バリューチェーンの変化で際立った「テスラとトヨタの明暗」
(画像=BjörnWylezich/stock.adobe.com)

バリューチェーンは企業が生み出す価値の連鎖である。

100年以上続いた化石燃料を主体とした経済活動は、地球温暖化という世界的な社会問題につながり、現在、温暖化ガスを排出しない新たな代替エネルギーによる経済活動の必要性に迫られている。

これまでバリューを生み出していた生産活動の根幹である主要エネルギーが代替エネルギーに置き換わるのである。こうして新たなバリューが生まれると、バリューを生み出す構成要素であるサプライチェーンも当然、見直しや再構築を迫られる。

ここでは、企業環境の変化に応じて最適化が求められるバリューチェーンとサプライチェーンに関して事例を交えて考える。

目次

  1. そもそもバリューチェーンとサプライチェーンの違いは何か
    1. 需要と供給のミスマッチで生まれたサプライチェーンの混乱
    2. 自動車産業に見るサプライチェーンの混乱が意味するもの
  2. サプライチェーン強化のために進む米2大大手企業の提携が意味するもの
  3. 共通価値の創出こそがバリューチェーンのカギ
  4. 経済条件や社会状況を改善しながら競争力を高める必要性

そもそもバリューチェーンとサプライチェーンの違いは何か

サプライチェーンとバリューチェーンの違いは何なのか。まず基本的なことから押さえていこう。

バリューチェーンは製品やサービスが顧客や消費者に届くまで、各企業がどのような工程を経て、付加価値を加えていくことで顧客満足が得られるかという「価値連鎖」の姿である。一方、サプライチェーンは原材料や部品の調達から加工、組み立て、出荷、物流を経て消費者の手元に届くまでの一連の流れ、つまり物の流れと捉えてよいだろう。

つまり、バリューチェーンという企業価値の連鎖を構成する各工程の流れをサプライチェーンと呼んでよい。

整理すると、バリューチェーンとサプライチェーンには次のような違いがある。

<バリューチェーン>

  • 企業が作る「価値連鎖」
  • 生産プロセスの中で生まれる付加価値
  • 単一企業の事業活動内で完結

<サプライチェーン>

  • 原材料や部品等を供給する業者が生み出す「供給連鎖」
  • 供給業者の供給網などモノの流れの優位性の有無
  • 完成までをメーカー等に連なる複数企業で構成

以上から分かるように、バリューチェーンを生み出すうえで需要な構成要素となるのがサプライチェーンであるといえる。サプライチェーン全体の最適化はバリューチェーンの付加価値を高める可能性が高いため、バリューチェーン分析を実施する際はサプライチェーンを勘案しながら分析をする必要がある。

需要と供給のミスマッチで生まれたサプライチェーンの混乱

最近の事例でバリューチェーンの変化で起こったサプライチェーンの混乱を見ていく。

2021年10月13日、米国のバイデン大統領は年末商戦に向けた商品の不足や遅延を防ぐため大統領令に署名し、ロサンゼルス港の24時間体制での稼働を開始するほか、小売業者が物流をめぐる取り組み強化を約束したと発表した。

同時にバイデン大統領は、「サプライチェーン(共有網)を通じた原材料や商品の動きを促進するが、民間部分にも取り組みを強化してもらう必要がある」と指摘した。

米大統領自らサプライチェーンについて言及することは珍しいと海外メディアは報じるが、新型コロナウイルスの世界的蔓延に伴う経済停滞と経済活動再開をする過程で起こった需要と供給のミスマッチによるサプライチェーンの混乱は、世界経済に大きな影を落としている。  

自動車産業に見るサプライチェーンの混乱が意味するもの

2021年に入り、蔓延するコロナ禍から経済活動を再開する過程で、バリューチェーンとサプライチェーンをめぐる大きな問題点が露呈した。前述のバイデン米大統領の発言に象徴されるサプライチェーンの混乱である。典型的な例を自動車産業が直面する課題である半導体を例に挙げて解説してみよう。

・トヨタ自動車の事例
トヨタ自動車が9~10月にかけて大幅な生産調整を余儀なくされ、2021年度の年間生産計画を30万台下方修正したのは記憶に新しい。新型コロナウイルスの感染拡大や世界的な半導体不足で混乱したためだ。

この半導体不足は、日本に先駆けて経済再生を加速させる欧米の自動車メーカー大手が一斉に生産調整から稼働率アップに動いた結果、実需を上回る発注によって半導体の不足状況を生み出したといってよい。

トヨタ自動車は、「ジャストインタイム」に代表される在庫を極力積まない生産体制の構築で、生産リードタイムの短縮などコスト低減を図ってきた。しかし、今回の世界的な半導体の実需を上回るオーダーは、欧米に比べ経済活動の再開が立ち遅れた日本の自動車メーカーを直撃した格好だ。

一方で、今回の半導体不足によって露呈した半導体サプライヤーによる供給網(サプライチェーン)の問題点、つまり在庫保管や人手不足等による物流の滞りといった問題点を見直しの好機と捉え、再構築に動き出すサプライヤーも出始めている。

このトヨタが直面した現象は、ガソリンを主とする内燃機関システムで世界トップというバリューチェーンが、世界的な半導体サプライチェーンの寸断によって、減産に追い込まれるという象徴的な事象である。

