佐川急便の社員が自殺… パワハラや過酷労働が止まらない物流業界の末路
(画像=yu_photo/stock.adobe.com)

物流業界の悲鳴が止まらない。高まる宅配需要に人手が追い付かず、配送ドライバーの労働環境は限界に達しつつあるようだ。物流業界が抱える課題と解決に向けた取り組みなどについて解説していく。

物流業界における課題

物流業界は、以前から課題を抱えていたが、宅配需要の高まりでさらに深刻さを増している。

右肩上がりを続ける宅配需要

近年、EC需要の高まりを受け宅配需要が増加の一途をたどっている。多様化する消費者ニーズに対し、売り場に制限がなく商品検索が容易なECの特性がマッチした形だ。国土交通省によると、2020年度における宅配便等取扱個数は約48億個となっている。約37億個だった2015年度からこの5年間で3割も増加している。

その一方で、品揃えが豊富になるにつれ商品の小ロット化が進み、配送の小口・多頻度化も進行する。これに伴ってトラック1台あたりの積載効率も落ち込み、収益を圧迫している。

再配達件数も増加

ECの普及により、通信販売は気軽に利用可能な存在となった。この気軽さ故か、再配達件数も一時増加し、再配達率は15%前後で推移していた。核家族化により世帯当たりの人員数が減少し、単身世帯が増加傾向にあることも一因となっているようだ。

宅配業者にとって、再配達が大きな負担となることは言うまでもない。ひとつの商品を二度、三度と配達しても収益は増加せず、労力ばかりが増加するからだ。

なお、宅配ボックスや置き配といった新たな受け取り方法が普及し始めたため、再配達率は2019年4月の16%から、2020年4月8.5%、2021年4月11.2%と改善傾向がうかがえる。

人手不足が常態化

このような宅配数の増加に対し、トラックドライバーの絶対数が追い付いていないようだ。全日本トラック協会の調査によると、トラックドライバーが不足していると感じる企業の割合は増加傾向にあり、2019年は67%に達している。

有効求人倍率は2016年に2倍を超え、一時は3倍に達した。新型コロナウイルスの影響で2020年10月の倍率は1.83倍まで低下したものの、全産業平均の0.97倍に比べると明らかに高い水準だ。

過酷な労働環境が顕在化

トラックドライバーの高い有効求人倍率の背景には、過酷な労働環境がありそうだ。厚生労働省の統計資料によると、トラック運送業における労働時間は全職業平均より約2割長いにもかかわらず、年間賃金は同1~2割程度低い。

トラック運送業は典型的な労働集約型産業であり、人的資源が必須であるものの、人が集まりにくい状況となっているようだ。

過労死やパワハラによる自殺も

過酷な労働環境は過労死の温床となる。厚生労働省などの調査によると、2016年度における労災事案は、疾患・業種別で運輸業・郵便業が最多の464件を数えた。雇用者100万人あたりの業種別事案数では、漁業の38.4件に次ぎ、運輸業・郵便業が28.3件となっている。拘束時間の長い勤務や不規則な勤務などが理由に挙げられている。

また、少なからずパワハラ案件もあるようだ。2021年6月には佐川急便の営業所に勤務していた社員が自殺した。会社は上司によるパワハラを認め、自殺の一因になったとして遺族に謝罪している。2017年2月には、自殺したヤマト運輸従業員の遺族が、パワハラが要因として会社を提訴する案件も起きた。

物流業界に限ったことではないが、パワハラをはじめとした各種ハラスメント対策は喫緊の課題となっている。

このような課題はいつまで続く?

前項で紹介した物流業界の課題は、以前から指摘されており、さまざまな解決策が検討されてきた。今後、これらの課題は解消されるのだろうか?

人手不足や宅配需要増加の課題解消の鍵は自動運転?

労働環境改善に向け、全日本トラック協会は「トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン」を2018年に取りまとめた。長時間労働の是正など、ドライバーの処遇や労働環境、労働条件の改善に努め、若年労働者の確保を推進していく方針だ。

また、今後大きな注目を集めそうなのが自動運転技術である。ドライバーの無人化を図る同技術は、物流をはじめタクシーやバスなどの移動サービスにおける人手不足の解消に資するものとして高い期待が寄せられている。

物流関連では現在、高速道路における隊列走行技術や、ラストワンマイルを担う自動走行ロボットの実証実験などが進行中だ。自動走行ロボットは小型で歩道を低速走行するモデルが主流で、各地の配送拠点や小売店舗などから住宅に向け荷物を運搬する。

隊列走行は、後続車無人の実証に2021年3月に成功しており、2022年度以降の実用化目標を掲げている。

自動走行ロボットに関しては、第2次内閣を発足した岸田文雄首相が2021年11月、「新たな資本主義」構想の中で言及しており、早期実現に向け2022年の通常国会に関連法案を提出する予定だという。

再配達問題に取り組むスタートアップも登場

再配達問題の解決に向けては、新たなアイデアやテクノロジーを駆使したスタートアップも登場している。

Yper(イーパー)は、小さなスペースでも設置可能なスマホ連動型置き配バッグ「OKIPPA」サービスの展開を進めている。折り畳み可能な宅配バッグと、アプリを活用した通知サービスなどを一体的なサービスといているのが特徴だ。

一方、207(ニーマルナナ)は宅配業者向けに業務を効率するアプリ「TODOCUサポーター」などを展開している。わかりやすい配送先住所の一覧表示機能や在宅回答依頼送信機能、在宅情報確認機能、置き配依頼受付機能、宅配ボックス閲覧機能などさまざまな機能を備えているようだ。

最新テクノロジーでビジネスの構造転換を

本来、宅配需要の増加は業界にとって明るいトピックとなるはずだが、常態化した人手不足がそれを許さないようだ。労働環境改善によるドライバーの確保は必須の状況だが、この先も宅配需要が伸び続ける可能性を考慮すると、焼け石に水となりかねない。

自動運転技術をはじめとした最新テクノロジーでビジネスの構造転換を図るなど、抜本的な改革を前向きに進めていかなければならない時代が訪れつつあるようだ。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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