現代社会ではちょっとしたタイミングのズレで、大きなビジネスチャンスを失う危険性がある。そのため、多種多様な企業がそれぞれに「サプライチェーン」と呼ばれるモノや情報の流れを構築している。
しかし、サプライチェーンを管理するためには高度な技術と管理手法が必要だ。そこで必要になったのが、「サプライチェーンマネジメント」という概念である。ここからは現代ビジネスの仕組みを理解するため、最先端のサプライチェーンマネジメントについて解説する。
目次
サプライチェーンマネジメントとは?
製造業では一般的に、原材料の調達から生産工程を経て、製品や商品という形で消費者のもとにモノを届ける。この一連の流れを狭義では物流と呼ぶが、そこに情報やお金の流れが加わった、もっと大きな枠組みをサプライチェーンという。
ただしサプライチェーンは自然に構築されるものではなく、さまざまな手法を組み合わせて作り上げる、一つの統合的な制御システムが前提となる。このシステムこそが、サプライチェーンマネジメントである。
サプライチェーンマネジメントの意味と定義
サプライチェーンとは、現在日本国内でも常識になったビジネスモデルで、製造業、卸売業、小売業などの業種を中心に導入されている一連の業務プロセスのことである。業務のつながりを一本のチェーンに見立てて、この呼び方が世界的に定着している。
サプライチェーンが個々の業務プロセスの集合体であるのに対して、サプライチェーンマネジメントとは、それを動かすために必要な手法や手順といえるだろう。
さまざまなアプリケーションを組み込んだパソコンをサプライチェーンと仮定すると、それを統合的に管理するOSにあたるものがサプライチェーンマネジメントといえるかもしれない。
サプライチェーンマネジメントの必要性
ある一つの商品が消費者の手に届くまでには、実にさまざまな工程を経る上で、それに付随する多くの業務プロセスが円滑に行われなければならない。
プロセスの最初は原材料を発注し、調達することから始まる。それを加工して製品に仕上げ、さらにパッケージングなどを行い商品に仕立ててから、物流システムによって卸売業者や小売業者のもとに送られる。しかしこの流れの中には細かいプロセスがいくつも組み込まれており、同時に発注・請求・支払いなどの業務も発生するため、サプライチェーン全体では実に膨大な数のプロセスを扱わなければならない。
このようにモノの流れに情報やお金の流れが加わり、しかもそれらが双方向にチェーン上を行き来する複雑なシステムを、地道な手作業の繰り返しで管理することは不可能に近い。そこで全体を統括して、すべてのプロセスを最も効率よく連携させる仕組みが必要になる。その仕組みがサプライチェーンマネジメントだと考えればよいだろう。
サプライチェーンマネジメントの導入手法
サプライチェーン及びサプライチェーンマネジメントを導入するためには、それを支える人材の育成と、その仕組みの中で効率よく業務を行う組織づくりが必要になる。これらはいわば人的資源といえる。
加えて、サプライチェーンには、高度な情報処理システムの構築が欠かせない。IT技術やIoT(モノのインターネット)、そして近年ビジネス界で伸展しつつあるDX(デジタルトランスフォーメーション)などを統合して、一つのチェーンとして連携させるシステムである。これらは技術的資源として見ればよいだろう。
サプライチェーンマネジメントを導入するためには、これらの人的資源と技術的資源とを、同時にしかも最適な状態で組み合わせて機能させる必要がある。企業規模にもよるが、システム全体の設計~検証~評価を経てから、順次システム構築を始めることになるだろう。
サプライチェーンマネジメントによる企業経営
日本企業でもマネジメントという言葉がすっかり定着したが、これは簡単にいえば仕事の効率化のことである。この考え方をモノの流れと融合させたのが、サプライチェーンマネジメントだといえるかもしれない。ここからは、実際のサプライチェーンマネジメントの仕組みを中心に解説しよう。
物流とサプライチェーンマネジメントの関わり
サプライチェーンマネジメントは物流改革の一面も持っていて、物流(ロジスティクス)と切り離して考えることはできない。物流とはいっても単にモノを運ぶだけではなく、輸送と保管という実際的な業務を中心に、さまざまなプロセスと情報交換が組み合わされて、一つの大きな流れになっている。
さらに生産プロセスと物流プロセスに複数の企業が関わっていると、相互間でのモノ・情報・お金のやりとりも必要になる。これらを含めて物流を考えると、物流改革を行うことがいかに企業にとって経営効率化に役立つかが分かる。特に量販店やコンビニエンスストア、大手通販サイトなど物流が大きな比重を占める業種では、もはやサプライチェーンマネジメントなしでの経営は考えられないだろう。
サプライチェーンマネジメントの仕組み
サプライチェーンマネジメントの仕組みを説明するには、何を目的にサプライチェーンを構築するのかを明確にしなければならない。以下にその主な目的をいくつか挙げてみよう。
サプライチェーンマネジメントの導入目的
・物流プロセスの効率化
・生産プロセスの効率化
・販売状況の分析と需要変動への対応
・原材料などの発注~調達管理
・在庫管理の効率化
・関連企業との情報交換
・請求と支払い管理
