清川あさみ
(画像=清川あさみ)

東京の銀座 蔦屋書店にて現在、アーティスト・清川あさみによる個展「TOKYO MONSTER, reloaded」が12月11日より開催されている(~12月25日まで)。写真に糸やビーズで刺繍を施す手法で知られる清川あさみは、今年2021年にアーティスト活動20周年を迎えた。

そんな清川が今回発表したのは、90年代のファッション誌のストリートスナップをモチーフに、東京を彷徨う若者のコンプレックスや虚栄心の表れを「モンスター」になぞらえて2014年に発表された「TOKYO MONSTER」の続編、「TOKYO MONSTER(2020-)」。およそ7年の時を経て、新たに生まれたシリーズに込めた思いについて、本人にインタビューを行った。

清川あさみ プロフィール
1979年、兵庫県・淡路島生まれ。東京を拠点に活動。服飾を学ぶと共に雑誌のモデルをしていた2000年代より「ファッションと自己表現の可能性」をテーマに創作活動を行う。雑誌やSNSなど、人々が日々関わる情報メディアやシステムが拡張する社会で、個人のアイデンティティを形成する ”内面” と ”外面” の関係やそこに生じる心理的な矛盾やギャップなどを主題とする。
代表作として「美女採集」 「Complex」「TOKYO MONSTER」などがあり、人がそれぞれ持つ人生のストーリーや、心の状態と社会状況の関係を作品化してきた。水戸芸術館(2011年)、金津創作の森美術館(2015年)、東京・表参道ヒルズ(2012年、2018年)にて個展・展覧会を多数開催。アートディレクターとして広告のビジュアルやグラフィックデザインに携わると共に、空間デザインやCM映像のディレクターとしても活躍中。また絵本作家としての活動も続けており、作家・谷川俊太郎氏と共作した絵本『かみさまはいる いない?』は児童書の世界大会の日本代表にも選ばれている。2020年より淡路島の地方創生事業に芸術文化をメインとして関わっている。最近では監督を制作を手かけたYOASOBIのMV「もしも命がかけたら」が公開された。

清川あさみ
(画像=清川あさみ)

──今回、新作の「TOKYO MONSTER(2020-)」を発表されましたが、最初にこのシリーズが出たのは2014年ですよね。最初に「TOKYO MONSTER」をつくろうと思ったきっかけから、まずはお伺いできますでしょうか。

私は、生まれ育った故郷の淡路島から上京してきたのが1990年代だったのですが、当時はSNSもまだ普及し始めたばかりの頃で、今よりももっと自分を装飾して表現している人たちが、街に溢れていました。そういう姿を見ながら、みんなの心の中を覗いているような不思議な気分になって、私の目には、個性的なファッションに身を包む街ゆく人々がまるで様々なキャラクター、モンスターのように映っていたのです。

私にとって、モンスター=個というか、その人を映し出すオリジナリティーのひとつと捉えています。そういう面白いキャラクターや個性を表現してみたいと思い、ストリートスナップの顔をビーズや刺繍でモンスター化して生まれたのが、2014年の最初のシリーズです。

──今回は、2014年のシリーズを踏まえて制作されたと思うのですが、なぜ今このタイミングだったのでしょう?

2018年から古代の風景や神話をテーマにした作品をつくり始めたのですが、そこからつながる未来を描きたいと思った時に、すごく新作をつくりたい気持ちになりました。とくに昨年から今年にかけてはコロナ禍の影響で、社会情勢も大きく変化しましたよね、そういう中で、私がずっと大切にしている「ストーリー」を通じて、古代から連綿と続いている時を今、そして未来へと大切に紡いでいきたいと思いました。

──清川さんの目に映る、90年代と現代のファッションシーンの違いにはどのような変化がありますか。アートだけでなくファッションにも造詣がある清川さんの目を通じて見えている世界に、とても興味があります。

そうですね。昨年から今年にかけてはコロナ禍ということもあって、街に出れば日常的にみんなマスクをしているので、それがファッションの一部になったのかなと思います。何よりも90年代に比べ、大きく変わったことといえば、ファッションに対する個々のあり方の変化だと思います。

90年代は自分を装飾することで表現してきた人たちが多かったと思うのですが、今はファッションというだけでなく、個を表現する手段としてもっと広い意味があるように感じています。

たとえばインスタグラムやTwitterなど、今の若い子たちは自分を発信する場所がたくさんありますよね。そういう中でひとつの個に収まりきらない自分が様々な関係性や環境の中で「わたしってなんだろう?」と、発信を通して自分自身を模索している人がすごく多い印象を受けます。

それは一枚のスナップやインスタグラムの投稿写真からも見えてくることで。個の表現はファッションに限らず、その人の属するコミュニティだったり、生き様だったりと、周辺の環境やまわりのものも一緒に伝わってくるような気がしています。

そういう意味では、今という時代の空気をリアルに映し出すのがスナップだと思います。個を取り巻く様々な環境やまわりの状況がたくさんのレイヤーのように見えたので、そういう今の空気感みたいなものを、作品の中にしっかり閉じ込めたいなと思いました。

「TOKYO MONSTER, reloaded」展展示風景より 
(画像=「TOKYO MONSTER, reloaded」展展示風景より )

