「これ、なんだろう?」
立ち止まって作品をのぞきこんだり、作品を指さして他の来場者と語りあったり。
2021年10月30日・31日に、ANDARTオーナー向けの鑑賞イベント「WEANDART」の中で開催された若手アーティストの作品展「KIBI」。ひときわ来場者の興味を惹いていたのが、アナログコラージュで知られるアーティスト・岡本奇太郎さんの作品です。
壁に並んだ9点の作品が、一体何でできているのか、何を意味しているのか、みなさん好奇心いっぱいに見入っていました。
岡本さんは、雑誌編集者からアーティストへ転身したという異色の経歴の持ち主。個展の開催、国内外でのアートフェアやグループ展の参加に加え、アパレルブランドやミュージシャンとのコラボレーションや執筆活動も行うなど、幅広い分野で才能を発揮していらっしゃいます。
常人には真似できないユニークな発想と卓越したセンスで、奇想天外な世界観を構築する岡本さん。どのように制作を行っているのかや、最近の状況などをお伺いしました。前編、後編に分けてお届けします。
「『これはアートじゃない』というのは、制作のキーワードになるかもしれません」
ーー作品に通底するテーマや、制作する上で大切にしていることを教えてください。
コンセプトは特になくて、直感でつくっています。
ANDARTさんが「アートに対するハードルを下げたい」というメッセージを発信しているように、僕も、アートはもっと身近なものだということを伝えたいと思っています。じゃあどうしてアートのハードルは高いのかと考えると、「アートをつくる人は難しい哲学みたいなものを持っていて、何かしら意味を込めてつくっている」と思って観ている人が多いのではないかと。「その哲学や意味が分からない=アートって難しい」となるのかなと思うんですよね。
実際、作品を観た人たちから「どういうコンセプトなんですか?」「どういう意味があるんですか?」と聞かれることが多いんですけど、僕の場合そういうのがないので答えに困るんです。だから、はじめから「THIS IZ NOT ART(これはアートじゃない)」って書いておくかって。「これはアートじゃない」というのは、制作のキーワードになるかもしれません。
ーーコラージュを多く制作されていますが、どこから素材を拾ってきて、どういうふうに組み立てて…というのは、つくりながら決めているのでしょうか。
コラージュの素材は、神保町という古本屋街で買うことが多かったです。ぱーっと立ち読みをして、気になったイメージが載っていたら買うんですが、見た瞬間に「これをああすれば、おもしろいかもな」というアイディアが湧いてきます。
ーー「これいいな」と思うものに何か共通点はありますか?
かわいいものやダークなものや意味不明なものに惹かれがちですね。あとグラフィティや江戸絵画やオプティカルアートなど、自分が好きなアートのエッセンスが感じられるものですかね。
「住んでいる場所によってつくるものが変わってきた、というのはすごくあります」
ーー今まで特に影響を受けたアートやアーティストはいらっしゃいますか? 吉永嘉明さん(『危ない1号』2代目編集長)の作品に刺激を受けて創作活動を始めたと伺っていますが。
めちゃくちゃたくさんいます。誰でも知っているような有名なアーティストももちろん好きですが、身近な先輩たちの影響のほうが大きかったかもしれません。僕は20代の頃に雑誌の編集をしていたので、カメラマンさんやライターさんなど、創作活動をしている人が周りにたくさんいたんです。吉永さんもそのひとりですね。
身近な人が何かをつくるのを見て、自分でもやってみたいなと思ったり、先輩に教えてもらったアートを観て興味が出たり、いろいろと影響を受けました。
ーー最近、制作に影響を与えるような出来事や体験はありましたか?
住んでいる場所によってつくるものが変わってきた、というのはすごくあります。以前は渋谷区に住んでいたので、しょっちゅう神保町に行って素材を買い漁っていました。でも今は横須賀在住なので、神保町まで電車で1時間半くらいかかるんですよ。
なので、最近は遠出しなくても手に入る素材を使って制作することが多くなって、明らかに作風が変わりました。
今回展示している作品(上の写真左端)に使っているような木も、毎朝海沿いをランニングしていると、浜辺にいっぱい打ち上がっているんですよ。別に作品にしようと思って拾ったわけではないんですけど、自分の中で「この形いいな」って思うものを持ち帰っていたら、いつのまにか溜まっていて。展示の準備をしようといろいろ考えていた時、ふと今まで拾ってきた木を見たら、「もしかして使えるかも」と。
ーーお引越しは何かきっかけがあったんですか?
うちの奥さんの地元が横須賀なので、以前から時々行っていました。横須賀って海も山もあって、米軍基地があるので外国人も多くて、「なんだか旅行に来たような気分になっていいな、いつか住みたいな」と思っていたんです。渋谷区には15年近く住んでいたんですが、3年前に思いきって引っ越すことにしました。
ーーコロナ禍で世の中の状況にも変化がありましたが、岡本さんの考え方や制作に影響はありましたか?
つくったものに対する影響で言うと、「クッション」シリーズがあります。
茶道が好きなので、普段からいろんなところで器を買っているんですけど、展示作品に使っている素材は、インドから器を買った時に切り裂かれた状態で入っていた緩衝材なんですよ。それを見た時に、日本が明治時代に陶磁器を輸出する際に、浮世絵を緩衝材に使っていたエピソードを思い出したんです。その緩衝材に海外の人たちが衝撃を受けたことで、浮世絵は世界に広まったわけですが、そのエピソードを反転させてつくったのが「クッション」です。
横須賀に引っ越してからも神保町にはたまに行っていたんですが、コロナ禍で本屋さんの営業時間が短くなったり、休業するお店が出てくるようになって。その時、ちょうど通販で頼んだものに緩衝材が入っていたので、これだったら緊急事態宣言で店が閉まろうが、家にいながらにしてできるなと。出かけなくても手に入る素材を使うようになった、というところは、コロナの状況があったからこその展開だと思っています。
岡本さんの作品は、深く意味を考えたりしなくても、見ているだけでワクワクさせてくれます。お話を伺って、岡本さん自身が興味を持ったものを使い、制作を楽しんでいるからこそ、「これはおもしろい!」という気持ちが作品を通して伝わってくるのだと思いました。後編では、日本文化に対する熱い想いや、これからやりたいことについて語っていただきます。
岡本さんの作品は、オンラインストア「YOUANDART」でもご紹介しています。ぜひチェックしてみてください。
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岡本奇太郎 横須賀を拠点に活動を行うアーティスト、ライター。雑誌編集者時代に担当した吉永嘉明氏(『危ない1号』2代目編集長)のコラージュ作品に刺激を受け、創作活動を開始する。以降、コラージュやシルクスクリーンなどの手法を用いた作品を制作し、個展開催、国内外のアートフェアやグループ展に参加。また、アパレルブランドとのコラボレーション、ミュージシャンへのジャケットアートワークの提供のほか、自身がこれまでに影響を受けた芸術を紹介するアートエッセイ『芸術超人カタログ』(双葉社発行『小説推理』)などの執筆活動も行っている。 Instagram:@okamotokitaro |
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文:稲葉 詩音、写真:ANDART編集部