東証一部・二部へのステップアップ市場として、多くの企業から注目されている東証マザーズ。将来性や成長性が重視されるマザーズには、ほかの上場市場にはない特徴がいくつか見られる。今回はマザーズの概要や特徴に加えて、具体的な上場要件などを解説する。
目次
東証マザーズとは?
東証マザーズとは、東京証券取引所が運営する上場市場のひとつである。1999年に創設された比較的新しい市場であり、大企業向けの東証一部、中堅企業向けの東証二部とは異なる役割を担ってきた。
東証一部・二部上場のステップ市場
東証一部や二部に比べると、マザーズの上場要件は易しい傾向がある。現時点での収益性や規模ではなく、「将来の成長性」が重視される市場なので、マザーズは東証一部・二部のステップ市場として認識されている。
ただし、株主数や時価総額をはじめ、企業の現状を判断するための要件もいくつか設けられている。つまり、マザーズは将来性のみで上場できる市場ではないため、申請をするのであれば万全の準備を整えておかなくてはならない。
東証マザーズにはどれくらいの企業が上場している?
2021年10月現在、マザーズには394社が上場している。以下は2021年1月からの推移だが、東京証券取引所の中でもマザーズは上場企業数の変動がやや激しい。
ちなみに、マザーズ全上場企業の営業利益は年間平均で約8億円とされている。つまり、上場にあたっては一定の収益基盤も必要になるため、一般レベルの中小企業による上場は難しいと言える。
東証マザーズの3つの特徴
ここからは、東証マザーズの主な特徴を紹介していこう。
1.上場審査期間が短い
数ある上場市場の中でも、マザーズは上場審査期間が短いとされている。
例えば、東証一部や東証二部へ上場する場合、申請から上場までには通常半年ほどかかる。一方で、マザーズの場合は審査期間が約2ヶ月であることから、要件さえ満たしていればスムーズに上場を目指しやすい。
2.準備期間を短縮しやすい
上場のための準備期間を短縮しやすい点も、経営者が知っておきたいマザーズの特徴だ。
マザーズはもともと、社歴の浅い企業でも上場できる市場として創設された。そのため、時価総額や純資産額、利益額などに関する要件が設けられておらず、必要になる事業継続年数も短い傾向にある。
もちろんある程度の準備は必要だが、準備期間を短縮しやすい点は従業員の負担軽減にもつながるだろう。
3.証券市場の投資状況によって上場基準が変わる
マザーズは「将来性・成長性」を重視する市場なので、新興企業や成長企業に興味をもつ投資家が少ないと成り立たない。そのため、上場申請をするタイミング次第では、「証券市場の投資状況」が判断基準に含まれることもある。
例えば、新興企業・成長企業への投資が少ない時期は、全体的に要件が厳しくなる可能性があるため、マザーズへの上場では「申請時期」もひとつのポイントになる。
東証マザーズ上場の主な要件
マザーズへの上場を目指す場合は、東京証券取引所が設ける要件を確認しておく必要がある。ここからは「形式要件」と「実質要件」の2つに分けて、マザーズの上場要件を解説していく。
形式要件
形式要件とは、株主数や流通株式数などの数値化できる要件のことである。マザーズへ新規上場をする場合は、以下の形式要件をすべて満たさなくてはならない。
上記の通り、マザーズでは時価総額や純資産額、利益額などに関する要件が設けられていない。ただし、ほかの市場と同じく監査を受ける必要はあるため、上場を決めたら早い段階で準備に取りかかることが重要になる。
実質要件
実質要件とは、コーポレート・ガバナンスをはじめとした数値化できない要件を指す。やや抽象的な要件ではあるが、マザーズへの上場申請時には次の4つの項目が審査される。
上記の通り、マザーズの上場審査では経営環境を多方面からチェックされる。収益基盤やビジネスモデルだけではなく、上場企業としてふさわしい組織運営も求められるため、その点に注意しながら計画を立てなくてはならない。
東証マザーズと一部・二部・JASDAQは何が違う?
東京証券取引所が運営する上場市場には、マザーズのほかにも「東証一部・東証二部・JASDAQ」が存在している。以下の通り、それぞれの市場が異なる役割を果たしているため、上場を目指す場合は目的に沿った市場を選ぶことが重要だ。
上記を見ると分かるように、マザーズとJASDAQはやや似た特性をもっている。いずれも成長企業・新興企業を対象とした市場だが、実はこれらの市場には次のような違いがある。
最も大きな違いは、マザーズには通称「10年ルール」と呼ばれる規則が存在する点だ。マザーズ上場から10年が経過すると、東証二部と同じ水準の上場廃止基準が適用されるため、そのタイミングで「マザーズに留まるか?」「東証二部に変更するか?」の二択を迫られることになる。
つまり、マザーズは企業の成長を前提とした市場であるため、将来的に本則市場への上場を目指すのであれば、まずはマザーズから検討したい。
上場を目指すのに専門家への相談は必要?
中小企業が上場を果たすには、短くても数年規模の準備が必要になるとされている。特に資料の作成時には専門的な知識も必要になるため、少しでも不安がある場合は専門家の力を借りたい。
また、東京証券取引所は2022年の市場再編を予定しており、再編後には各市場の名称・区分に加えて、各種要件も変更されることが決まっている。新設される市場「グロース(現:マザーズ、JASDAQグロース)」に関しても、これまでのマザーズの要件とは基準が異なるので、無理をせずに専門家に相談することを検討しよう。
マザーズ上場を目指す場合の相談先
マザーズへの上場をサポートしてくれる専門家としては、主に以下が挙げられる。
専門家によって対応している相談内容は異なるため、基本的に上場準備では複数のパートナーを作る必要がある。また、専門家によって得意分野は異なるので、契約を結ぶ前にはしっかりと情報収集を行った上で、自社に最適な相談先を選んでいこう。
マザーズは簡単に上場できる市場ではない
マザーズは成長企業・新興企業向けの市場ではあるが、上場要件は決して易しいものではない。また、2022年には東京証券取引所の市場全体が再編されるため、上場を目指している場合は専門家への相談をすすめる。
ただし、専門家がすべての工程をサポートしてくれるわけではないので、経営者や従業員も必要最低限の知識は身につけておこう。