IPOを実施するための準備、手順は?
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IPOは、Initial Public Offeringの略で「新規株式公開」を指す言葉だ。非上場企業が株式上場することで幅広く資金を集めることができることに加え、企業の知名度が上がるなどのメリットがある。企業がIPOを視野に入れている場合、上場を希望する時期のどのぐらい前から準備を始めればいいのだろうか。本稿では、企業がIPOを行う場合の準備から上場までの流れを詳しく解説する。

目次

  1. IPOを行うメリットとは?
    1. メリット1:知名度が上がる。世間の信用を得られる
    2. メリット2:財務の健全化ができ、資金調達がしやすくなる
    3. メリット3:従業員のモチベーションアップができる。人材確保がしやすくなる
    4. メリット4:社内の制度が整う
  2. IPOの準備を始める時期と内容
    1. ショートレビューについて
    2. IPOプロジェクトの発足
    3. ショートレビューで指摘された項目の改善
  3. 【上場2期前】IPOのための体制づくり
  4. 【上場1期前】主幹事証券会社の選定など
  5. 上場申請
  6. IPOのデメリット
    1. デメリット1:上場までの手続きが煩雑
    2. デメリット2:コストがかかる
    3. デメリット3:市場や投資家から経営状態を厳しくチェックされる
  7. まとめ

IPOを行うメリットとは?

まずは、企業がIPOを行うメリットについて確認しておこう。

メリット1:知名度が上がる。世間の信用を得られる

株式市場に上場することで今まで自社と関わりがなかった人たちからも知られることとなり「知名度が向上する」という点はメリットだ。知名度が上がると世間からの信用も得やすくなる。

メリット2:財務の健全化ができ、資金調達がしやすくなる

IPOの手続きの過程では「きちんと利益が出ているか」「不明なお金が出ていないか」など財務状況についてのチェックもある。チェックで指摘された事項の改善により、財務状況の健全化にもつながる。財務状況がよくなると資金調達もしやすくなるだろう。また上場で信用度が向上するため、金融機関の融資を受けやすくなる。

メリット3:従業員のモチベーションアップができる。人材確保がしやすくなる

株式上場し信用度が高い企業になることは、従業員のモチベーションアップにもつながる。また人材採用の面からも人が集まりやすくなる点もメリットだ。IPOの審査の過程では、社内の内部管理体制についてもチェックされる。「上場審査に通る=コンプライアンスを遵守する企業と認められた」といった一面もあるため、従業員にとっても働きやすい企業となっているはずだ。

働きやすい企業であれば従業員の定着も実現しやすい。

メリット4:社内の制度が整う

IPOは、希望すればどんな企業でも行えるわけではない。IPOの基準を満たすためには、内部管理体制の整備も求められる。チェック後、指摘された点を修正することで自然と社内の制度も整い経営の健全化を図ることが可能だ。今まで「経営陣以外はどのような企業運営を行っているかを知らない」といった企業でも経営の透明化ができる。

そのため従業員や一般の人々も経営状態や企業運営についてのチェックが可能になる。

IPOの準備を始める時期と内容

IPOを行いたい場合は、上場を希望する時期の3期以上前からの準備が必要だ。なおIPOは、自社内だけで準備できるものではない。IPOコンサルタントへの依頼や会計監査を受けるための監査法人選定など、準備は多岐にわたる。また現在在籍している従業員だけで監査の受け入れや上場に向けての社内規定の作成が難しい場合は、対応できる人材の確保も必要だ。

まずは、IPOコンサルタントに依頼し「現時点でIPOまでに何が足りないか」「具体的な改善点はどこなのか」洗い出す作業から始めたい。

ショートレビューについて

上場の3期前ごろには「ショートレビュー」も受けておきたい。ショートレビューは「予備審査」とも呼ばれている。IPOに向けて企業の改善点を短期間でチェックするものだ。通常は、1週間程度で行われ調査結果は報告書として渡される。ショートレビューは、IPOを行うために何をしたらいいのか全く分からない企業が、何を見直すべきなのかを知る第一歩となるだろう。

ショートレビューでは、主に以下のような点をチェックされる。

  • 経営体制や内部管理体制が整っているか?
  • 会計管理がきちんとできているか?
  • 関係会社などとの取引状況
  • 希望する上場時期、上場する市場は最適か?

証券取引所では、IPOを希望する企業が一定レベルに達しているかを審査する。そのためショートレビューの時点で「上場基準に全く達していない」と落ち込む必要はない。上場申請を正式に提出するまでに、まずはショートレビューを受けて現時点での改善点を見つけておこう。

IPOプロジェクトの発足

IPOにかかる作業は、煩雑となるため、別の業務を担当している従業員が片手間にできるものではない。IPO準備専属で動ける従業員を集めた「IPOプロジェクト」を発足させることがおすすめだ。

ショートレビューで指摘された項目の改善

ショートレビューで指摘された事項があればできるところから改善に向けて動いていきたい。特に財務内容で指摘されることが予測されるため、対応に時間がかかる「赤字を出している関連会社の整理」や内部管理体制が問われることになる「問題がある役員の退任」については、早急に手をつけることをおすすめする。

【上場2期前】IPOのための体制づくり

上場2期前では、ショートレビューで指摘された項目の改善がなされているかを監査法人がチェックする。この時期には、指摘点を改善し実際に運用を始めていることも重視される傾向だ。もし改善がなされていない場合は、希望の時期よりもIPOが延びる可能性もあるため、注意しておきたい。また引き続き内部管理体制の改善は必要となるため、監査法人とアドバイザリー契約を結んでおくとよいだろう。

