自社株買いで株価はどう動く?メリットやデメリット、日本の現状や事例まで詳しく紹介
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近年では資本効率を高める目的で、多くの企業が自社株買いを行っている。しかし、自社株買いにはリスクも潜んでいるため、仕組みを理解した上で実施しなければならない。ここでは自社株買いの概要に加えて、メリット・デメリットや日本の現状などを紹介する。

目次

  1. そもそも自社株買いとは?
    1. 自社株買いの主な目的
    2. 自社株買いの買い付け内容
  2. 自社株買いで株価が変動する仕組み
  3. 企業が自社株買いをする4つのメリット
    1. 1.投資家や既存株主へのアピールにつながる
    2. 2.ストックオプションを活用できる
    3. 3.配当金を減らせる
    4. 4.敵対的買収の防衛策になる
  4. 自社株買いにはデメリットやリスクもある
    1. 金庫株の処分時に株価が下がりやすい
    2. 場合によっては失望売りが生じることも
  5. 自社株買いが株主に与える影響
  6. 日本でも自社株買いは多い?最近の事例も紹介
    1. 【事例1】余剰資金を活用した自社株買い
    2. 【事例2】減益が続くなかでの自社株買い
  7. 実施後の影響を予測するために正しい知識を

そもそも自社株買いとは?

自社株買いとは、企業が自社の株式を買い戻すことである。もともとは資金調達のために発行した株式を、一般投資家などから買い取る形になるため、実施する場合はまとまった資金が必要になる。

一見するとデメリットしかないように思えるが、自社株買いは資本効率を高める戦略として注目されている。

自社株買いの主な目的

企業が自社株買いを行う主な目的には、次のようなものがある。

・株価の引き上げ
・ストックオプションの獲得
・ROEの引き上げ
・株主への利益還元

詳しい仕組みは後述するが、近年では「株主への利益還元策」として実施されるケースが多い。ただし、自社株買いにはデメリットやリスクも潜んでいるため、実施の前には概要をきちんと理解しておくことが重要になる。

自社株買いの買い付け内容

企業が自社株買いを実施する際には、事前に買い付け内容を公開しなくてはならない。具体的にどのような情報を公開するのか、以下で一例を紹介しておこう。

・取得する株式の総数
・株式の取得方法
・買い付け期間
・1株あたりの買付価格

上記の中でも「株式総数・取得方法・買い付け期間」の3つは、株価に影響を及ぼしやすい要素だ。株価の動向次第では自社株買いを行う企業にも悪影響が生じるので、これらの買い付け内容は慎重に決める必要がある。

自社株買いで株価が変動する仕組み

一般的に、自社株買いを実施すると「株価は上昇する」と言われている。株価上昇の要因はいくつかあるが、主なものとしては以下が挙げられるだろう。

・発行済株式総数が減少するため
・市場に流通している株式が減少するため
・投資家からの買い注文が入りやすくなるため

例えば、自社株買いによって市場に流通している株式が減少すると、需要と供給のバランスに変化が生じる。実施前に比べると供給量が減るので、需要量が変わらなければ必然的に株価は上昇していく。

また、株価が割高のタイミングで自社株買いをすると、買い付けをする企業は金銭的に損をしてしまう。つまり、自社株買いは割安のタイミングで行われることが多いため、公表後には投資家からの買い注文が入りやすくなる。

企業が自社株買いをする4つのメリット

ここからは、自社株買いによって生じるメリットを解説していく。前述の目的にもつながる内容なので、その点を意識しながら読み進めていこう。

1.投資家や既存株主へのアピールにつながる

前述でも解説したように、自社株買いを実施すると株価は基本的に上昇する。また、市場に対して「株価が割安」というメッセージを伝えることにもなるので、自社株買いは投資家や既存株主へのアピールにつながる。

ただし、自社株買い後の株価は必ずしも想定通りに動くとは限らない。株価の変動要因にはさまざまなものがあるため、自社株買いの実施前には周囲への影響を慎重に予測する必要がある。

2.ストックオプションを活用できる

ストックオプションとは、自社株を事前に決めておいた価格で購入できる権利のこと。例えば、ストックオプションを従業員に付与しておくと、会社が成長するほど(株価が上がるほど)従業員の利益も増えるため、社内全体のモチベーションアップを期待できる。

このような効果を期待して、市場から自社株を買い戻すケースは少なくない。ただし、多額の売却益が出たり業績が悪化したりすると、かえって従業員離れを引き起こす恐れもある。

3.配当金を減らせる

株主に支払う配当金を減らせる点も、自社株買いを行うメリットのひとつだ。

株式会社が支払う配当金は、全株主の保有株式数によって変化する。市場に流通している株式が多いほど、その企業は多くの分配金を支払わなくてはならない。

この分配金の負担が大きいと、いくら利益を出しても経営が圧迫されてしまうため、市場流通量を減らす目的で自社株買いを行うケースも見受けられる。

4.敵対的買収の防衛策になる

持ち株比率をアップできる自社株買いは、敵対的買収の防衛策としても知られている。

例えば、株式発行によって自社の持ち株比率が下がると、特定の株主に経営権を握られてしまう恐れがある。その結果、強引に経営者を交代させられたり、経営の自由度が下がったりする可能性もゼロではない。

つまり、持ち株比率はできるだけ高い水準を維持する必要があり、その手段として自社株買いが実施されることもある。

自社株買いにはデメリットやリスクもある

自社株買いには多くのメリットがある一方で、実施すると思わぬリスクに直面することもある。特に以下で挙げるデメリットは軽視できないため、計画を立てる前にしっかりと確認しておこう。

