以上前、オランダでは10年以上前に解消されているという。

これらの国は「他国に比べ、もともと女性活躍に優位な土壌を持っていた」というよりは、「男性中心の働き方から脱却するための取り組み開始が日本よりも早かったのだろう」と石津氏は推測する。どの国も同じように、産業革命以降、工業化による男性中心の働き方は存在した。だが、それをいち早く社会課題として議題に挙げ、取り組んできた結果がこのような差を生んでいるのだ。

日本において、女性の割合が高い職種は、(1)医療福祉、(2)金融保険、(3)生活関連サービスや娯楽(サービス業)である。管理職の割合が高い職種は、(1)医療福祉、(2)生活関連サービスや娯楽、(3)教育学習支援である(令和2年度 雇用均等基本調査より)。

医療福祉分野であれば、看護師や介護士、医療事務などは女性のイメージが強い。接客業務の多い生活関連サービス業についても、女性が多く従事していることは想像がつきやすい。一方で、金融保険分野が2番目に高い割合になっている理由は何なのだろうか。石津氏は実体験から、このように語る。

「金融保険業は間違いなく、意識的に女性活躍を推進しています。なぜなら、キャリアを中断せずに長く勤めていただくことがこれらの企業にとって重要なことだからです。人の行動は自然現象ではありませんので、やはり『意識』をして女性活躍に向けた努力をされている企業は、女性の割合が高くなっています」(石津氏)

どの業種業界でも、人間がAIに取って替わられないためには、高い知識や技能を身につける必要がある。そのため、求められる知識や技能は高まる一方だ。特に金融保険業は、規制の変更に素早く対応していくことが重要である。

そのためには、キャリアを中断せずに、知識や技能を高め続けなければならない。そこで、男女問わず優秀な人材を採用・育成して能力を高めてもらうことに関して、経営者が高い意識を持っている企業が多いのが金融保険分野なのだという。

「男性の仕事」というイメージが強い業界でも、少しずつ取り組みが進む

ここで実際に、女性活躍を推進している取り組み事例を聞いた。

医薬品開発受託事業を行う株式会社新日本科学では、15年ほど前から社長自ら健康対策を企画し、「従業員の健康第一」のトップメッセージを実現している。

具体的には、乳がん、子宮がん検診(任意検診)の導入と事前の健康教育を実施した。さらに、社員からの要望で、女性のライフステージごとのヘルスケアや生活習慣についてのセミナーを行っている。その他にも、メンタルヘルスの相談窓口設置や、個別保健指導など、性別を問わない健康対策に取り組んでいるという。

観光分野ではもともと、女性の割合は高めではあるが、「管理職が少ない」という課題がある。これに対し、観光庁は「観光分野における女性活躍」に取り組み始めたという。「観光分野における女性活躍事例集~あなたと輝くこれからの観光~」を発刊し、事例の収集と発信に努めている。

また、これまでは「男性の仕事」というイメージが強かった業界にも、女性活躍を推進している企業がある。例えば建設業ではこれまで、女性用トイレや女性用更衣室がない企業も少なくなかった。しかし、女性用の設備を整え、監視カメラなどのセキュリティ面も充実させる建設会社が出てきている。

「中高年層の方々は、建設現場で女性が働くことを想像できない方が多いかもしれませんが、実際には、建設現場で働く女性は徐々に出てきています。経営者や現場の意識を変えていただくためには、前例にとらわれない取り組みが非常に大事であると思います」(石津氏)

情報通信事業の株式会社PHONE APPLIは、従業員の女性比率は高くはないが、コミュニケーションが取りやすいよう工夫しており、相談しやすい職場づくりを推進しているという。

企業はいま何をすべきか?

人口減少が進む日本では、今後労働者人口の激減が待っている。そんな未来を前に、働く意欲のある女性に働き続けてもらう仕組みや環境だけでなく、十分な能力開発を行う機会を提供することが重要だ。そのために企業は、これまでの業界慣習にとらわれない取り組みを考えなければならない。

とはいえ、「どんな取り組みをしたらよいのだろうか……?」と迷うこともあるだろう。その場合は、革新的な取り組みを行い、成果を挙げている企業の事例を、「女性就業支援バックアップナビ」「働く女性の健康応援サイト」や、各省庁のWebサイトなどで見てみるとよい。

また、厚生労働省では女性就業支援全国展開事業とは別に、本年(2022年)4月から企業に対してコンサルティング等を行う「民間企業における女性活躍促進事業」を新たに始める。これを活用してもいいだろう。

最後に今後の展望を聞くと、石津氏はこのように結んだ。

「建設業であれば女性の採用、金融保険業であれば、さらなる女性の管理職登用が課題です。ですがこれは克服できます。ご紹介したような先行事例がありますし、私どもは常に良い事例を収集しています。このような事例を全国津々浦々の経営者の方々に届け、『我々の会社でもできるかもしれないな』と思っていただけるように尽力していく所存です」(石津氏)

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