日本で10兆円のドル不足!?現実味を帯びるインフレ・円安の脅威
(画像= Stillfx/stock.adobe.com)

米長期金利の上昇などを背景に円安が続く中、ドル不足の危機がジワジワと日本に忍び寄っている。このままドル不足が深刻化した場合、その影響は産業から消費者の生活まで広範囲に及ぶ可能性が高い。

世界的インフレ・円安のダブルパンチ 外貨の確保に苦戦する日本

ドル不足とは、ドルの供給と需要のバランスが崩れ、需要過多に傾いている状態を指す。貿易企業は商品代金の決済のために、必要に応じて通貨を交換する。決済の大半を占めるのは、世界の基軸通貨である米ドルだ。

現在、日本がドル不足の危機に瀕している直接的な要因は、世界的な物価高騰と円安の同時進行である。自国の通貨の価値が下がると、輸入面でより多くの外貨が必要になる。そこにインフレなどの要因が加わると、さらに圧力が増す。

高騰が続いている原油の価格を例に、どのような変化があったか、比較してみよう。世界中で人の移動が制限され、都市が封鎖された2020年4月、原油価格は1バレル20ドルを切っており、為替レートは1ドル=108円前後だった。つまり、1バレル約2,160円で購入できたということだ。

一方、インフレと円安が原油価格を直撃した2021年11月は、価格が4倍に膨れ上がり、1バレル80ドル、1ドル=114円前後になった。日本円に換算すると約9,120円にまで高騰し、単純計算すると4倍以上のドルが必要になる。

こうなると貿易企業間でドルの実需勢が急増し、バランスを崩す要因が発生する。三菱UFJモルガン・スタンレー証券は海外の円需要から国内のドル需要を差し引いたドル不足が、今後1年間で10兆円に達すると試算している。その結果、「年間6円分の円安の要因」となりかねない。

海外への生産シフトでドル流入が減少

日本が輸出大国だった時代には、想像もできなかった事態である。

かつて、日本は輸出製品の代金をドルで受けとっていたため、ドルを容易に確保できた。しかし近年は、生産コストの削減を理由に海外へ工場や製造設備を移す企業が増加した。現地法人に支払われた代金は、必ずしも日本に送金されるわけではないため、日本国内へのドルの流入が著しく減少した。

輸出により一見、企業が十分なドルを保有しているように見えても、結果として日本国内に回って来なければ輸入代金の支払いに充てることはできない。

財務省がまとめた2021年上半期のデータによると、日本から世界への輸出の決済にドルが占める割合は47%であるのに対し、輸入に占める割合は66.6%と、輸入が輸出の決済を大きく上回っている。需要が増してもそれを補える十分な供給があれば問題はないのだが、現在の日本は流入するより流出するドルの量の方が多いため、さらにドルが不足するリスクに直面しているという状況だ。

ドル不足が品不足やインフレを悪化させる?

このままドル不足が深刻化した場合、日本にどのような影響が及ぶのか。

第一に考えられるのは、輸入面の打撃だ。日本の輸出総額は、米国、中国、ドイツに次ぐ世界4位だ。原油や天然ガスはもちろん、鉱物資源、原材料、食料品・農産物、衣料品、半導体、医療機器に至るまで、輸入に依存するところが大きい。2020年の年間輸入総額は約6356億 ドル(約72兆1,455億円)だった。ピークだった2012年の約7割に減少したとはいえ、過去20年でほぼ2倍に増加した。

これらの商品代金を払うためのドルが不足すれば、十分な商品を輸入することができなくなる。半導体をはじめとするさまざまな部品を輸入している製造業者は、減産や生産停止を余儀なくされるだろう。

そのような状況が長期化すれば最終的には品不足が生じたり、販売価格が高騰したりして、消費者の生活にも影響が及ぶ。世界的なインフレ加速の波が、デフレ下にある日本経済にも着実に押し寄せている今、ドル不足はコロナ禍の経済回復を阻むリスクを秘めている。

金融システムリスクも

もうひとつ懸念されているのは、日本の銀行のドル調達構造の脆弱性だ。

ドル不足は過去にも見られた現象で、最近では2020年のコロナショック、リーマンショックが引き金となった世界金融危機の際、多数の国でドルの調達コストが上昇した。金融市場に混乱が生じ、各国がドルの確保に動いたことが要因だった。

一部の専門家は、ドル建ての資産に多額のドルを投資している日本の銀行にとって、ドル調達難が大きなリスクとなりかねない点を指摘している。日本の銀行の発表によると、2021年度上半期末の日本の外金貨資産は総額7兆7116億円だった。

「多様なドル確保手段」が今後の課題?

2008年のリーマンショック以降、世界の主要銀行の財務健全性は大幅に改善したものの、ドルの流動性などの問題は依然として存在する。日本を含むドルへの依存が高い国にとって、貿易以外からドルを確保することは大きな課題であり、金融リスクを回避し市場の安定を図るためにも重要である。

文・アレン・琴子(英国在住のフリーライター)

無料会員登録はこちら