金庫株の処分時に株価が下がりやすい

自社株買いによって買い戻した株式は、「金庫株」として会社が保有することになる。では、この金庫株を再度市場に流出させると(※処分と言う)、株価にはどのような変化が生じるだろうか。

金庫株を処分すると、市場に出回る自社株式はその分だけ増加する。つまり、供給量が増えることで需給バランスが崩れるため、金庫株の処理は株価の下落要因になり得る。

また、金庫株を自社で消却する選択肢もあるが、この方法を選ぶと自己株式の絶対数が減るため、自己資本が圧縮されてしまう。その結果、資金調達面で悩まされる可能性もあるので、金庫株を処分・償却するタイミングは慎重に見極めることが重要だ。

場合によっては失望売りが生じることも

自社株買いには株価を押し上げる効果があるものの、状況次第では逆に下落するケースもある。

例えば、自社株買いを実施する前に、市場に対して「株価が上昇すること」を強くアピールしたとしよう。世の中の投資家はこれに反応して買い注文を出すが、市場の期待度と実際の株価上昇の間に差があると、多くの投資家は失望して株式を手放してしまう。このような失望売りが続けば、株価はどんどん下落していくだろう。

ほかにも取得割合を少なく設定しすぎた場合や、ごく少数の株主から自社株を買い戻した場合など、自社株買いで株価が上昇しないパターンはいくつか存在する。株価の下落は経営面に深刻なダメージを及ぼすので、自社株買いの実施前にはその後の影響をしっかりと予測し、買付内容などの実施方法を慎重に検討しなくてはならない。

自社株買いが株主に与える影響

自社株買いはさまざまな目的で行われるが、国内では「株主への利益還元」を狙って実施するケースが多い。では、なぜ自社株買いは株主への利益還元につながるのだろうか。

企業が自社株買いを実施すると、世の中の投資家が注視している以下の指標に変化が生じる。

経営戦略や分析に役立つフレームワーク7選!それぞれの強みや弱み、注意点まで詳しく解説

上記の通り、自社株買いを行うとEPSやROEは上昇し、その一方でPERは低下していく。これらはいずれも「魅力的な銘柄であること」のサインになるので、必然的に多くの投資家から注目が集まる。

このようにして買い注文が集まると、その銘柄は当然ながら上昇していく。つまり、既存株主の利益が増えることになるので、自社株買いは多くの企業から「株主への利益還元策」として活用されている。

日本でも自社株買いは多い?最近の事例も紹介

新型コロナウイルスの影響で、最近では資金繰りに苦しむ企業が多く見られる。しかし、このような状況下であっても、経営に余裕があるタイミングで自社株買いを実施する国内企業は少なくない。

例えば、2021年10月にはFA装置メーカーである『エヌ・ピー・シー』が、45万株(発行済株式総数の2.05%)の自社株買いを公表した。また、大手のなかでは『任天堂』や『NTT』なども、2021年夏頃に自社株買いを表明している。

ほかにはどのような企業が自社株買いを実施しているのか、以下では最近の事例を2つ紹介しよう。

【事例1】余剰資金を活用した自社株買い

国内の不動産ディベロッパーである『三菱地所』は、2019年に同社初となる自社株買いを実施した。この自社株買いで公表された主な買付内容は、以下の通りである。

・発行済株式総数の4.68%(自己株式を除く)を買付
・上限は6,500万株

比較的規模の大きい自社株買いだが、同社は3期連続で最高益が続いていたため(※当時)、大量の資本が積み上がっていた。この資本を使って自社株買いが順調に進めば、資本圧縮やROE向上を実現しながら、かつ資本も効率化できることになる。

この事例のように余剰資金を活用すれば、経営や財務のリスクを抑えた形で資本効率の改善を狙える。ただし、自社株買いはあくまで手段のひとつなので、余剰資金がある場合はほかの方法も模索しながら、よりベストな選択肢を見極めていきたい。

【事例2】減益が続くなかでの自社株買い

自社株買いにはさまざまなメリットがあるため、経営状態が多少苦しくても実施する企業が存在する。

例えば、国内の電気機器メーカーである『ファナック』は、減益が続いている2019年に自社株買いを行った。規模はそれほど大きくないものの(上限300万株)、実際に3ヶ月ほどで約200万株を買い戻している。

同社が自社株買いに踏み切ったのは、株主への利益還元を通して資本効率を改善するためだ。
また、自社株買い後の株価についても、2019年末にかけて上昇している。

もちろん失敗するリスクもあるが、自社株買いを行うと経営状態が上向きになる可能性がある。余剰資金があるタイミングにこだわる必要はないので、さまざまな場面で活用できる経営戦略として意識しておきたい。

実施後の影響を予測するために正しい知識を

自社株買いを実施すると、既存株主や投資家はもちろん、従業員や取引先などにも影響を及ぼすことがある。思わぬリスクが顕在化する可能性もあるため、実施前には慎重に計画を立てなくてはならない。

特に周囲への影響は細かく予測する必要があるので、自社株買いで株価が動く仕組みや生じるリスクはしっかりと理解しておこう。

著:片山 雄平
1988年生まれのフリーライター兼編集者。2012年からフリーライターとして活動し、2015年には編集者として株式会社YOSCAに参画。金融やビジネス、資産運用系のジャンルを中心に、5,000本以上の執筆・編集経験を持つ。他にも中小企業への取材や他ライターのディレクション等、様々な形でコンテンツ制作に携わっている。
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