スリランカ、中国のワナで4兆円の借金 石油の代金を「紅茶」で支払い!?
(画像=andriano_cz/stock.adobe.com)

中国が進める巨大経済圏構想「一帯一路」が仕掛ける「債務のワナ」に陥った国が、また一つ浮上した。対外債務が約4兆円に膨らんだスリランカだ。新型コロナの打撃で極度の外貨準備金不足になった同国は、イランから輸入する石油の対価を国産の紅茶で支払うという窮地に追い込まれている。

一帯一路が仕掛ける「債務のワナ」

2013年に習近平国家主席が打ち出した一帯一路構想は、アジアと欧州の陸路をつなぐ物流ルートを構築して貿易活動を活発化させ、参加国の経済成長につなげることが狙いだ。2021年12月の時点で、世界144の国と地域が参加する巨大国際プロジェクトに成長した。

構想実現に向け、中国は過去20年間にわたり、チャイナマネーを湯水のごとく低・中所得国の発展プロジェクトに融資してきた。しかし、プロジェクトが進むにつれ、中国の真の狙いが浮き彫りになり始めた。

自国の発展を望む低・中所得国にとって、チャイナマネーは「馬の鼻先に人参」だ。これらの国を高金利の融資で借金づけにすれば、利息でボロ儲けできる。貸付先の国がデフォルト(債務不履行)に陥った場合は、その国の覇権を握れば良い。どちらに転んでも、中国は笑いが止まらないというわけだ。まさに「債務のワナ」である。

2017年末までに中国が融資した1万3,427件の開発事業を分析した国際開発研究所AidDataによると、融資先である42ヵ国の負債総額は国内総生産(GDP)の10%を上回り、バランスシート(貸借対照表)に記録されていない「隠れ債務」は推定3,850億ドル(約43兆 8,444億円)にのぼる。

一帯一路の幻想 自国発展を夢見たスリランカ

スリランカは一帯一路で債務を膨らませ、デフォルトの危機に瀕している国の1つだ。

1983~2009年にわたり続いた内戦終結後、同国は主力の農業や繊維業、観光産業を軸に持続的な経済成長を維持してきた。しかし、さらなる成長を目指す上で、経済基盤となるインフラの開発や向上は避けて通れない。どうにかして資金を捻出する必要に迫られ、一帯一路に幻想を抱いた他の発展途上国同様、中国の手に落ちた。

中国から融資を受けて、南部ハンバントタ港や同国最大の都市コロンボの港湾開発事業など、次々と発展プロジェクトを展開していった。BBCなどのメディアによると、同国が過去10年間にわたり、インフラ投資の名目で中国から受けた融資は総額50億ドル (約5,693億6,497万円)を上回る。

「借金のカタ」に港引き渡し 石油代は紅茶で

思惑とは裏腹に、スリランカはたちまち返済に窮した。2018 年には「借金のカタ」に、ハンバントタ港を中国の国有企業に引き渡す羽目に陥った。同港の運営権は今後99年間にわたり、中国が握る。

そこへパンデミックが拍車をかけた。観光産業は閑古鳥が鳴いている。たちまち外貨が不足し、2021年11月の準備高は16億ドル(約1,821億9,761万円)とコロナ禍前のおよそ5分の1に縮小した。

外貨がなければ輸入品の支払いが滞る。12月にはイラン産の石油輸入代金2億5,100万ドル(約285億7,671万円)の支払いに窮し、毎月500万ドル(約5億6,928万円)相当の国産紅茶を納品することで合意した。

スリランカの対外負債は350億ドル(約3兆9,866億 円)だ。2022年に返還すべき債務は、総額約45億ドル~70億ドル以上(約5,124億3,839万~7,970億4,207万円)と推測されている。

同国の中央銀行は、すべての債務返済が満たされることを投資家に繰り返し保証し、外貨準備高が12 月には31億ドル(約3,530億1,311万円)まで回復したことで懸念の払しょくを図っているが、どうひいき目に見ても楽観視できる状態ではない。

食品や必需品の価格高騰により、国民の生活にも影響が出始めている。同月のインフレ率は12.1%と、わずか1年間で4倍に急上昇した。通貨のルピー安が続く中、格付企業フィッチレーティングは「デフォルトの可能性が高まった」として、スリランカの格付けを引き下げた。

中国外相、返済再考嘆願にはノーコメント 

追い詰められた同国のゴタバヤ・ラジャパクサ大統領は2022年1月9日、同国を訪問していた中国の王毅国務委員兼外相に、対中債務返済計画の再考と2021年の輸出品目35億ドル(約3,985億7,819万円)に対する関税条件の緩和を要請した。

王外相はこれに対し、「両国は地域包括的経済連携、中国を含むアジア太平洋の自由貿易協定、および中国市場の広大さから利益を得るよう努めるべきだ」と述べ、中国とスリランカの間の自由貿易協定についての協議を再開するよう求めた。

さらに、スリランカが一帯一路イニシアチブの恩恵を受けている点を強調し、今後もスリランカが「一時的な困難」を乗り越えるために支援を継続する意向を明らかにした。しかし、肝心の債務返済についてはノーコメントだった。「債務のワナ」については、事実無根と反発した。

ウォール街にも飛び火する?

スリランカは、1月に満期を迎えた5億ドル(約569億3,443万円)の国際ソブリン債を償還したが、「このような動きが自国の危機感を強めている」との見方もある。

中国への依存度が強まる懸念もさることながら、同国の対外債務のほぼ半分が市場での借入れであること、2022年返還期限を迎える45億ドルの半分以上がドル建て債券に絡んでいる点も、ウォール街の警戒を強めている。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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