今回のイオンによるダイエーの子会社化を下記の2つの観点で考察してみたい。

(1)国内・巨大総合小売業2社の成長戦略
(2)地方スーパーマーケット(SM)の生き残り戦略

国内・巨大総合小売業2社の成長戦略

企業戦略の観点から
(画像=haireena/Shutterstock.com)

今回ダイエーを子会社化したイオングループ(以下、イオン)は、セブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン)と並び、日本を代表する小売業グループの一社である。世界規模で巨大総合小売業態を見ると、いずれも10~20位内である。同じような規模の会社が多く、イオンにとっては今回のダイエーの売上が加わるとランキングは大幅アップする。イオングループはグループ内で数社が上場しているが、中核である株式会社イオンの時価総額は約1兆円(2013年5月17日現在)。セブンイレブン、ヨーカ堂などを傘下にもつ株式会社セブン&アイ・ホールディングスは3.5兆円(同)である。一方、Deloitte Touche Tohmatsu の発表した「Global Powers of Retailing 2012」において売上世界ランキング第一位であるウォルマートの時価総額は約26兆円(同、US$100円計算)である。ウォルマートの10分の1程度の時価総額でセブンやイオンが買えてしまうのである。今後、世界の巨大総合小売大手として存在するためには10兆円の売上を目指す成長が必要となってくる。

イオンとセブンは異なる成長戦略を持っている。その違いを並べてみたのが図①である。イオンは国内ではGMS(総合小売サービス業)を中心とした売上構成であり、海外ではショッピングセンター事業を売上の柱としている。他方、セブンは国内・海外ともにコンビニエンスストア事業中心の展開である。国内エリア展開という切り口で比較すると、セブンは四国などの「地方の」空白エリアへの出店を加速させているのに対し、イオンは「大都市シフト」を中期計画で謳っている。M&A による事業投資という切り口で見てみると、セブンは海外では、北米のコンビニエンスストアチェーンの買収が中心、国内では他業態の小売業(カテゴリーキラー、百貨店など)の買収・出資が主流である。

企業戦略の観点から
(画像=Futureより)

一方、イオンがM&Aを積極的に行っているのは、国内ではピーコックなどをはじめとする都市型のスーパーチェーン(今回のダイエーの子会社化もその一環といえる)、海外では同業他社からのスーパーの買収が多い。このように国内大手の2社が全く異なるアプローチでグループ事業の成長戦略をとっていることは大変興味深い。万万一の話ではあるが、それぞれ差別化されたグループ成長戦略を行う2社が、仮に統合するようなことになれば、サービスラインを補完する、世界規模でのリーディング小売業の一角になりうる。

地方スーパーマーケット(SM)の生き残り戦略

図②をご覧いただきたい。イオン、セブンなどと同業であるGMS・SM業界とドラッグストア業界それぞれにおける主な上場企業を「売上高年平均成長率×売上高営業利益率」の軸、同じスケールでグラフにしてみた。小売業態として類似している業界ではあるがGMS・SM業界とドラッグストア業界を比較すると、GMS・SM業界のプレイヤーは売上高成長率・売上高営業利益率ともに低いことがわかる。ドラッグストア業界のプレイヤーの成長をけん引しているのは、同業によるM&Aの加速がひとつの要因になっている。

企業戦略の観点から
(画像=Futureより)

厳しいGMS・SM業界にあって、北海道を拠点としたアークスというスーパーマーケットグループの成長が著しく、戦略は注目に値する。アークスは1961年に創業した北海道発のSMであるが、自前での出店のみならず、M&Aをテコに恒常的に成長してきている(図③は同社のM&A及び成長の軌跡)。北海道・北東北にエリアを絞り多種多様なM&A戦略を展開している。対象としては数店舗レベルでの営業譲受から、小規模同業社の買収、同規模同業種の会社との統合。買収手段としては上場するまでは現金、上場後は株式交換など、流動性がある上場株式を有効に活用した展開を行っている。

企業戦略の観点から
(画像=Futureより)

「富士山のように高くそびえる大きな一つの企業体ではなく、八ヶ岳連峰のように同じ高さの山々が連なる企業連合体を目指す」という、ほぼ同じ大きさの企業がホールディングスの下に12社ならぶ「八ヶ岳連峰経営」を行っている。道民経済計算によると、ここ10年間(2001年~2011年)の北海道地方の GDP は年率マイナス 0.3%成長である。他方、アークスのこの10年間(2002年度~2012年度)の売上成長率は年率プラス11%である。

アークスは縮小する市場でも再編の中核になり、着実に右肩上がりの成長をしている地方ベースの企業の代表例である。成長戦略の構築の仕方と実行力によって、マイナス成長の業界でも成長企業は存在している。戦略の構築力と実行力が試される業界はいずこも同じである。他社に先駆けて動くのか、受け身で動くのか。経営者としての真価も問われる。参考までに2012年、2013年の国内スーパーマーケット業界のM&A、業務提携などの動向を図④に示す。

企業戦略の観点から
(画像=Futureより)

島田直樹(代表取締役 株式会社ピー・アンド・ディレクションズ)

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