コロナで浮かび上がるサプライチェーン問題 日本はどう対応すべき?
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現代の経済を支える構造の一つにサプライチェーンがある。物流を軸にした総合的なモノや情報の流れのことで、我々現代人はそれを当たり前のことと考え、普段は意識することさえない。

しかし今、もしもサプライチェーンが正常に機能しなくなったら、社会はどれほど混乱を極めるだろうか。ビジネスに携わる者は、この問題を正面から検証する必要がある。その一助となるように、ここからサプライチェーンのさまざまな問題点について考えてみよう。

目次

  1. サプライチェーンの概要
    1. サプライチェーンの意味と定義
    2. 具体的なサプライチェーンの仕組み
  2. サプライチェーンの現状と問題点
    1. サプライチェーンで起こりやすい問題
    2. サプライチェーンで発生するリスク
    3. 新型コロナウイルス影響下でのサプライチェーン
    4. さまざまな問題に対する解決案
  3. サプライチェーンの課題と将来
    1. サプライチェーンで起きている変化
    2. サプライチェーンと人権問題
  4. サプライチェーンは今後どのように進化するのか

サプライチェーンの概要

サプライチェーンは日本をはじめ世界各国で、業種業態にこだわらず幅広く導入されている。簡単にいえば製品や商品などのモノの流れのことだが、いわゆる物流(ロジスティクス)と同義ではない。

物流とは原材料の調達から販売までのモノの流れを表し、そこに生産や在庫管理などのプロセスが加わる。サプライチェーンはさらに、この流れに情報やお金の流れもプラスされ、これらを総括的に連携させる仕組みである。

サプライチェーンの意味と定義

サプライチェーンとは「supply(供給)」と「chain(鎖)」とを組み合わせた言葉であり、物流によってつながれた1本の長いチェーンを想像すればよいだろう。この想像上のチェーンに沿ってモノが流れ、情報やお金がやりとりされる。

サプライチェーンは実際に稼働しているシステムだが、それをコントロールする仕組みをサプライチェーンマネジメントと呼ぶ。この仕組みが適切に機能しなければ、サプライチェーンそのものがストップするといってもよいだろう。

具体的なサプライチェーンの仕組み

サプライチェーンは現実世界において、工場、倉庫、オフィス、卸売店、販売店など複数の場所を結んでいる。その間を物流がつないでいるが、原材料の調達から生産管理、さらに需要の分析と販売管理などを人の手だけで行っていると、効率的な機能を発揮できない。

サプライチェーンは企業の各拠点をつなぐと同時に、それぞれの拠点ではITやAI技術などにより、ほぼ自動的に分析・管理を行い、それを情報として各拠点に送る。情報はチェーン上を双方向に行き来することになる。この仕組み全体をサプライチェーンマネジメントで管理することで、極めて効率的な業務プロセスの構築が可能になるのだ。

サプライチェーンの現状と問題点

サプライチェーンが優れたビジネスモデルであるとはいえ、問題点や課題が存在しないわけではない。ここからは企業経営者にとって欠かせない、サプライチェーンの問題点と解決策について解説しよう。

サプライチェーンで起こりやすい問題

まずサプライチェーンが企業の実状に合致していない場合や、外的要因に適切に対処できていない場合に起こる問題点について、5つにまとめて紹介する。

①閉鎖的なサプライチェーンの危険性
サプライチェーンを効率的に稼働させるには、チェーンの先端に位置する顧客からのフィードバックが欠かせない。これは需要の分析につながり、さらに在庫管理や生産管理にも直結する。顧客も含めた外部に対して閉鎖的な状態に陥ると、サプライチェーンは完全に機能しなくなるだろう。

②リスクマネジメントの欠如
どれほど注意深く構築された仕組みでも、予想外のトラブルにより機能不全に陥る危険性がある。それを常に予測しておく取り組み、つまりリスクマネジメントが欠けていると、万が一のトラブル時に対応できないことになる。

③コスト管理の失敗
必要以上のシステムを構築してしまったり、企業の実状に合わない機能を組み込んでしまったりして、サプライチェーンを運営するコスト負担が大きくなってしまう場合がある。本来サプライチェーンの導入では、全体的なコストを節減できなければならない。

④システム間の連携不備
サプライチェーンでは、企業の拠点を結ぶ情報伝達が不可欠である。拠点同士がバラバラに動いていると、効率的な稼働は望めない。システム間の連携がとれていないシステムでは、サプライチェーンの機能は半減するだろう。

⑤グローバル化への対応不足
グローバル化への対応が未だに進んでいない企業もあるだろう。企業規模にかかわらず、サプライチェーンを世界規模で考えておかなければ、これからのビジネスに追いつけない可能性がある。

サプライチェーンで発生するリスク

次に、サプライチェーンが本質的に抱えているリスクについても、大きく2つに分けて検証してみよう。

①内的リスク
このリスクはリスクマネジメントにより抑制できるが、企業が常に内包しているものである。最初に考えられるのは、原材料の調達や販売予測のミスなどによる生産プロセスの混乱だ。このトラブルが起きると、影響がサプライチェーン全体に及ぶ可能性がある。

また、品質管理に失敗した場合も、その影響はサプライチェーン全体に波及するだろう。もう一つの重大なリスクは、物流システムのトラブルである。これらのリスクは、人材の不足や従業員の能力低下も関わってくる。

