銀座にある「RICOH ART GALLERY」で、井田幸昌の個展「思層|Ontology」が開催されている。

本展覧会は、国内では約2年ぶりとなる個展であり、「リトグラフ」「シルクスクリーン」に加え、リコーの2.5次元印刷技術である「StareReap(ステアリープ)」という3種類のプリント技法で制作された版画作品 55点が発表された。

画家・井田幸昌にとって最初で最後の試みになるという ”版画作品のみ” の展覧会・井田幸昌展「思層|Ontology」をレポートする。

▍平面性を作品の中に閉じ込めた 「リトグラフ」「シルクスクリーン」作品
絵の具を厚く重ねた油彩作品の印象が強い井田だが、今回の版画作品を制作するにあたって「平面性の方に振り切って勝負しよう」と考えたという。

≪Tapir≫ / 井田幸昌
(画像=≪Tapir≫ / 井田幸昌)

会場に入ってまず目に飛び込んでくるのは、「リトグラフ (平版画)」の作品シリーズだ。油彩画にも登場する、豚や獏といったモチーフが、多層のリトグラフにより繊細な色合いで表現されている。

豚のモチーフは、実家で養豚を行っていたこともあるという井田にとっての原初体験であり、自身がつくり出す絵画と同様、育てられ、消費されていくものの象徴でもあるという。また、獏も夢を食うことから、「食う側」と「食われる側」を想起させる魅力的なモチーフだという。

≪Dream eater≫ / 井田幸昌
(画像=≪Dream eater≫ / 井田幸昌)

会場奥の壁を埋め尽くすように展示されるのはビビッドな色合いの「シルクスクリーン (孔版画)」の作品群。複数のセルフポートレートのシリーズと風景画が、それぞれ3〜6種類のカラーバリエーションで制作されている。

シルクスクリーン作品群 / 井田幸昌
(画像=シルクスクリーン作品群 / 井田幸昌)

シルクスクリーン作品の制作を通じ、”油絵の具を使った作品の中では表現できない成り立ちや、シルクスクリーンならではの色構成や形を選ぶことができた” と井田は述べている。

油彩と同様なモチーフを扱いながらも、あえて油彩の作品とは違った「平面性」を追求した意欲的な作品群だ。

シルクスクリーン作品群 / 井田幸昌
(画像=シルクスクリーン作品群 / 井田幸昌)

▍1年半をかけて作り上げられたSteaReapの作品群
展示室の中央には、「StareReap(ステアリープ)」でプリントされた作品が並ぶ。「StareReap」は、厚さ約20μm程度の薄いUVインクを何度も積層することによって凹凸を表現するリコーの2.5次元印刷技術だ。

≪King of limbs≫ (左) ≪King of limbs≫ (右) / 井田幸昌
(画像=≪King of limbs≫ (左) ≪King of limbs≫ (右) / 井田幸昌)

シミや滲みのような絵画的表現が見られる ≪King of limbs≫ という2つの作品。これは、銀色と黒色のアルミニウム板それぞれに井田の同じ原画をプリントした作品だ。ごく薄く、下地の金属が透けるようにプリントされた作品は、元が同じプリントでありながらも全く違った表情を生み出している。

一方、キャンバスの作品は対照的に、不透明なインクで厚みのあるプリントが施され、油彩に近い、筆致を再現するような作品となっている。

SteaReap 作品群 / 井田幸昌
(画像=SteaReap 作品群 / 井田幸昌)

井田とStareReapのコラボレーションのはじまりは、約1年半前に遡るという。2020年に発売された井田幸昌の国内初となる作品集「YUKIMASA IDA: Crystallization」が刊行された際、200部限定の特装版にStareReapでプリントされた「Portrait」が同封された。

それ以来、井田とStareReapの技術者とで、StareReapではどんな表現ができるのかという試行錯誤を繰り返してきたという。

≪Self portrait≫ / 井田幸昌 (部分) 油彩のようなマチエールが再現されている。
(画像=≪Self portrait≫ / 井田幸昌 (部分) 油彩のようなマチエールが再現されている。)

いずれのプリントも、他の人の手を介して仕上げられるが、井田は色や質感に強くこだわって微修正を繰り返しながら、作品によっては1枚に半年という時間をかけて完成させたという。井田自身が筆を持つのとは違った形で、アーティストの手を介在することなく、その思想を緻密に再現していく制作の方法は、今回のタイトルである「Ontlogy | 思想」に通じるものになったという。

”版画作品のみ” の展覧会は、井田にとって今回が最初で最後の試みとなるという。油彩とは異なる魅力をもつ3種の版画の展覧会。是非会場でそれぞれの魅力を体験していただきたい。

SteaReap 作品群(左)、リトグラフ作品群(右) / 井田幸昌
(画像=SteaReap 作品群(左)、リトグラフ作品群(右) / 井田幸昌)

【展覧会情報】
「井田幸昌 思層|Ontology」

展覧会URL:https://artgallery.ricoh.com/exhibitions/yukimasaida_ontology
期間:2021.12.4. Sat – -2022.1.8. Sat
営業:12:00 – 19:00
会場:RICOH ART GALLERY
休廊日:日・月・祝 / 年末年始:2021 年12 月31 日 ~ 2022 年1 月3 日
協力:IDA Studio
※ 最終日は、18:00で閉廊いたします。
※ 新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う緊急事態宣言発令等により、会期・営業時間が前後する可能性がございます。予めご了承ください。

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文・写真:ぷらいまり