経営戦略は現代ビジネスに必要不可欠であり、うまく活用すれば顧客や投資家などのステークホルダーにもアピールできる。ここでは経営戦略の概要や全体像のほか、戦略ドメインを含めた策定プロセスや成功につなげるポイントなどを解説していく。
目次
そもそも経営戦略とは?策定する必要性
経営戦略とは、企業が理想のビジョンを達成するための中長期的な計画のこと。実際の策定時には単に経営目的を設定するだけではなく、目的達成のために「どの事業をどう進めていくか?」や「どのような組織を構築するか?」など、今後の具体的な行動まで考えていく。
現代の企業にとって経営戦略は必要不可欠であり、具体的な戦略がないと効率的な事業展開は難しくなる。特に複数の事業に取り組んでいたり、成果が出るまで時間がかかったりする事業では、「何から取りかかるべきか?」を見極めるために経営戦略が必要になるだろう。
経営戦略を策定する主な目的
企業が経営戦略を策定する目的はさまざまだが、基本的なものとしては以下が挙げられる。
・自社の強みと弱みを把握する
・必要な経営資源(ヒト・モノ・カネ)をそろえる
・用意した経営資源を効率的に運用する
上記のほか、ステークホルダーに対して会社の方向性を示すために、経営戦略を策定するケースも多い。例えば、経営戦略を通して従業員との意思疎通を図れば、会社全体の団結力や一貫性を高められるだろう。
また、投資家や金融機関などの外部から経営戦略が評価されると、資金調達のハードルが下がる可能性もある。
経営戦略の全体像
経営戦略の策定では、各事業・各部門などに関する方針を決めていく。しかし、仮にそれぞれの事業・部門で一定の成果を上げても、組織全体がうまく連携しなければ経営目標は達成できない。
そのため、経営戦略の策定時には「全体像」をイメージすることが重要になる。
経営戦略は3つの階層に分けられる
経営戦略には3つの段階があり、基本的には「企業戦略→事業戦略→機能別戦略」の順で内容を考えていく。
事業戦略は企業戦略を細分化したものであるため、事業戦略の策定時には企業戦略を意識する必要がある。また、次はその事業戦略を意識しながら各部門の計画を細分化し、さらに機能別戦略へと落とし込んでいく。
この順序を守らないと各戦略の方向性にズレが生じ、一貫性のない経営戦略が出来上がってしまう。各戦略の関係性に注意しながら、1つずつ丁寧に戦略を組み立てていこう。
戦略実行の後にはレビューが必須
経営戦略を策定した後には、その戦略を実行することになる。ただし、経営戦略は一度実行すれば終わりではなく、PDCAサイクルを繰り返しながらブラッシュアップすることが重要だ。
経営戦略は中長期的な計画になりやすいので、実際に進めてみるとズレが生じることもある。
そのため、戦略実行の後にはレビューを行い、再び社内の調査や分析、戦略策定を実施しなければならない。
このときに経営戦略の全体像が頭に入っていると、「どこを見直すべきか?」や「どこに手を加えるべきか?」が分かりやすくなる。つまり、PDCAサイクルをスムーズに回せるようになるため、上記で紹介した3つの階層はきちんと理解しておこう。
経営戦略を策定する基本的なプロセス
ここからは、経営戦略策定の基本的なプロセスを解説していく。一貫性のある計画を立てるために、以下を参考にしながら丁寧に経営戦略を組み立ててほしい。
【STEP1】経営理念・経営目標の策定
まずは経営戦略の核となる、経営理念を考えていく。
経営理念とは、企業の存在意義や価値観、行動指針などを言語化したものだ。なかなか思い浮かばない場合は、「自社の使命やミッション」のように言い換えるとイメージしやすくなる。
経営理念が固まったら、次はその抽象的な内容を「経営目標」へと変えていく。経営目標の策定時には、将来的に目指す会社像を数値化すること(売上やシェア率など)がポイントになる。
事前に定めた経営理念とマッチするように、どのような数値目標を立てるべきか慎重に考えていこう。
【STEP2】内部環境・外部環境の分析
内部環境とは、簡単に言えば自社が保有している経営資源(ヒト・カネ・モノ)のことだ。内部環境分析では「どんな経営資源をどれくらい所有しているか?」を明確にしながら、自社の強みや弱みを明確にしていく。
一方で外部環境とは、自社を取り巻く環境のことである。外部環境には多くの要素があるため、以下の2つに分けて分析する方法をすすめたい。
内部環境や外部環境を分析しておくと、業界内における自社の立ち位置が分かりやすくなる。つまり、現実的かつ効率的な戦略を立てやすくなるので、これらの分析にはじっくりと時間をかけよう。
【STEP3】戦略ドメインの策定
戦略ドメインとは、企業が進出する事業領域のことだ。ここまでに決めた経営理念や経営目的、さらに内部環境分析・外部環境分析の結果も踏まえた上で、「どの事業領域で勝負するか?」を考えていく。
