薬が届かない…全国各地で薬が不足 患者や病人が知らない裏事情とは?
(画像=tamayura39/stock.adobe.com)

いま、日本各地の薬局で薬が足りない状況が目立ちつつある。医師から処方を受けた薬を患者に出せなくなる事態は異例のことで、薬局の薬剤師だけではなく、一部の患者の間でも動揺が広がっている。なぜいま薬が足りない状況が起きているのか。

各地の薬局で薬が足りない状況に

ある薬局では特定の薬について、年内には納品がない旨を薬局内に貼り出しているという。いつもは発注後、ほぼ翌日に注文した薬が届いていたが、現在は特定の薬においてはすぐには薬局に届かない状況らしい。

薬によっては、処方できないと患者の症状に重大な影響が出る可能性が高いものも多い。その一つが「てんかん」の発作を抑える抗てんかん薬だ。ほかにも血圧を下げる降圧剤やアレルギーを抑える薬も不足している状況が続いており、不安を抱えている薬局も多い。

このような状況が起きているのは、ジェネリック医薬品(後発医薬品)を製造する企業で不祥事が相次ぎ、業務停止処分を受けるなどしたからだ。製造企業の業務が止まれば、当然、薬局への供給量が不足する。

しかも近年は、ジェネリック医薬品を選ぶ人が増えており、その点でも今回の薬不足の騒動が大きく広がる要因となった。

ジェネリック医薬品メーカーの不祥事

では、具体的にどの企業が不祥事を起こしたのか、説明していこう。

小林化工(福井県あわら市):睡眠導入剤成分が混入

ジェネリック医薬品大手の小林化工(福井県あわら市)は2020年12月、爪水虫(つめみずむし)などに用いる経口抗真菌薬を自主回収した。製造工程において睡眠導入剤成分が混入したからだ。この事態を重く受け止めた福井県は、同社に業務停止命令を出した。

その後、小林化工は取締役や製造責任者を入れ替えて、生産体制の見直しによる業務改善を図ったが、結局のところほとんどの医薬品の出荷を再開できず、最終的に同じくジェネリック医薬品大手のサワイグループホールディングスに全ての医薬品製造工場を譲渡することになった。

日医工(富山県富山市):品質不正に伴い業務改善命令

日医工(富山県富山市)でも不祥事が起きた。同社もジェネリック医薬品の製造企業だが、2021年3月、品質試験での不正が判明し、業務改善命令を受けたため、医薬品の製造や販売を停止する状況となった。

このような状況が後を引き、現在でも医薬品製造に遅れが出ている。2022年3月期の通期決算では2億円の黒字を計上する見通しだったが、同社の最近の業績予測によれば、最終的に186億円の赤字を計上することになりそうだという。

仮に、赤字が予想以上に膨れあがってキャッシュフローが急速に悪化し、事業を継続できないことになれば、同社が生産しているジェネリック医薬品の不足はさらに深刻なものとなる。

共和薬品工業(大阪府大阪市):製造手順に関する記載漏れや誤記載

共和薬品工業(大阪府大阪市)もジェネリック医薬品を製造する企業で、製造工程の自主点検を行ったところ、製造手順に関する記載漏れや誤記載などが発覚した。このことにより、生産していた多くの医薬品において出荷調整を行わざるを得ない状況となった。

長生堂製薬(徳島県徳島市):医薬品の検査や製造手順などで不正

ジェネリック医薬品を製造する長生堂製薬(徳島県徳島市)でも不祥事が起きた。規格外品に対して適正な処理を怠ったことや医薬品の製造方法などにおいて不正があったことが明るみに出て、2021年10月、徳島県から業務停止命令と業務改善命令を受けた。

出荷に問題がある医薬品の9割がジェネリック医薬品

日本製薬団体連合会(日薬連)の2021年11月の発表によれば、ジェネリック医薬品メーカーの不祥事が相次いだことなどにより、医薬品の3,143品目で出荷に問題が起きているという。3,143品目の実に92%がジェネリック医薬品だ。

ちなみに、薬局の医薬品不足は、メーカーの不正事件だけが原因ではない。ジェネリック医薬品が足りなくなることを予想し、多くの薬局が普段より多めにストックしておこうとしたことも、ジェネリック医薬品不足を加速させた。

このような薬局の心理は、「マスクが足りなくなりそうだから買いだめをする」といったコロナ禍の消費者心理とほぼ同じと言えそうだ。

ではジェネリック医薬品が以前のように安定供給されるようになるには、あとどのくらいの期間が必要になるのか。業界関係者は「少なくとも2~3年」と見ている。今後もジェネリック医薬品メーカーでの不祥事が起きれば、さらにいまの状況が長引くかもしれない。

全ての日本人に関連があるトピック

日本人のだれもが処方箋に記載されている医薬品をすぐ受け取ることができるのは当たり前だと思っている。このような常識がいま崩れつつある。中長期的な視点で見れば一過性のことかもしれないが、このようなことが起こり得るということが、今回の騒動で多くの日本国民にすり込まれるはずだ。

いまは特に病気や怪我をしておらず、特段何も薬を飲んでいない人も、いつ病院にかかるような病気やケガに見舞われるかは分からない。そういう意味では、今回のジェネリック医薬品の不足問題は全ての日本人に関係するトピックと言える。

今後も引き続き関連ニュースを注意してウオッチしたい。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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