2021年のM&A件数は2020年に比べて14.7%増加し、4,280件(レコフデータ調べ)と過去最多を記録しました。大きな要因は、コロナ禍によるM&Aの後倒しと金融緩和が考えられます。
右肩上がりだったM&A件数は2020年こそ2019年に比べてM&A件数は減少しましたが、延期されていた案件が21年に成約した例も少なくありませんでした。世界中でM&A件数が増加している要因として、リーマンショック以降の金融緩和の影響が大きく、2022年は米連邦準備制度理事会(FRB)が金融引き締めを急いでいることから、2023年頃になるとM&Aにも影響が出てくる可能性があります。
M&Aの他にも上場に沸いた2021年
M&A件数は新規の上場企業件数と比較的近い相関関係があり、2021年のIPOは125社と、前年の93社から32社増加し、2007年以来14年ぶりに100社を上回り、ここ数年でも活況に沸いた1年となりました。
国内においては景気と関わらず、経営者の高齢化を背景にした事業承継のピークを迎えており、企業の内部留保も非常に豊富であることを考えると、大きな特殊要因がなければ今後10年間も一貫してM&A件数が増加していく流れがベースシナリオとして想定できます。
DXに向けたM&Aも増加
製造業や建設業に代表される事業承継型のM&Aに加え、IT業界をはじめとした20代や30代のオーナー経営者がEXITの手段としてM&Aを選択することも増えてきました。
米国においては、IT人材の70%が事業会社やユーザー企業にいることに対して、日本においては70%がSIerやITベンダーに所属しています。総合商社などでは、IT人材を各部署に配置する流れがあり、国内企業においても、DXを進める上で、社内にIT人材の確保することが重要だとの認識が広まってきており、事業会社によるIT事業のM&Aも増加しています。
業界再編を進めるM&A
10年以上にわたりM&Aの現場に身を置く知見と経験から、私が提唱してきた業界再編5つの法則に「6万拠点の法則」があります。その中で特にM&Aが活況なのが、調剤薬局業界と運送業界です。
調剤薬局では過去の数年間にわたり統合が進み、上位10社の寡占率が年々上昇しています。個店からグループ企業になることで、調剤の効率化や業務のレベルアップが図られており、この動きは今後数年間続くと考えられます。
運送業においても1990年から2000年の間に2万社の新規参入があり、現在およそ6万2,000社となっていることから業界再編が起きることが予想されています。2024年の法制度改正によりドライバーの運転時間の規制が960時間に制限されることからも、M&Aで拠点を増やして対応することが経営テーマとなっています。
M&A巧者に学ぶPMI手法
M&Aが国内で増加している別の要因は、過去10年間でM&Aを実施してきた経営陣がM&Aで自信を付けてきた背景があります。日本電産、SHIFT等のようなM&A巧者は、連続してM&Aを成功させています。
M&Aの統合プロセスであるPMIに対する明確なメソッドが確立した企業はますます経営的にも強固になっていきます。日本電産は60件以上のM&Aで連戦連勝で、SHIFTも30社以上のM&Aを成功させています。M&Aは件数を重ねれば重ねるほど確実に知見や経験が企業に蓄積され、プラスに働きます。
苦戦が目立った上場企業、スタートアップ、クロスボーダーM&A
一方で、苦戦続きだったのは上場企業のM&A、スタートアップのM&A、海外M&Aの3つではないでしょうか。一般的に中堅・中小企業のM&Aは1年間の営業キャッシュフローに相当するEBITDAの5倍から6倍で取引されています。対して、上場企業のM&AはPER(平均13倍から15倍程度)に30%のプレミアムを付けてM&Aが実施されているため、上場企業のM&Aはそもそもの値段が高く、早期の投資回収が難しいとの指摘もあります。
スタートアップのM&Aについては、いわゆるサービスを買うことが多く、興味本位で数億から数十億円の「投資」としてM&Aをして、その後、事業継続すら難しくなったケースも散見されました。
海外のM&Aについては、いまだ日本企業は実力不足と言えます。外資系の投資銀行にとって、欧米のM&Aで日本に回ってくるのは、いわゆる欧米の売れ残り案件が多かった可能性もあります。しかしながら、苦戦続きだったスタートアップと海外M&Aは今後の日本のM&Aにおいて鍵になってくると考えています。
2022年のM&Aトレンドはスタートアップ、クロスボーダーM&A、スモールM&A
2013年に800億円程度だった国内のスタートアップの調達額は2021年には約8,000億と10倍に成長しました。投資を受けた企業が今後、EXITの手法としてM&Aを選ぶケースが増えていくことは間違いありません。
米国においては、スタートアップの90%程度がM&AによるEXITを果たしており、日本では3分の1以下ということを考えても、創業から間もない企業が更なる飛躍のためにM&Aを志向する傾向が増加していくことも確実です。
海外のM&Aといえば、欧米が主流と考えられていましたが、昨今では中堅・中小企業による東南アジアでのM&Aが急増しています。中堅・中小企業のM&Aが増加すれば、M&Aのメソッドがそれだけ多くの企業で蓄積されることになります。今後、アジアにおける世界のGDP比率が高まっていくことを前提にすると、東南アジアのM&Aは国内市場が縮小していく日本企業にとっても早期から挑戦すべき経営課題となっていきます。
さらにこれから主流となっていくのはバトンズを代表とするネットマッチングによるM&Aや個人商店の売買、年商1億円以下で数百万円程度で売買が実現する小規模M&Aです。すでに、多くの小規模M&Aが成約しており、今後は個人間におけるM&Aのメソッドの確立と共有が国内において重要な課題となるでしょう。2022年はM&A件数が過去最多となった2021年同様にさらに多くのM&Aが浸透し、3つのトレンドが色濃く反映される年になるはずです。
著者
学生時代に起業を経験の上、日本M&Aセンター入社。2008年から2015年までの8年間で最優秀社員賞を3度受賞。 中堅・中小企業M&AのNo.1プレイヤーとしてM&A業界を牽引してきた。
トータルメディカルサービスとメディカルシステムネットワークのTOBは日本の株式市場で最大のプレミアムを記録した(グループ内再編を除く)。
2020年同社最年少で取締役に就任。2020年11月末時点において、 国内の時価総額1兆円以上企業における最年少の常勤取締役となった。
著書に「業界再編時代」のM&A戦略―No.1コンサルタントが導く「勝者の選択」』(幻冬舎、2015年)、「業界メガ再編で変わる10年後の日本」~業界・部署・技術の境界線がなくなる時代へ~(東洋経済新報社、2017年)がある。