戦略ドメインを明確にしておくと、会社全体の方向性を統一しやすくなる。また、経営資源の優先配分先が分かりやすくなる点も、戦略ドメインを策定するメリットだろう。
なお、戦略ドメインの策定方法やポイントについては、後述で詳しく解説する。
【STEP4】企業戦略(全体戦略)の策定
ここまで進んだら、いよいよ全社的な企業戦略を策定していく。この後に策定する事業戦略・機能別戦略にブレが生じないように、【STEP3】までの内容を強く意識することが重要だ。
具体的に決めるべき項目としては、進出する市場や資源配分、顧客に提供する製品・サービスなどが挙げられる。そのほか、経営理念やビジョンを社内で共有する方法や、事業全体の方向性などもこの段階で煮詰めておきたい。
【STEP5】個別戦略(事業戦略・機能別戦略)の策定
個別戦略の策定は、企業戦略を達成するために「何が必要になるのか?」を意識しながら進めていく。例えば、事業戦略であれば顧客戦略や事業モデル、機能別戦略では各部門が達成すべき目標や方向性などを定めていく。
なかでも機能別戦略は、各部門の「具体的な行動」まで落とし込むことが重要になる。必要であれば各部門の戦略(人事戦略やマーケティング戦略など)を策定し、その上の事業戦略や企業戦略を達成できる仕組みを構築していこう。
戦略ドメインの決め方や考え方
上記の中でも「戦略ドメインの策定」は、多くの経営者が悩みやすいプロセスだ。
自社の最適な戦略ドメインは、次の3つに分けるとイメージが湧きやすくなる。
例えば、工事現場用の車両・機器を製造している場合は、以下のように戦略ドメインを考えていく。
・標準顧客…現場の作業を担当する企業
・顧客機能…安全性や信頼性が高く、かつ工期に間に合うように提供すること
・能力や技術…自社の安全管理システムや物流ネットワーク など
このように細分化すれば、自社が入手すべき技術やノウハウ、経営資源などが明確になるだろう。
経営戦略を成功させる3つのポイント
経営戦略を成功させるには、ほかにも押さえておきたいポイントがいくつかある。ここでは特に意識すべきポイントを3つまとめたので、策定する前にしっかりと確認しておこう。
1.分析にフレームワークを用いる
内部環境や外部環境の分析、戦略ドメインの策定時には、関連するフレームワークを活用することが望ましい。例えば、外部環境分析の際にPEST分析(※)を用いると、自社に関係するマクロ外部環境を洗い出しやすくなる。
(※)「政治的環境・経済的環境・社会的環境・技術的環境」の4つの観点から、マクロ外部環境を分析すること。
ほかにもSWOT分析やCFT分析など、経営戦略の策定に役立つフレームワークはいくつか存在する。経営戦略の質が高まるだけではなく、策定のスピードアップにもつながるので、できるだけ多くのフレームワークを用いながら調査・分析を進めていこう。
2.専門家(コンサルティング会社など)をうまく活用する
経営戦略の策定には専門的な知識が必要になるため、社内だけでは策定が難しいこともある。このようなケースでは、無理をせずに専門家に相談することを検討したい。
経営戦略に関する相談先としては、主に以下が挙げられる。
・コンサルティング会社
・金融機関(主にメインバンク)
・税理士や会計士
・中小機構
・商工会議所
ちなみに上記に該当する相談先だからと言って、必ずしも有益なアドバイスを受けられるとは限らない。同じコンサルティング会社であっても、大企業専門と中小企業専門とでは得意とする案件が異なる。
そのため、専門家を活用する際には相談内容を明確にした上で、その内容を得意とする相談先を選ぶことが重要だ。また、相談先によって見解が変わることもあるので、専門家に全てを任せるのではなく、自社側できちんと判断できる体制も整えておきたい。
3.各施策に優先順位をつける
中小企業の経営戦略では、各施策に優先順位をつける必要がある。基本的に中小企業の経営資源は限られており、すべての施策を十分に進められるとは限らないためだ。
また、各施策に優先順位をつけておくと、経営資源の適切な配分も容易になる。例えば、収益性の高い事業を優先し、その事業へ集中的に資源を投下すれば、大きな利益を上げられる可能性が高まるだろう。
各戦略のつながりを意識し、一貫性のある経営戦略を
経営戦略は全体像をイメージすることが重要であり、各戦略のつながりを意識すると一貫性を保ちやすくなる。なかでも機能別戦略は複雑化しやすいため、策定の際には事業戦略や企業戦略を強く意識することが重要だ。
経営戦略は顧客や投資家などのステークホルダーにも影響を及ぼすので、最終的には外部へ公開することを踏まえて、丁寧に質の高い戦略を組み立てていこう。