企業文化は、共通の行動規範や信条によって、社員の行動に一貫性をもたらす。企業の成長に不可欠なのは言うまでもないが、少し抽象的な言葉であることから意味を捉えづらい。今回は、企業文化の役割や浸透させるポイントなどを解説していく。企業風土や社風との違いにも触れているので参考にしてほしい。
企業文化が果たす5つの役割
文化は、人々の関わりによって生まれた有形・無形の成果をさし、歴史の中で築かれてきた。
企業でも長い年月をかけて企業文化が育まれていく。社内で浸透していくことによって得られるメリットは大きい。企業文化が果たす役割を5つ紹介する。
企業文化の役割1.事業成長やイノベーションに不可欠
企業文化の構成要素はビジョンやミッションなどだ。チャレンジ精神や失敗を恐れないことを奨励する内容であれば、社員は企業の成長をかけてあらゆる可能性を模索するだろう。
逆に、現状維持や規律を重視する保守的な企業文化が定着してしまうと、イノベーションが生まれにくくなり、成長が鈍化する恐れもある。
事業を継続的に成長させるには、市場の変化に対応することも不可欠だ。自社の凝り固まった企業文化を定期的に見直さなければならない。
企業文化の役割2.社員の行動に迷いがなくなる
企業文化は社員の行動規範となる。そのため、企業文化が定着している企業では社員の行動が明確になっており、業務への迷いが少なくなる。一貫した行動によって効率化が実現し、社員のパフォーマンスが向上する。
ただし、時代に適さない企業文化だと社員の行動に迷いや停滞感が生まれやすい。
企業文化の役割3.社員の結束力が高まる
企業の目的達成や社会貢献には、バリュー(価値観)が不可欠である。価値観に共感する社員が集まるほど結束力は高まるだろう。個の力が結束していけば、企業の発展にも大きく寄与する。
しかし、企業内では企業文化に馴染まない価値観も存在し得る。排他的に扱ってしまわないように注意しなければならない。
企業文化の役割4.従業員の満足度が高まる
企業文化が社員の共感によって定着しているならば、社員がその企業で働くモチベーションも向上しやすい。従業員の満足度が高まり、離職率の低下も期待できるだろう。
企業文化の役割5.顧客からの信頼が生まれる
従業員の満足度が高いと、顧客対応も企業文化に準じて良好になり、顧客満足度も高まりやすい。企業文化の構成要素であるミッションやバリューなどを社外に発信すれば、企業に対する信頼感を高められる。
企業文化と類似語の違い
企業の在り方を示す言葉がいくつかある。企業文化と混同しやすい類似語とその違いを解説していく。
企業理念との違い
企業理念はビジョンとも呼ばれ、企業の理想像や将来の目標などを明文化した指針だ。
企業文化を構成する要素であり、企業文化を生み出して醸成・浸透させるのに欠かせない。そのため、企業文化の上位概念に位置づけられる。
事業戦略を策定する際にも重要な要素であり、会社の方向性を示す羅針盤としての役割を果たす。
企業風土との違い
企業風土に含まれる風土という言葉は、地形や地質などの物理的環境や、文化形成に関係する精神的環境を意味する。
つまり、企業風土とは企業の物理的・精神的な環境であり、人間関係や独自の価値観など企業内で暗黙のうちに培われてきた行動規範や習慣をさすといえよう。
企業文化は経営者が定めた理想像を基準として醸成されるが、企業風土はその環境で自発的に形成されるので意図性が低い。
社風との違い
社風とは企業が持つ雰囲気や空気感などだ。具体的なルールとして明文化されているわけではない。企業文化よりもはっきりとしておらず、単に企業のイメージが社風として捉えられることがある。
たとえば、縦のつながりが強い体育会系の企業や、上司との壁がないフランクな企業などのイメージだ。
社風は、社員の性格や社内環境によって一時的に形成されていく。人員の入れ替えなどで一変する可能性も高い。
その一方で企業文化は、社員が企業と共有している行動規範や信条などであり、歴史とともに紡がれていく。
組織文化との違い
組織文化とは、組織心理学で有名なエドガー・シャインが唱えた概念である。
企業文化とほぼ同じ意味で使われるが、開発部や人事部のような組織単位で形成される文化であり、企業よりも小さい領域で共有される価値観や行動規範をさす。
企業文化を浸透させる3つのポイント
企業文化を生み出して社内で醸成させるためにはどのような行動が必要なのだろうか。企業文化を社内に浸透させるポイントを3つ紹介する。
ポイント1.企業理念と関連づけて明文化する
企業文化は企業風土や社風とは違って、企業と社員の共通認識下で意図的に構築されていく。そのため、共有すべき企業理念や使命、価値観など、自社の理想像を行動指針として明文化しなければならない。
ポイント2.管理職を中心に企業文化を正しく共有する
企業文化を社内に浸透させるには、企業理念や価値観などを共有するために、社員研修などで説明しなければならない。
社員が業務で企業文化を慣行するには、管理職の指導も重要である。各リーダー間で企業文化に対する認識のずれがあれば致命的だ。念入りなすり合わせは欠かせない。
ポイント3.具体的な慣行や人事評価レベルまで落とし込む
企業文化は一朝一夕には定着しない。社員が常に意識できるよう、理念を明文化したカードを配ったり、朝礼で指差し呼称したりするなど、具体的な行動が必要となる。
人事評価の目標管理制度で、企業文化に適した行動を評価するのもよいだろう。社員の行動が企業文化の浸透につながっていくはずだ。
企業文化に関する2つの事例
外部環境が変化する中でも、企業文化を醸成・定着しながら、成長し続けている企業がある。日本企業の中から企業文化の事例を紹介していく。
事例1.トヨタ自動車
自動車業界の最先端を走り、創業80年を超えるトヨタ自動車は、事業発展にともなってグループ会社の数とともに社員も増え続けてきた。
トヨタは、創業者である豊田佐吉氏の考えを明文化した豊田綱領を頂点に据え、自社の企業理念や使命、価値観などをトヨタフィロソフィーという形で見える化している。
その中のバリューには、ソフトとハードの融合やパートナー(仲間)の尊重を重視するトヨタウェイがある。
変化の激しい時代にあって、トヨタ社員が共通の目標や行動規範を持って行動できるよう、トヨタウェイ2020という10項目の行動指針も示した。
「誠実に行動する」「競争を楽しむ」「仲間を信じる」など、わかりやすく具体的な表現で記載されている。社内で企業文化を理解しやすいように配慮しているのだろう。
事例2.ファーストリテイリング
ファーストリテイリングは、ユニクロやGUなどの事業を通して、コロナ禍でも売上2兆円を達成しており、今なお全世界に店舗を増やしている。
同社の企業文化に関連する行動規範は、服を通して顧客に喜びや満足を提供するというミッションに則っている。基本原則の先頭は「お客様の満足」であり、バリューの中でも「お客様の立場に立脚」という言葉が明文化されている。
顧客第一で服を開発・提供することを前提とした企業文化を醸成しているが、社員に対して法令の遵守を求めるだけでなく、働きやすい環境や公正な人事評価も整備している。
社員と認識を共有して企業文化を育む
企業文化は、暗黙のうちに形成される企業風土や、社員の流動で変化する社風とは異なる。全社員が意図的に生み出し、次代に引き継いでいく文化だ。
経営者は自社の企業理念や使命などを明文化し、社員が共通認識を持てる体制を見直さなければならない。
文・隈本稔(キャリアコンサルタント)