Microsoftが約600億の過去最大「買い物」へ ゲーム大手Activisionを欲しい理由
(画像=theartofpics/stock.adobe.com)

Microsoftが過去最大のM&A(合併・買収)に乗り出した。米ゲーム大手Activision Blizzard(アクティビジョン・ブリザード)の買収に687億ドル(約7兆8,200億円)を投じるというのだ。買収が実現すれば、ゲーム業界でテンセントとソニーに次ぐ売上規模となる。

Activision Blizzardの買収計画を発表

そもそも、アクティビジョン・ブリザードとはどのような企業なのか。同社はゲーム会社であり、戦争をテーマとしたFPS(1人称視点シューティング)である「Call of Duty(コール・オブ・デューティ)」などのゲームを展開している。

アクティビジョンとヴィヴェンディ・ゲームズというゲーム企業2社が合併する形で2008年に設立され、数々のヒット作品を生み出しながら事業を拡大してきた。eゲームの世界でも極めて存在感の高い企業として知られている。

アクティビジョン・ブリザードの買収は、現時点では両社の取締役会が合意に達した段階だ。買収が完了するには、アメリカの規制当局からの承認と、買収される側となるアクティビジョンの株主からの承認が必要だ。

そのため、2022年中には買収は終わらない見込みで、完了は2023年にずれ込むとみられる。

Microsoftが現在展開しているゲーム事業は?

続いて、Microsoftのゲーム事業に関してもおさらいしておこう。Microsoftはゲーム機事業としては「Xbox」シリーズを展開している。それに加えて、ゲームソフトのオンライン配信サービスをサブスク展開していることでも知られる。「Xbox Game Pass」だ。

このサブスクサービスに加入すると、パソコンやスマートフォン、タブレット、Xboxのゲーム機を使ってさまざまなゲームを楽しむことができる。100種類以上のゲームタイトルが用意されており、特典などが異なる3つのプランが月額850~1,100円で用意されている。

このようにゲーム事業を展開するMicrosoftがアクティビジョン・ブリザードの買収に乗り出したのは、簡単に言えばゲーム事業のさらなる強化に他ならない。

例えば、MicrosoftがXbox Game Passのラインナップにアクティビジョン・ブリザードの人気ゲームを追加すれば、確実にサブスク会員は増えるはずだ。

これまでにもゲーム企業を買収

Microsoftはこれまでにもゲーム関連企業を買収によって獲得してきた経緯がある。

例えば2014年には、スウェーデン企業のゲーム開発企業モヤンを25億ドル(約2,800億円)で買収した。2021年にはアメリカ企業のベセスダ・ソフトワークスを75億ドル(約8,500億円)で買収している。

Microsoftはこのようにして、自社のゲームプラットフォームに人気ソフトを続々と取り込んできた。そして、次に目をつけたのがアクティビジョン・ブリザードであるというわけだ。Microsoftは今後も人気ゲームの制作会社をどんどん買収していくのだろうか。

そしてこの状況に戦々恐々としているとみられるのが、ソニーだ。冒頭触れたように、Microsoftがアクティビジョン・ブリザードの買収を終えれば、Microsoftのゲーム事業の売上高はテンセントとソニーに次ぐ規模となる。

そして今後、Microsoftが莫大な資金力を背景にゲーム事業をさらに拡大すれば、ゲーム事業の売上高でソニーがMicrosoftに抜かれることも現実味を帯びてくる。

このような予感は、ソニーの株主たちも感じているようだ。Microsoftがアクティビジョン・ブリザードの買収を目指すことを発表した翌日、ソニーグループの株価は12%超も下落した。今後、ゲーム業界の勢力図がどのように変わっていくのか、注目だ。

「メタバース」事業の強化も視野

ちなみに、Microsoftによるアクティビジョン・ブリザードの買収は、「メタバース」事業の強化を視野に入れてのことでもあるようだ。メタバースとは簡単に言えば、インターネット上の仮想空間のことで、今後市場規模が拡大するとみられている。

アクティビジョン・ブリザードにはメタバースの開発に役立つ人材が多数在籍しているとみられ、Microsoftはこの点にも目をつけた。同社のSatya Nadella最高経営責任者(CEO)もそのことを認めている。

人気ゲームの獲得、そしてメタバース事業の強化……。この2つの恩恵を受けられるからこそ、687億ドルという巨額の買収額が提示されることになったのだろう。この金額で買収が実現すれば、MicrosoftのM&Aの金額としては過去最大となる。

まずはこのM&Aについて、規制当局の承認が下り、計画通りに2023年に無事買収が完了するのか、ウオッチしておきたい。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

無料会員登録はこちら