中国、一帯一路でボロ儲け?途上国の借金は累計43兆円に
(画像=MaximP/stock.adobe.com)

広域経済圏構想を掲げる中国の「一帯一路政策」だが、その背後では発展途上国の「隠れ債務」に対する懸念が高まっている。最新の調査報告によると、42ヵ国の事業費の大半が中国金融機関からの融資によるもので、債務総額は43兆円に膨張しているという。

一方、発展途上国を借金づけにした一帯一路の恐るべきワナに対抗すべく、米国を筆頭とするG7は代案となるインフラ支援構想を立ち上げた。

21世紀のシルクロード経済圏構想「一帯一路」

一帯一路は習近平国家主席が2013年に提唱した、シルクロード経済圏構想だ。中国を起点とするアジア・中東・アフリカ東岸・欧州を、中央アジア経由の陸路(一帯)とインド洋経由の海路(一路)でつなぐことで、インフラの整備を進めるとともに経済的な協力関係を築くことが目的である。

2021年の時点で、世界のGDPの40%を占める139ヵ国参加する、巨大国際プロジェクトに成長を遂げた。

中国がボロ儲けする驚愕の試算

中国は一帯一路以前から過去20年間にわたり、開発途上国の公的・民間プロジェクトに莫大な金額の資金を提供してきた。「開発途上経済の発展を支援する」という名目だが、その実態の不透明性については以前から問題視されていた。2021年9月、その衝撃的な実態がついに明らかになった。

米ウィリアム&メアリー大学に本拠を置く国際開発研究所であるAidData が発表したのは、一帯一路事業への事業開発金融(開発途上国などの開発事業に対する融資)状況をまとめた報告書『Banking on the Belt and Road』だ。同研究所 は報告書の作成にあたり、2017年末までの18年間に中国が世界165ヵ国で経済的支援を行った、1万3,427件の開発事業を分析した。

報告書によると、中国は一帯一路の導入以来、助成金1件に対し、融資31件という割合で発展途上国に資金を提供している。これは報告書で分析した総額8,430億ドル(約95兆4,147億円)相当の事業の多くが、「借金」という形で資金を調達していることを指す。

貸し手は高金利の商業銀行を含む、中国の国有銀行だ。開発支援の要素より、自国に経済的利益をもたらす商業融資の要素が強いことは、誰の目にも明らかである。

それを裏付けるかのように、中国による5億ドル(約565億8,108万円)以上の大型融資は一帯一路が開始された最初の5年間で3倍に増加した。現在の年間国際開発費は、米国を含む主要経済大国の2倍以上に匹敵する、約850億ドル(約9兆6,753億円)に達している。

発展途上国が陥った「一帯一路のワナ」

資金の主な借り手は、低・中所得国だ。一帯一路の拡大にともない商業銀行の融資の割合が高まったことで、借り手側の担保負担が重くなった。AidData の推定によると、融資を受けている42ヵ国が抱える中国への債務は国内総生産(GDP)の10%を超えており、これまでに明らかになっていなかった「隠れ債務」は3,850億ドル(約43兆5,666億円)にのぼる。

最近の例では、「中国に借金づけにされた資源国」ザンビアのディフォルト(債務不履行)が記憶に新しい。同国政府と国営企業の中国債権者に対する債務は、2021年6月の時点で60億ドル(約6,789億4,980万円)を超えていた。公表されていた金額のおよそ1.8倍である。同国は現在、債務再編に向けて国際通貨基金(IMF)と協議を進めている。

雪だるま式に膨張する隠れ債務

なぜ、各国で隠れ負債が雪だるま式に増えているのか。その要因のひとつとして、これらの国の債務の大部分がバランスシート上で不透明であることが挙げられる。

近年の一帯一路では、中国による融資の7割が国営企業や国営銀行、特別目的事業体、合弁事業、民間部門機関に流れている。そのため、政府のバランスシートや世界銀行が各国の対外借入に関する詳細をまとめた「債務者報告システム(DRS)」では、これらの負債の正確な数字を追跡できない。中国側の融資関連情報の開示も不十分だ。

ザンビアの例からわかるように、各国の実際の債務額はDRSなどで公開されている金額よりはるかに高いとAidData は推測している。

資本力を活かした「現代の帝国主義」?

中国の狙いが以前から指摘されている「国家戦略」の一環であると仮定すると、辻褄は合う。各国が高金利の負債を返済できれば、中国側はボロ儲けできる。デフォルトに陥れば、その国に対して覇権が握れる。どちらに転んでも、中国はダメージを受けずに国際的支配力を強化できるというシナリオだ。この仮定が正しければ、まさに資本力を活かした現代の帝国主義ともいえる戦略である。

米国としてはこのような事態を傍観しているわけにはいかない。2021年10月、OECD(経済協力開発機構)と共同で、発展途上国および新興経済国のインフラ投資における汚職リスクを軽減するためのプロジェクト「Connecting the Dots」を設立した。また、6月にはG7が2035年までに開発途上国に40兆ドル(約4,529兆534億円)規模の投資を行う「Build Back Better World(B3W)」構想を発表した。

いずれも一帯一路の対抗馬の性質を帯びることから、米中関係の緊張感がさらに高まる可能性が指摘されている。

腐敗、労働基準違反…事業の約4割に支障

経済格差を是正するために始まったはずの一帯一路が、他国の資金援助に依存せざるを得ない国をさらに窮地に追い込んでいる。また、事業の35%が不正スキャンダルや労働基準違反、環境破壊を巡る議論や住民の抗議デモなど、さまざまな問題を引き起こしている点も懸念されている。今こそ、一帯一路の本質やあり方が問われる時ではないだろうか。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

無料会員登録はこちら