【上場1期前】主幹事証券会社の選定など

上場1期前までに主幹事証券会社の選定を行っておくことが必要だ。ただ状況が許すのであれば上場2期前、3期前など早い時期から選定を行うことをおすすめしたい。主幹事証券会社の役割は、主に以下の通りだ。

  • 上場する市場の選択についてのアドバイス
  • 上場に向けたスケジュールの作成
  • IPO企業の成長戦略の分析
  • 証券取引所の上場審査に提出する書類の作成
  • 証券取引所の上場審査についてのアドバイス
  • 株式の売り出し・公募についての助言

特に上場する市場をどこにするかの選定は重要だ。市場によっては、株式の取引量が少なく取引が成立しない場合もある。そうなると投資家に見つけてもらうことが難しくなる。また市場ごとに上場基準が異なる点にも気をつけておきたい。以下では「東証1部」と「東証2部」の上場基準の一部を紹介する。

IPOとは? 準備から上場までの流れを徹底解説

東証1部、東証2部でも上場基準にかなり大きな違いがあることが分かるだろう。自社がどの市場基準をクリアできるかをしっかりと考えてから上場市場を決定しよう。主幹事証券会社は、上場後も情報公開や市場対策についてアドバイスをしてくれる存在となるため、慎重に選びたい。また上場2期前までに改善できていない不備があれば改善することも重要だ。

また2022年4月4日からは、東証1部、東証2部などではなく市場再編が行われ名称も変更となる。
いまからIPOを目指す企業は、新しい市場でのIPOについても確認しておこう。見直し後の市場区分は下記の3通りとなる。

  • プライム市場
  • スタンダード市場
  • グロース市場

上場申請

上場1期前から引き続き改善した経営体制を運用していくことになる。また主幹事証券会社の審査を経て問題がなければ、証券取引所に提出する上場申請書類などの必要書類を作成し上場申請を行う。証券取引所の上場可否の審査には、一般的に2~3ヵ月程度の期間がかかり審査に通過すると上場承認が下り株式上場が実現する。

なお上場が決定したら主幹事証券会社と株式の公募・売り出しについて確認することも忘れてはならない。一般投資家へ公募・売り出しをする場合「有価証券報告書」の作成も必要だ。さらにその後は、自社の関係者や取引先だけでなく一般の投資家も株式を持つこととなるため、チェックの目が厳しくなることも予想される。

引き続き経営の問題点や改善点について監査法人にアドバイスをもらおう。

IPOのデメリット

IPOを行うことで信用度が高まったり資金調達がしやすくなったりする点は、大きなメリットだ。しかし上場を目指す企業としての社会的責任も生じるため、この責任をデメリットと捉える企業もあるだろう。具体的には、どのようなデメリット(責任)が生じるのか確認しておこう。

デメリット1:上場までの手続きが煩雑

上述したようにIPOを検討し始めるのは、上場希望時期の3期以上も前である。そのため上場を考えてから上場までの長い期間監査を受けたり指摘点を改善したりする作業を行わなければならない。またしっかりとした社内規定の策定も必要だ。これらの手続きを煩雑だと感じる企業も少なくないだろう。

デメリット2:コストがかかる

IPOの準備は、自社の中だけで行えるわけではなく監査法人へショートレビューを依頼したりショートレビューで指摘された問題点を改善したりするため、外部の手を借りることが必要だ。具体的には、以下の費用が想定される。

  • 監査費用
  • 株式事務代行手数料
  • 主幹事証券会社への上場準備手数料
  • 主幹事証券会社への上場成功報酬
  • IRコンサルティング料

また自社内でIPOプロジェクト専属の従業員確保も行っておきたい。そのためIPOを検討する前よりもコストがかかってしまうのは確実だ。

デメリット3:市場や投資家から経営状態を厳しくチェックされる

IPOを検討する前の時点で自社の経営状態を気にしているのは、関連会社や取引先、金融機関のみだったかもしれない。しかし上場後証券取引所で株の売買が行われるようになると市場や投資家から経営状態をチェックされるようになる。上場会社は、経営状態や財務状況についての情報公開が必須となるため、少しでも悪化の兆しが見えたら厳しい指摘が来ることも覚悟しておかねばならない。

まとめ

IPOを行い証券取引所に上場すると資金調達がしやすくなるだけでなく企業としての信用度も向上する。そのため「自社を発展させていきたい」「さらに資金調達が必要」と考えている場合は、メリットが大きいだろう。しかしIPOを行うためには、上場を希望する時期の3期以上前からの準備が必要になるなど長い時間がかかる。

またIPOを行う際は、外部の監査法人や証券会社にも協力してもらうため多大なコスト負担も必要だ。メリット・デメリットをよく考えたうえでIPOを行うかどうかについて決定しよう。

著:田尻 宏子
2級ファイナンシャル・プランニング技能士。証券外務員第一種資格保有。証券会社・生命保険会社・銀行等複数の金融機関勤務の後、2016年末からライターとして活動を開始。株式投資・生命保険の加入や見直し・クレジットカードの解説記事や家計管理についての記事、金融用語解説などの分野を中心に多数執筆。また、学生時代に取得した博物館学芸員資格をもとに日本各地の文化・歴史についての記事も執筆する。「とっつきにくい金融情報を分かりやすく正確に読者にお伝えする」「どんな分野でも誰もが読みやすい記事を書く」をモットーとする。
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