これら以外にもさまざまな目的があるが、サプライチェーンマネジメントを導入するからには、業務プロセス全体の効率化を果たす必要がある。そのために欠かせないのが、サプライチェーン上を双方向に行き来する情報の管理だ。
例えば、商品の需要に合わせて生産調整が必要になったり原材料の発注をしたりする場合に、これらのプロセスが連携していれば独立した業務としてこなすよりもずっと効率が上がる。量販店やスーパーで常に品切れがなく商品が揃っているのも、販売管理と物流プロセスが連動しているからだ。
こうした仕組みを実現するためには、サプライチェーンマネジメントを中核として各種システムをオンラインで結び、各プロセスの業務担当者が決められた流れで仕事を進める必要がある。こうした点からもサプライチェーンマネジメントは、システム全体を制御するOSのようなものといえるだろう。
さまざまな業種とサプライチェーンマネジメント
もはやいうまでもないが、世界中の至るところでサプライチェーンが稼働している。製造・物流・卸売・小売などの業種を問わず、また最近では医療分野や旅客・観光業などでもサプライチェーンマネジメントの導入が進んでいる。
その一方では、一つのパッケージとしてサプライチェーンマネジメントを提供する企業も数多い。ITやDXがシステムのベースになるため、コンピューター系企業の参入が目立っており、今後も新しい技術を持ったベンチャー企業などが進出するかもしれない。
サプライチェーンマネジメント導入によるメリット
サプライチェーンの強みは、市場の動きに連動して生産もしくは物流をコントロールできる点にある。サプライチェーンマネジメントを導入してうまく機能させられれば、それぞれの業務プロセスを効率的な状態で維持できるというメリットが生まれるのだ。
中でも在庫管理や生産管理、また原材料や資材の調達などでは、需要と連動したシステムにより大幅な作業効率のアップと、業務全般におけるコスト削減が可能になるだろう。つまりコストを抑えながら、売り上げを最大限に伸ばすことができるわけだ。
しかも生産や物流にかかる時間も短縮できる上、それぞれの業務間でのやりとりや、請求と支払いなどの手続きを自動化することにより、人的資源とコストを節減することも可能になるだろう。
サプライチェーンマネジメントの導入事例と現状
ここまで紹介してきたビジネスモデルは、今の日本社会では必要不可欠な存在になっている。では最後に、実際にサプライチェーンマネジメントを導入している事例をいくつか挙げよう。
具体的な導入事例
ここでは、大手企業が導入しているサプライチェーンマネジメントについて概要を紹介する。
・トヨタ自動車
独自の仕組みであるJIT(ジャスト・イン・タイム)方式を開発し、現在も世界的規模で最先端のサプライチェーンを稼働させている。
・ELECOM
オフィス用品などの需要予測、計画システムとしてサプライチェーンマネジメントを導入し、業務プロセスの効率化に成功。現在は自動発注システムとの連携を目指している。
・花王
原材料の調達から販売までを、完全にサプライチェーンマネジメントで管理。卸売業者を通さずに、直接小売店に納品するシステムを完成している。
サプライチェーンマネジメントの教育サービス
IT技術がどれほど進歩しても、必ずそれを管理する人材が必要になる。サプライチェーンマネジメントでも、システム構築と同時に管理者や現場での技術者を育成しなければならない。
こうした人材には、マネジメント戦略、物流、在庫管理のほか、さまざまな専門的知識が求められる。小規模なら企業内での研修や現場教育で対応することもできるが、規模が大きい場合は専門の教育を受ける必要があるだろう。
現在まだ数は多くないものの、サプライチェーンマネジメントに関する教育を手がける企業も登場している。より効率的なサプライチェーンを構築するためには、優れた人材を育てることが極めて重要だといえるだろう。
サプライチェーンマネジメント導入の注意点
サプライチェーンマネジメントを導入する上で、一つだけデメリットになりうることは、システムを構築して担当者を育成する段階で、かなりのコストが発生することだ。ただし必要なシステムの導入計画が適切であれば、導入コストを抑えることは十分に可能である。
また業種業態、企業規模によっても必要なシステムは異なるため、自社の経営にとって本当に必要なサプライチェーンマネジメントを設計することで、導入コストを抑えられるだろう。
いくら優れたシステムであっても、それを稼働させる環境が未整備であったり担当者の知識やスキルが未成熟であったりすれば、サプライチェーンマネジメントは本来の実力を発揮できない。導入にあたっては、これらの課題をクリアすることが欠かせないといえる。
サプライチェーンの進化は止まらない
現代日本では、ほとんどの分野で慢性的な人材不足が問題になっている。将来的には、さらなる深刻化が懸念されるので、人的資源に頼りきらない仕組みづくりが急務である。この問題を解消するためにも、今後は多くの企業が積極的にサプライチェーンマネジメントを導入するだろう。
それと同時に、サプライチェーンという仕組みそのものも、より効率的なシステムへと進化を続けるに違いない。これからのビジネスで成功を収めるためには、何らかの形でサプライチェーンマネジメントに関わることが、企業にとっては必要な戦略になるのではないだろうか。