崖っぷちの地銀「婚活サービス」開始!? 生き残りをかけた新規取り組みが加速
(画像=Nagahisa_Design/stock.adobe.com)

地方金融機関に再編の波が押し寄せる中、地銀や信金などの生き残りをかけた取り組みが加速している。中には、婚活事業に注目する金融機関も出てきたようだ。この記事では、さまざまな事業に取り組む地方金融機関の動向に迫っていく。

婚活のIBJと西武信用金庫グループが業務提携

婚活事業を複合展開するIBJ(アイビージェー)は2021年11月、西武信用金庫のグループ会社である西武コミュニティセンターとビジネスマッチング契約を締結したと発表した。目的は、地方創生と人口減少問題の緩和だ。

中小企業庁の調査によると、2025年までに、平均引退年齢である70歳を超える中小企業や小規模事業者の経営者は、約245万人に上るという。このうち、約半数の127万人が後継者未定の状況で、事業者廃業の急増が懸念されている。

このような企業を多く顧客に抱えている地銀や信金にとっても他人事ではなく、取引先企業の事業承継は喫緊の課題となっているのだ。

婚活は、この事業承継促進に向けた取り組みの一環として行う。独身の経営者や後継者に対し婚活支援を行うほか、婚活事業の創業や副業としての開業を支援し、地方創生や人口減少問題の緩和に役に立ちたい考えだ。

IBJはどのような企業?西武信用金庫の現状は?

IBJは、国内最大級の結婚相談所ネットワーク「日本結婚相談所連盟」をはじめ、直営の婚活ラウンジや婚活サイト「ブライダルネット」、恋愛マッチングアプリ「Diverse」の運営、ブライダル情報誌の発行などを手掛ける業界最大手だ。

サンマリエやZWEIといったメジャーな結婚相談所も傘下に収め、台湾にも事業を広げている。日本結婚相談所連盟におけるお見合い成立件数は、月4万件前後で推移している。

表題の金融機関との提携も、婚活の切り口から事業承継問題や人口減少問題を解決する方策として2018年以降力を注いでおり、西武信金は13例目となる。

一方、西武信金は東京都中野区に本店を構える金融機関だ。2021年9月末時点における預金残高は2兆2,809億円、貸出金残高1兆5,500億円、当期純利益74億円で、日本格付研究所(JCR)による長期発行体格付で「A+」の評価を得ている。

地域活性化に向けては、社会貢献活動を行う団体の活動拠点となる「西武コミュニティオフィス」の提供や、まちづくり活動を支援する助成制度「地域みらいプロジェクト」などを実施している。

また、事業承継関連では、専門家や連携機関のノウハウを活用できるワンストップシステム「西武事業承継支援センター」を設置し、支援の強化を図っている。

宿泊や農業に乗り出す南都銀行

奈良県奈良市を拠点とする南都銀行は、宿泊や農業事業などに乗り出すようだ。同行は2021年4月、グループ会社の南都キャピタルパートナーズを通じて、地域経済の発展を目的とした新会社「奈良みらいデザイン株式会社」を設立した。

事業内容には(1)古民家再生を中心に空き家、空き店舗の利活用を通じたまちづくり(2)奈良県内の名産品を販売するECサイトの構築、運営(3)その他、地域の活性化に資する事業をすえている。

すでに吉野地区における古民家再生への着手や、奈良県内の名産品を販売するECモール「ならわし」を設立するなど積極的に事業展開しており、古民家は滞在型の宿泊施設にリノベーションする方針のようだ。

奈良県は古都の文化財を中心に観光が盛んだが、観光庁の統計によると、2018年における同県の延べ宿泊者数は約255万人、客室稼働率は42.4%となっており、いずれも47都道府県で最下位を争う水準となっている。この課題に対し、古民家や空き家を有効活用して地域経済を活性化する構えだ。

一方、農業関連では、新たにアグリ事業を立ち上げ、2022年から農作物の生産を開始する。奈良県の耕作放棄地率は21.2%と近畿圏で最も高く、農業産出額は全国45位の407億円にとどまっているという。

いずれも地域が抱える課題を解決し、ビジネスへと転換していく有効な試みと言えそうだ。

クラウドファンディングに活路を見出す地方の金融機関も

クラウドファンディング(CF)に活路を見出す金融機関も多いようだ。CF国内大手Makuakeは、2015年の城北信用金庫との連携開始を皮切りに金融機関との連携を加速し、現在その数は100社を突破している。

地域事業者の支援や地域活性化のほか、事業性評価に基づく融資判断につなげる目的もあるようで、常陽銀行はCFにおける資金調達実績に合わせて融資額を決定する協調融資制度を導入している。

自らCF事業に乗り出す金融機関もある。山口銀行は地域事業者との連携のもと、地域特化型CF「KAIKA」を設立している。

集めたお金を地域の事業者らに貸し出して利益を上げるスタイルのため、従来のビジネスモデルと相容れないように感じられるが、それだけ金融機関を取り巻く経営環境が変化し始めているのだろう。

金融イノベーションの波で経営環境が激変

キャッシュレス決済の浸透やICT技術を駆使したフィンテック企業の台頭など、金融業界を取り巻く環境は激変しつつある。今後、地方では金融機関同士の合併など再編が加速するほか、緩和政策のもと異業種参入も増加し、金融業界におけるイノベーションが大きく進展する可能性が考えられる。

地域とともにあり続ける地方金融機関は、今後どのような道を歩むのか。その動向に注目したい。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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