・テスラの事例
一方、世界的な半導体不足を尻目に、同じく7~9月期で過去最高の決算を発表したのが米テスラである。テスラはこの半導体危機下にあって、純利益で16億1,800万ドルと対前年同期比で4.9倍を叩き出した。

カーボンニュートラルという自動車メーカーにとって内燃機関からEV(エレクトリック・ビークル)への世界的転換というバリューチェーンのパラダイムシフトが起きる中で、半導体のサプライチェーンは兵站のカギを握る。

現在の内燃機関を主軸とする自動車生産体制では、アナログとデジタルが混在しており、エンジンや足回り、ステアリングからエアコンまで基幹部品ごとにマイコンによる制御が必要であり、半導体の使用量もマイコンの数量に応じて必要になる。

しかしEVの場合は、ECU(電子制御ユニット)によって自動車全体のシステムを集中制御できるため、内燃機関の自動車に比べ約3分の2ともいわれる部品点数の少なさから、基幹部品である半導体需要の予測を含めコントロールしやすい側面がある。

しかも米テスラの場合は、コロナ禍にあっても販売目標を当初の目標である年率50%超から変更せず、半導体の発注量も変更しなかった。サプライヤーサイドとしては長期の成長計画に基づいて実需に伴う生産調整が発生しないテスラへの供給は、安定した取引先として認知され、結果、コロナ禍にあっても好調な業績に結び付いた。

この半導体不足の状況でみえることは、内燃機関からEVへのバリューチェーンが変化することで、サプライヤーの価値や各生産工程における付加価値に大きな変化が起こるということである。

サプライチェーン強化のために進む米2大大手企業の提携が意味するもの

米国のサプライチェーンを強化するために米大統領令に署名したバイデン大統領だが、その産業範囲は半導体分野に加えて医薬品やEV用電池、レアアースの計4品目に定められた。

こうした背景には米中対立や技術の覇権争いがバリューチェーン寸断につながっている。半導体の供給網から中国を締め出すことで、中国の対抗措置がバリューチェーンの寸断をもたらした。こうした状況で起きたのが、サプライチェーンの再構築である。

米ゼネラルモーターズ(GM)とゼネラル・エレクトリック(GE)の両社が、2021年10月6日、EVや再生可能エネルギー機器の生産に欠かせない希少資源であるレアアース(希土類)などの共同調達で提携したことは記憶に新しい。米国を代表する2社が組むことで、希少資源であるレアアースの調達能力を高める狙いだ。

この提携によって、EV用の電気モーター等に使用されるレアアースや磁石、銅の共同調達が可能となり北米と欧州におけるサプライチェーン網が構築されることになる。これに伴って両社に連なる部品や素材メーカーも調達網に加わるわけで、EVや再生可能エネルギーという企業価値の源泉となるバリューが変われば、サプライチェーンも変化する。

共通価値の創出こそがバリューチェーンのカギ

「バリューチェーン」理論の生みの親であるマイケル・E・ポーター教授は、2006年に企業の慈善事業やコスト活動としてCSR(企業の社会的責任)に異を唱え、2011年に企業の新しい競争戦略であるCSV(Creating Shared Value)を提唱している。

ポーター教授は、「経済価値と社会価値はトレードオフの関係にあり、経済が成長するほどに社会は負荷を負う」と考え、この市場システムを放置すればその負荷が社会、経済、環境の許容量を超えてしまう「持続不可能な社会」を生み出すとしている。

その前提に立ったうえでポーター教授が提唱したCSVの要諦は、社会ニーズや社会が抱える問題に取り組み社会価値を創造した結果、経済価値が創造されるというCSVのアプローチを採ることが、企業にとって重要な戦略となるというものだ。

つまり企業が自身だけの利益だけを追求するのではなく、社会の問題解決に本業を通して貢献することが企業価値を上げるという理論の提唱である。

ここで注目すべきは「Shared」であるという点で、企業が稼いだ利益を社会に分け与えるのではなく、社会に共有される価値を生み出そうという考え方である。

ポーター教授は、共通価値を創造するために次の3つの方法を提唱している。

  1. 製品と市場を見直す
  2. バリューチェーンの生産性を再定義する
  3. 企業が拠点を置く地域を支援する産業クラスターを作る

上記の中で「バリューチェーン」に着目すると。バリューチェーン全体をエコシステムとして捉え、総合的な改革を図ろうという考え方も含まれている。

経済条件や社会状況を改善しながら競争力を高める必要性

新型コロナウイルス感染症の蔓延による経済活動の寸断や地球温暖化の深刻化に伴う代替エネルギー問題等、社会から企業に突き付けられる問題は待ったなしの状況にある。

この社会への貢献を基軸としたバリューチェーンの見直しは、先行きの見通せないVUCA時代には必要といわざるを得ない。あなたの企業が持つ「独自の価値」を、今一度再考する必要性もあるかもしれない。

金城寛人
株式会社エルニコ執行役員・中小企業診断士。1985年生まれ。沖縄県出身。青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科卒業後、前職の外資系メーカーに入社。事業開発部に従事し、アジア圏の新規事業プロジェクトに参画し、同社にてMVP(Super Hero’s)を受賞。現在は、経営コンサルティング事業を推進し、新規事業、組織の仕組みづくり、販路開拓、施策活用、経営相談窓口など毎月約70社以上の中小企業の経営支援を行う。
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