半導体不足でディストピア化?「何も手に入らない」半導体産業の末路
(画像=Anna/stock.adobe.com)

半導体不足による部品調達難に改善の兆しが見られないとの見通しから、任天堂やトヨタを筆頭に減産を余儀なくされる企業が続出している。Appleの売上損失が推定6,904億円に及ぶ可能性も浮上している。

一方では、「半導体が進化するほど生産プロセスで大量の電力と水が使用され、温暖化ガスの発生量が増える」との懸念が高まるなど、半導体を巡る問題は尽きない。

任天堂、トヨタ減産 Appleの売上損失60億ドル?

任天堂は2021年11月、ゲーム機「スウィッチ」の2022年3月期の販売台数計画を、8月の通期計画より150万台少ない2,400万台へ下方修正すると発表した。一方、トヨタは2021年度の世界の総生産量(900万)維持を目指すものの、11月の生産量については当初の計画から15%減の85~90万台に減らす意向だ。

時価総額世界一を誇るAppleも例外ではない。「iPhone13」の部品確保に向けてiPadの減産に踏み切ったとメディアは報じている。

同社の第4四半期売上高は過去最高の834億ドル(約9兆5,965億円、前年同期比29%増)を記録したものの、これはウォール街の予想を下回る数字だった。さらに「予想以上の供給制約」により、同四半期に生じた売上損失が推定60億ドル(約6,903億7,021万円)に及ぶことが、ティム・クックCEOの発言から明らかになった。

生産減が必ずしも収益や利益の低下につながるわけではないとはいえ、需要が最も伸びる年末商戦を直撃することは避けられない。半導体不足が長期化するほど、業績への影響が深刻になることが予想される。

スマホが「贅沢品」になる?供給不足と需要拡大の行方

このような状況にも関わらず、半導体の需要は凄まじい勢いで拡大し続けている。国際データインテリジェンス、International Data Corporationの予想によると、2021年の半導体市場は前年比6.5%増の17.3%成長し、市場規模は2025年までに6,000億ドル(約69兆393億円)に達する見込みだ。

「2022年半ばには供給不足が解消し、2023年には需要以上の供給能力に達する」という楽観的なシナリオに基づく予想だが、半導体が生活に占める割合がますます拡大している近年、需要の減少は想像しがたい。

半導体不足が解消されないまま需要が膨らみ続けた場合、どうなるのか。半導体ファンドリーがこぞってチップの価格を引き上げ、その結果、サプライチェーンではコストインフレが生じる。すでに一部のメーカーはスマホやゲーム、パソコンといった半導体商品の価格を引き上げているが、2022年は販売価格への転嫁がより顕著になる可能性が予想される。

価格の上昇は時として、購買意欲に水を差す原因になりかねない。価格上昇が加速すれば、生活の一部として定着している商品が「贅沢品」になるといった事態も起こり得る。

「半導体生産がCO2排出量の大部分を占めている」

環境への悪影響も、半導体需要拡大による懸念のひとつだ。半導体の代表的な材料であるシリコン(ケイ素)原子は地球上に豊富に存在する資源だが、生分解ができない上にリサイクル可能な部分が少ないというデメリットがある。

また、半導体の生産プロセスなどで発生するCO2量が、年々増加している点も指摘されている。

ハーバード大学の研究者ウディト・グプタ氏らが2020年に、興味深い共同論文を発表した。世界最大の半導体メーカーであるTSMC(台湾積体電路製造)やIntel、Appleが開示している持続可能報告書を分析したもので、「社会のコンピューター化が進むとともに環境への負担が増える」というジレンマが浮き彫りになっている。

グプタ氏らは報告書の中で「2030年までに世界のエネルギー需要の最大2割を情報・コンピューター技術が占めるようになる」と予想しており、「半導体の生産が(情報・コンピューター技術による)CO2排出量の大部分を占めている」と結論付けた。

「自動車産業より環境に悪い」との批判も

電気自動車(EV)や風力タービンに代表される「環境に優しい商品」に欠かせない半導体が、実際には環境破壊を招いているというパラドックスだ。各社の開示資料を見ると、「環境悪の根源として叩かれてきた自動車産業より、最先端の半導体メーカーの方が環境に悪い」という批判が、あながち的外れではないことが分かる。

たとえば、2019年にIntelの工場で消費された水の量は米フォードモーターの3倍以上、排出ガス量は2倍以上だった。AppleやQualcommなどを顧客にもつTSMCの水の消費量は、過去10年間でほぼ5倍に増えた。

ブルームバーグいわく、「五輪の競泳用プールを約8万回満杯にできる量」に匹敵するらしい。また、環境保護団体グリーンピースの推定によると、同社の電力使用量は台湾の総使用量の4.8%を占めるというから驚きだ。

このようなジレンマ解消策として、AppleやTSMCを含む大手企業は脱炭素社会に向けた中期~長期目標を打ち出している。TSMCは製造プロセスにおけるエネルギーおよび資源の消費・汚染の削減にも、引き続き注力していく構えだ。

世界が直面している重要課題

各国政府が競うように最先端の半導体開発・製造を推進する中、「半導体が環境に悪影響を与える」という事実は受け入れがたい。

2021年10月末~11月中旬にわたり英国で開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)では、「各国が2030年までに対策を強化しない限り、上昇気温をパリ協定の目標である1.5度に抑えることは難しい」という、厳しい現実が露わになった。

臭い物に蓋をしてやみくもに「CO2排出量削減」と唱えるだけでは、温暖化は防げない。だからといって極端な制限に走ると、イノベーションを妨げるリスクがある。いかにして環境への悪影響を最小限にとどめながら、イノベーションを促進し経済や社会に価値を生み出すか。世界が直面している重要課題である。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

無料会員登録はこちら