それ以外に、海外に生産拠点を持っていることも、サプライチェーンが常に抱えているリスクといえるだろう。ほとんどの情報管理をインターネットに頼っていることも、トラブルのきっかけになることが考えられる。

②外的リスク
グローバル化が進んでいる現在、世界各地で起こるさまざまな外的要因が、サプライチェーンのリスクになる可能性もある。海外で起こる紛争や政治不安、さらに予期せぬ災害などにより、原材料や製品の調達が滞るケースは多い。海外の拠点でトラブルが生じた場合も、その影響は日本国内のサプライチェーンを直撃するだろう。

日本は国をあげて対外投資に力を入れているため、為替レートの変動や株式相場など金融リスクの影響を受けやすい。資源価格の変動も、資源小国日本にとっては深刻なリスクだ。このような海外情勢は、一般企業では予測が難しい問題であり、普段からのリスクマネジメントで対応できない点も大きな課題である。

新型コロナウイルス影響下でのサプライチェーン

2020年に始まった新型コロナウイルス問題は、世界各国の経済に取り返しのつかないダメージを与えたが、同時に世界中の企業のサプライチェーンにも甚大な被害を与えた。

今回のコロナ問題では、世界規模でのエネルギー供給不足と労働力の不足、そして物流の途絶が引き起こされた。直接的な原材料や製品の不足以外にも、それらの価格高騰がサプライチェーンに重くのしかかり、企業の経営を圧迫しているのは周知のことだ。

例えば日本経済の生命線ともいえる自動車産業では、世界各地の拠点ごとにトラブルが発生し、原材料や部品の調達がままならなくなった。その結果各メーカーとも、大幅な生産縮小を余儀なくされた。

グローバル化によるリスクは常に存在するもので、そこに新型コロナウイルス問題が重なったことで、サプライチェーンは大きなダメージを被った。こうした危機は今後も起こりうることを、企業経営者は頭に入れておく必要があるだろう。

さまざまな問題に対する解決案

サプライチェーンが抱える問題点やリスクは、常に業務上の各プロセスとシステムの稼働状況を分析することで、防止策を検討することが可能である。さらに、リスク管理ができてトラブルにも適切に対応できる優秀な人材を、各企業は普段から育成しておく必要があるだろう。

また、生産拠点や業務関連企業を分散させておくことも、万が一の時にサプライチェーンをストップさせない方法である。生産拠点を消費地に近い場所に設定することも、有効な方法かもしれない。

いずれにせよ、サプライチェーンを適切に稼働させるためには、人的資源と物的資源、それに技術的資源を充実させておくことが重要といえるだろう。

サプライチェーンの課題と将来

ここまで、サプライチェーンに関するさまざまな問題点をみてきたが、最後に残された課題と今後の展望についても解説しよう。

サプライチェーンで起きている変化

世界では、新型コロナウイルス問題の影響により、需要と供給のバランスが大きく崩れている。原油価格の高騰は予測されていたものの、実際には予想以上に広い範囲に影響が及んでいる。

原油価格の値上がりは電力需要にも影を落とし、原材料を輸出する国とそれを加工する国、そして最終的な製品や商品に仕上げる国それぞれに、深刻なダメージを与えている。

また、働き手の不足も各国にとって頭の痛い課題だ。アメリカではワクチン接種の有無が障壁になり、労働者の不足が表面化している。イギリスではトラック運転手の不足と、ガソリンの供給不足が二重に作用して、国内のサプライチェーンが正常に機能しなくなっている。

このように、一つの独立した問題が、サプライチェーン全体に影響を及ぼすとしたら、その対策を事前に立てておく必要があるだろう。今後もサプライチェーンは、休みなく進化を続けることを求められるのではないだろうか。

サプライチェーンと人権問題

サプライチェーンが世界規模に広がるにつれ、原材料の生産工程などで児童労働のような人権問題の存在が浮かび上がってきた。企業がコストを重視することで、現地での労働環境を確認しないまま、安い人件費での労働を助長している面があるという。

こうした問題では、トレーサビリティの確立が何よりも重要だといえる。欧米では企業が中心になって、児童労働や強制労働を禁止する認証制度が始まっているが、日本ではまだそのような取り組みへの参加が一般化していない。フェアトレードの推進と合わせて、今後解決しなければならない課題の一つだろう。

サプライチェーンは今後どのように進化するのか

サプライチェーンは企業が一丸となって取り組むものであり、今後の進化には人材の育成と新しい技術の開発が欠かせないだろう。現在進行中のAIや5Gの開発競争と、「society5.0」のような新しい社会構造への転換も、サプライチェーンの仕組みを変える可能性がある。

また、これからは大企業に限らず、中小企業でもサプライチェーンの導入が進むと考えられる。その動きを促進する組織の育成も課題になるだろう。その上で、各企業は経営効率化だけを追い求めるのではなく、顧客中心のサプライチェーンの構築に力を注ぐべきではないだろうか。

金城寛人
株式会社エルニコ執行役員・中小企業診断士。1985年生まれ。沖縄県出身。青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科卒業後、前職の外資系メーカーに入社。事業開発部に従事し、アジア圏の新規事業プロジェクトに参画し、同社にてMVP(Super Hero’s)を受賞。現在は、経営コンサルティング事業を推進し、新規事業、組織の仕組みづくり、販路開拓、施策活用、経営相談窓口など毎月約70社以上の中小企業の経営支援を行う。
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