矢野経済研究所
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19日、香港ではこの5月に導入された新たな選挙制度のもとはじめての立法会議員選挙が行われた。議席は親中派が独占、民主派はすべての議席を失った。そもそも新制度では「政府への忠誠」が立候補の資格要件とされており、結果に驚きはない。民主派の希望が過去最低の投票率に埋もれた一方、当局は「民主制度にはさまざまな形式がある」としたうえで、「愛国者による秩序の回復」と「一国二制度の安定」に胸をはった。選挙後、天安門の犠牲者を追悼する香港大学のモニュメント “国恥の柱” が撤去された。名実ともに香港は中国と一体化した。

香港の選挙の前日、台湾では重要な国策に関する住民投票が実施された。結果、米国産豚肉の輸入制限など国民党が提案した議案はすべて否決された。これについて蔡英文総統は「国民は国際社会との連携を選択した」旨の声明を発表したが、要するに台湾は中国寄りの中国国民党(国民党)ではなく、米との関係強化をはかる民主進歩党(民進党)の政策を支持したということだ。今、香港の変化を目の当たりにする中、台湾の存在感が高まる。10月には欧州議会が台湾との関係強化をはかるようEUに勧告、11月には米下院議員団の訪台もあった。

言うまでもなく狙いは中国の対外戦略への牽制である。加えて、世界的に進行する “民主主義の後退” に対する懸念と警戒を指摘したい。統治形態を自由民主主義、選挙民主主義、選挙専制主義、完全な専制主義の4つに分類し、世界の民主主義を分析しているV-Dem研究所(本部スウェーデン)によると、この10年間における顕著な変化は選挙民主主義の急減と選挙専制主義の拡大であるという。世界人口に占める前者の割合は30%後半から19%へ、後者は25%程度から43%へ、つまり、民主主義という衣を纏った専制主義化が進んでいるということである。

問題はそれが極めて自然な流れの中で進んでゆくということだ。同研究所は典型的な専制主義化へのプロセスを「選挙で合法的に政権をとった後、メディアや言論を統制し、社会の分断をはかり、やがて、選挙そのものをコントロールしてゆく」と説明する。
政権周辺への利益還流、公文書や公的統計の改ざん、フェイクニュース、排外思想、パンデミックのもとでの権威主義的な政策への期待、、、今、民主主義の側のどこかに綻びの予兆はないか。コロナ禍後の社会の在り方を考えるためにも我々自身の現在の立ち位置をしっかり検証し、点検しておく必要がある。

今週の“ひらめき”視点 12.19 – 12.23
代表取締役社長 水越 孝