日立、1兆円買収から半年 過去の失敗の二の舞は避けられるか
(画像=Eagle/stock.adobe.com)

日立がアメリカのIT企業を約1兆円で買収してから半年が経った。過去に日立が行った買収の中でも最も大きな金額での買収で、日立のブランド力、そして競争力を高めるためにも、失敗は許されない。日立は過去に企業買収で手痛い失敗をしている。教訓は生かされるか。

日立製作所がグローバルロジックを買収

日立製作所は2021年7月、米グローバルロジック(GlobalLogic Inc.)の買収が完了したことをプレスリリースで発表した。

これにより、グローバルロジックと同社の親会社であるグローバルロジック・ワールドワイド・ホールディングス(GlobalLogic Worldwide Holdings)は、日立製作所のアメリカの子会社である日立グローバルデジタルホールディングス(HGDH)の完全子会社となった。

日立製作所がグローバルロジックを買収した狙いは、社会インフラのDX(デジタル・トランスフォーメーション)に関する事業の世界展開を加速させることだ。日立製作所はIoTサービスとして「Lumada(ルマーダ)」を展開しており、Lumadaをグローバル展開する上でグローバルロジックの強みが役立つという。

グローバルロジックとはどのような企業?

では、グローバルロジックとはどのような企業なのか。同社は2000年に創業し、展開しているサービスや技術は複数あるが、既存の製品に新たにソフトウェアを組み込む技術に定評があり、その技術の開発・展開を支える人材の層が厚いことで知られている。

日立製作所のLumadaは社会インフラのDXを目指すもので、グローバルロジックのこのような技術や人材がLumadaのグローバル展開に寄与すると日立製作所は判断したようだ。

両社のCEO「人々のQoL向上」「社会に大きな価値を」

買収完了当時、日立製作所の東原敏昭CEO(最高経営責任者)とグローバルロジックのシャシャンク・サマントCEOは、それぞれコメントを発表している。

東原CEOは「(両社は)一体となって世界中のお客さまとの協創を通じ、Lumadaを活用して『環境』『レジリエンス』『安心・安全』の重要領域に注力することで社会やお客さまの課題解決に取り組み、人々のQoL向上に貢献していきます」と述べている。

「環境」「レジリエンス(※回復力)」「安心・安全」はこれまでも日立製作所が掲げてきたキーワードで、近年は社会イノベーション事業において、この3領域を進化させることを目指している。グローバルロジックの買収もこの方針の延長線上にあるということだ。

一方でグローバルロジックのサマントCEOもこの方針を下支えすることに意欲を示し、「私たちの事業領域とデジタルにおける能力と経験を融合させ、お客さまには革新的な成果を、社会には大きな価値をもたらすことを切望しています」とコメントしている。

日立の新たな巨額買収を不安視する声も

日立製作所によるグローバルロジックの買収についてここまで説明してきた。プレスリリースの内容や両社のCEOのコメントからは、今回の買収が日立製作所に大きな成功をもたらすことは確実なように感じる。

しかし、日立製作所は過去に買収で大きな失敗をしていることから、日立製作所の株式を保有する投資家からは、買収後の先行きを不安視する声もある。

過去にIBMのHDD部門の買収で手痛い失敗

日立製作所は2003年に、米IT大手IBMのHDD(ハードディスクドライブ)部門を買収している。買収額は約20億5,000万ドル(約2,300億円)と、グローバルロジックの買収額の4分の1以下の金額だが、当時の日立製作所にとっては過去最大の金額での企業買収だった。

日立製作所としてはまさに企業としての威信をかけた買収となったが、この買収は結果として失敗に終わった。買収後、営業赤字が続く状況に陥り、最終的にHDD部門を米ウェスタン・デジタル社(Western Digital)に売却している。買収から8年後の2011年のことだ。

買収前の2010年12月期には約570億円の黒字を計上していたが、それはリストラ効果などの結果であるとされている。日立にはこのような苦い思い出があり、なんとしてでも同じ轍(てつ)を踏むことは避けなければならない。

さらなる飛躍は可能か!?

日立製作所の株価は2020年のコロナショックで一度大幅に下落したものの、コロナショックを除けば2019年に入ってから現在まで、株価は右肩上がりの状況を保っている。時価総額は現在6兆4,310億円で、日本市場においては第18位だ。

グローバルロジックの買収完了が発表されたあとは、株価がやや落ち込んだが、すでにその前の水準にまで回復している。株価はさまざまな要因でも動いているため一概に判断はできないが、株式投資家の日立製作所への注目度は近年高まっていることは確かなようだ。

買収はゴールではなくスタートである。グローバルロジックとの協創で日立製作所がさらなる飛躍を遂げていけるか、引き続き注目したい。

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文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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