米中貿易戦争、損をしたのはどちら? 実は「敗者」はアメリカの消費者?
(画像=mrjo_7/stock.adobe.com)

米中貿易戦争の勃発から早4年が経過する。「第一弾の合意」が終了した今も、両国の摩擦が払しょくされたとは言い難い現状だ。懐の探り合いが続く中、その影響を分析した報告書が多数発表されている。実際に関税の引き上げなどで損をしているのは、どちらの国なのだろうか。

トランプ政権で火がついた米中貿易戦争 

2018年3月、当時の米大統領トランプ氏が火蓋を切った米中貿易戦争は、瞬く間に両国双方の報復合戦に発展した。

「対中貿易赤字および貿易の不均等の解消」を公約に掲げていたトランプ政権は、輸入製品に関税を課すことで価格を引き上げて自国の製品が売れやすい環境を創出し、それにより雇用を拡大しようと考えたのだ。

中国が「目には目を歯には歯を」で対応したことで摩擦はさらに悪化し、追加課税対象の拡大や中国大手企業への制裁措置などによって、両国の貿易関係が一時は泥沼化した。

その後、休戦と決裂を経て、2020年1月の米中貿易会議で「第一弾の合意」がなされた。2021年末までの2年間にわたり、中国側が米国からの輸入を少なくとも2,000億ドル(約23兆671億円)増加させることや、知的財産権の保護などが織り込まれた。公約を見る限り中国側が妥協した感が強いが、疑問視されていたのは、合意成立当初から「中国は本当に約束を守るのか」の一点だ。

中国、対米輸出で過去最高記録更新

「第一弾の合意」期間の2年で明らかになったことの1つが、両国の輸入量と輸出量の差である。

確かに、中国は合意に従って対米輸入を拡大したが、目標額には程遠い現状だ。ピーターソン国際経済研究所のチャド・バウン氏が2020年1~2021年11月までの貿易データから算出したところ、中国の米国からの総輸入額は目標を40%下回る3,522億ドル(約40兆6,163億 円)だった。農作物は17%、工業製品は41%、エネルギーは62%と、それぞれの目標を下回った。

対象的に、中国の対米輸出はコロナ禍の巣籠需要が追い風となった。2021年上半期の輸出額は前年同期比42.7%増の2,530億ドル(約29兆1,752億円)、2021年の対米貿易黒字は前年から25%増えて、過去最高の3,966億ドル(約45兆7,346億円)を記録した。

関税引き上げの影響は年間約46兆円以上?

過去2年間で、米国は中国からの輸入品の関税率を平均3%から19%、中国は米国からの輸入品に対する関税率を平均8%から21%へ引き上げた。その影響はビジネスだけではなく、消費者の生活にも及んでいる。

米政策課題の調査・分析を行う政策機関、アメリカン・アクション・フォーラムのデータおよび政策アナリスト、トミー・リー氏らが2020年の輸入水準に基づいて算出した予想によると、関税の引上げが輸出入に影響を与えている影響は年間4,000億ドル(約46兆 1,275億円)以上、消費者のコストへの影響は年間510億ドル(約5兆 8,810億円)にのぼる。

同氏らは「輸入、輸出の減少とともに消費者の選択肢も減り、物価をさらに押し上げている」と、「貿易戦争が貿易水準に顕著な影響を及ぼしている」現状に懸念を示している。

真の敗北者は米消費者?

2020年1月、ニューヨークタイムズ紙は「トランプの関税を払っているのは中国ではなく、米消費者だ」という見出しの記事を掲載した。ニューヨーク連邦準備銀行のエコノミスト、メアリー・アミティ氏らの分析によると、「輸入税のほぼ100%が米国の消費者に転嫁されている」というのだ。

東アジア政策研究センターのライアン・ハス氏らは、貿易戦争を介して「対中貿易赤字の縮小」というトランプ氏の目的は達成されたものの、総体的な貿易赤字は依然として減少しなかった点を指摘している。「トランプの中国に対する一方的な関税は貿易の流れを中国からそらし、結果的に欧州やメキシコ、日本、韓国、台湾との米貿易赤字を拡大させた」。

一方では、中国側がファーウェイを含むテック企業への制裁措置のほかに、それなりの経済的代償を支払っている証拠を示す分析結果もある。

Tuckビジネススクールのダヴィン・チョー准教授らは研究論文の中で、「中国の人口の70%は米国の関税引き上げの影響を受けていない。しかし、最も影響を受けた層の1人当たりの収入は2.52%減少し、製造業の雇用は1.62%縮小した」と見積もっている。

「勝敗を見極めるのが難しい」理由

さまざまな専門家の見解をまとめると、「現時点において勝敗を見極めるのは難しい」という意見が多い。公表されているデータや数字の信憑性に疑問があり、判断が困難なためだ。

関税申告の不透明さは、その典型例である。米企業が関税負担を減らす意図で中国からの輸入額を低く申告し、中国企業が付加価値税(VAT)の還付を増やす意図で輸出額を多く申告している可能性が指摘されている。

連邦準備制度のエコノミスト、ハンター・クラーク氏らは、2020年の米国の対中赤字は3年前と比較して880億ドル(約10兆1,467億円)減ったが、そのうち550億ドル(約6兆3,420億円)は米企業による関税回避分、120億ドル(約1兆3837億円)は中国企業によるVAT還付水増し分だと推測している。

トランプ氏の思惑から大きくはずれ……

貿易戦争は「米中貿易の不均等が是正される」というトランプ氏の思惑から大きくはずれ、自国の消費者の負担を増大させている。「第一弾の合意」で中国が目標を完全に達成できなかったことから、米政府が一部の関税を復活させる可能性が論じられているが、そうなれば再び報復合戦が繰り広げられることになる。

果たして「勝利の女神」が米国に微笑む日は、訪れるのだろうか。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

無料会員登録はこちら