  ──なるほど。スナップに映し出される「今」の空気感、そういった清川さんご自身の印象がこのような繊細な表現になっているのだろうなと、思いと作品の表現がぴったりと自分の中で繋がった感覚があります。

今回の作品は2020年以降の誌面やSNSからピックアップしたストリートスナップと撮影した写真を元にして、モチーフのイメージを変容させて写真の上に張った糸の色をネガポジ反転して構成しています。実際には写真に写真のイメージをのせて刺繍しているような感覚で一つ一つの工程を進めていきました。

それから今回敢えてぼかして抽象化しているのは二つの理由があります。一つは今、分人主義と言われているように、まわりとの関係性の中で浮かび上がってくる自分、個を取り巻く環境の中で変化していくおぼろげなレイヤーのようなものを表現したかったからです。それからもう一つ、一人の人の中にも表と裏がある様に、わかりやすくいえばポジティブとネガティブが行き来するような、そういうどこか不安定さ、不確かさみたいなものを表現したかった気持ちもありましたね。

ちなみに今回は色々なコミュニティの中の私、様々なモンスターに囲まれた私をフラットな「横のつながり」として横糸で表現してみたのですが、そういう実験的な試みも面白かったです。一枚の写真では語り尽くせない個というものをレイヤーを通してご覧いただくことで、自分の「今」と重ね合わせながら向き合うことのできる展覧になれたら嬉しいです。

「TOKYO MONSTER, reloaded」展展示風景より
(画像=「TOKYO MONSTER, reloaded」展展示風景より)

──お話を伺って、さらに作品から受ける印象や深みが増した感覚があります。それでは、今回の作品を制作するにあたって、とくに心がけたポイントや大切にされた点について教えていただけますか。

今回はとにかく「今」の空気感を大切にしたかったので、全体的の質感にはすごくこだわりました。部分的に艶があったりなかったりと、近くでご覧いただくとより繊細さが見えてくるのですが、調整の際には1ミリピッチで並べて糸を分解して、また詰めていくという作業を繰り返していきました。

本当に気の遠くなるような作業でもあって(笑)。それでもやはり表現したい、未来に繋がるストーリーを紡いでいきたいという思いの方が、いつも先に強くあるんですよね。

──後半の質問になります。清川さんにとってファッション、そしてアートとはどんなものでしょう?

そうですね。私にとってファッションはアートと同じくらいの感覚で自分に影響を与えてくれたもの、という思いがいつも心の中にあります。

ファッション界で最も尊敬する方の一人に川久保玲さんがいらっしゃるのですが、川久保さんの表現を見ていると、ファッションの領域にとどまらない新しい価値を世の中に生み出していく方だな、といつも感じています。

コムデギャルソンの登場は当時のファッション界では革命でしたし、それだけ世の中に大きなインパクトをもたらしました。そう考えると、川久保さんはファッションとアート、さらに国境やジェンダー等、あらゆる境目を超える世界を表現をされてきた先駆者でも在られるわけで、本当にその功績は偉大で素晴らしいなと感じています。

そういう思考で考えると、アートはファッションと同様に、決められた枠組みを超えて境界線を超えていくものだと思っていますし、私自身も元々、時間やカテゴリーといった境界線を超える作品をつくりたいと思い創作活動を続けてきたので、これからもその思いを大切に、新しいものを生み出し続けていきたいなと思います。

「TOKYO MONSTER, reloaded」展展示風景より 90年代のカルチャー雑誌「STREET」に刺繍を施した作品
(画像=「TOKYO MONSTER, reloaded」展展示風景より 90年代のカルチャー雑誌「STREET」に刺繍を施した作品)
「WIND AND SEA」コラボロングTシャツ
(画像=「WIND AND SEA」コラボロングTシャツ)

──今年は清川さんにとってアーティスト活動20周年にあたる、記念すべき節目の年になるのですよね。そうした中で、これまでの活動を振り返って感じられていること、またこれからの抱負について、簡単にお伺いできると嬉しいです。

これまでの20年は、振り返ってみると本当にあっという間でした。そうした年月の中で、作品作りをする時はいつもモノや人との出会い、自分が普通に日常を過ごす中で矛盾を感じるようなことなどがたくさんのヒントや種となって、ある時パッと繋がって一つの作品になってきたなと思います。

これからは、これまでの活動を踏まえて、生活の中で集めてきたピースを繋いで、つくってきたストーリーをより深く丁寧に掘り下げていきたいと思います。

今年も残りわずかですが、年始から早々に動き出すプロジェクトもあるので、相変わらず忙しい日々です。自分らしく、楽しみながら過ごしていきたいですね。

清川あさみ
(画像=清川あさみ)

──ありがとうございました!

展覧会情報
清川あさみ個展「TOKYO MONSTER, reloaded」

会場:銀座 蔦屋書店GINZA ATRIUM(GINZA SIX 6F)
会期:2021年12月11日〜12月25日
時間:11:00〜20:00
展覧会特設ページ:https://bijutsutecho.com/lp/asamikiyokawa-tmr/

ANDARTでは、オークション速報やアートニュースをメルマガでも配信中。無料で最新のアートニュースをキャッチアップできるので、ぜひ会員登録をご検討ください。

文・写真:小池タカエ