東京都・京橋にあるアーティゾン美術館では、2021年10月2日(土)~2022年1月10日(月・祝)の会期で石橋財団コレクション選「印象派ー画家たちの友情物語」が開催されている。本展では公益財団法人である石橋財団のコレクションのうち16人の印象派の作家の作品を展示し、印象派の作家たちの交友関係とともに紹介する内容となっている。この記事では数ある展示のセクションの中からいくつかピックアップし、その見どころを紹介する。

マリー・ブラックモン《セーヴルのテラスにて》1880年
(画像=マリー・ブラックモン《セーヴルのテラスにて》1880年)

印象派の父と、モデルともなった女性作家たち

エドゥアール・マネ《オペラ座の仮装舞踏会》1873年
(画像=エドゥアール・マネ《オペラ座の仮装舞踏会》1873年)

会場に入ってまず目に入るのは「マネ×モリゾ×ゴンザレス」のセクション。印象派の父とも呼ばれるエドゥアール・マネと、その師弟関係にあったエヴァ・ゴンザレス、マネの義妹であり互いに影響を与え合う関係だったベルト・モリゾの3人の作品が展示されている。ゴンザレスとモリゾはマネの作品のモデルを務めることもあったという。暗めの色彩と、大胆な筆遣いが共通してみられた。

想像が膨らむ、ルノワールとカイユボットの功績

ピエール=オーギュスト・ルノワール《すわるジョルジェット・シャンパンティエ嬢》1876年
(画像=ピエール=オーギュスト・ルノワール《すわるジョルジェット・シャンパンティエ嬢》1876年)

ピエール=オーギュスト・ルノワールとギュスターヴ・カイユボットのセクション。カイユボットは画家として活動する一方で、印象派の仲間達の作品を購入することで彼らの生活を支えたコレクターでもあった。カイユボットの誘いを受け第二回印象派展に参加したルノワールは、あらゆる印象派の面々と交友関係があったことが相関図から読み取れる。ルノワールは45歳で亡くなったカイユボットの遺言執行人としてカイユボットのコレクションを国家に寄贈するため奮闘したという。2人の活動は、印象派の作品を後世に残す功績となったのではないだろうか。

印象派の代表的存在の交友関係から見えてくるものとは

クロード・モネ《睡蓮》1903年
(画像=クロード・モネ《睡蓮》1903年)

印象派といえば、誰もが一度は目にした事があるであろうクロード・モネの作品。このセクションでは、モネと友人関係にあったアルフレッド・シスレーと、モネから影響を受けた新印象派のポール・シニャックの作品が展示されている。シニャックは16歳の時にモネの個展を見て感銘を受け、画家になることを決意したというエピソードもある。

ポスト印象派の有名コンビ、それぞれの知られざる交友関係

フィンセント・ファン・ゴッホ《モンマルトルの風車》1886年
(画像=フィンセント・ファン・ゴッホ《モンマルトルの風車》1886年)

ポスト印象派の代表的な画家であるフィンセント・ファン・ゴッホとポール・ゴーガン。この2人が共同生活の後に破綻したというエピソードは有名だ。この2人の関係性が有名なあまり、他の交友関係はあまり知られていないが、ゴーガンは印象派のカミーユ・ピサロとともに影響を与え合う仲だったり、気難しいと知られるゴッホはポール・シニャックと友人関係にあったりと意外な交友関係が見えてくる。

画家たちの素顔が垣間見える肖像写真

芸術家の肖像写真コレクション(一部)
(画像=芸術家の肖像写真コレクション(一部))

本展では印象派の画家たちの姿が撮影された写真が展示されている。普段絵画は見る事があっても、それを描いた画家のことは知らない人も多いのではないだろうか。実際に画家たちの写真を目の当たりにすると、その存在を再認識すると同時にどこか親近感さえ湧いてくる。特に巨匠として美術界で神格化されている画家たちも、見た目はおじいちゃんだったりするので個人的にほっこりした気持ちになったりもした。画家たちの姿を見る事ができる写真はなかなか貴重なのでぜひこの機会に見ていただきたい。

展示をもっと面白くするアイテム
美術館の展覧会では展覧会のチラシや展示されている作品リストが用意されているのが通例だが、本展では充実した資料にも驚かされた。チラシや作品リストはもちろん、漫画家にしうら染さんによって本展のために描き下ろされた印象派の画家たちの交友関係を知ることができる相関図や、スマートフォンでアプリをダウンロードすることで無料で聴く事ができる音声ガイドなど、展示をより深く楽しむための工夫がたくさん施されていたのが印象的だった。

おすすめは印象派の画家たちの相関図だ。絵も可愛らしくわかりやすいし、キャプションに載っている以上の意外な交友関係まで見る事ができるので、ぜひ照らし合わせながら鑑賞して欲しい。

作品リスト、音声ガイドアプリは公式サイトからもダウンロードできるので、うっかり忘れてしまった方も復習用に要チェック。相関図はスペシャルサイトにて確認できる。

公式サイトはこちら

展覧会概要
石橋財団コレクション選「印象派ー画家たちの友情物語」

会場:アーティゾン美術館 5階展示室
会期:2021年10月2日(土)〜 2022年1月10日(月・祝)
休館日:月曜日(1月10日は開館)、12月28日〜1月3日
開館時間:10:00〜18:00(毎週金曜日は20:00まで)*入館は閉館の30分前まで
*日時指定予約制 予約は公式サイトで

挿絵本にみる20世紀フランスとワイン

石橋財団コレクションには、アーティストが挿絵を手掛けた貴重図書もある。「印象派−画家たちの友情物語」と同時開催の特集コーナー展示では、モーリス・ユトリロなどの20世紀の画家達による版画がほどこされた、ワインや蒸留酒をテーマにする3冊の本、『葡萄酒、花、炎』(1952年刊行)、『我らの葡萄畑をめぐって』(1952年刊行)、『オー・ド・ヴィー:花と果実のエスプリ』(1954年刊行)を関連作品とともに展示中。

挿絵本にみる20世紀フランスとワイン
(画像=挿絵本にみる20世紀フランスとワイン)
挿絵本にみる20世紀フランスとワイン
(画像=挿絵本にみる20世紀フランスとワイン)

古くから神話やキリスト教と結びついて、ワイン文化が発達してきたフランス。戦後、ファッションや食文化が栄えるとともにワインの品質も向上し、現在もフランスのワイン文化は高く評価されている。

ラウル・デュフィ《ポワレの服を着たモデルたち、1923年の競馬場》1943年
(画像=ラウル・デュフィ《ポワレの服を着たモデルたち、1923年の競馬場》1943年)
上:モーリス・ユトリロ《ミューズたちの酒場》(ジョルジュ・デュアメルほか著『葡萄酒、花、炎』 のための挿絵)1952 年刊
(画像=上:モーリス・ユトリロ《ミューズたちの酒場》(ジョルジュ・デュアメルほか著『葡萄酒、花、炎』 のための挿絵
下:モーリス・ド・ヴラマンク《労働者の酒瓶》(ジョルジュ・デュアメルほか著『葡萄酒、花、炎』 のための挿絵)1952 年刊)1952 年刊)

ワインを囲んで食事や会話を楽しむ人々の姿、そして1900年代初頭のファッションを描いた作品など、色彩鮮やかで華やかな雰囲気のものが集まり、フランスという洗練された国の時代の移り変わりを体感できる。ワインが好きな人はもちろん、ファッションや食に興味のある方も楽しめる上に、リーフレットを読みながら作品を見ると存分に知識を深めることができる展示なので、是非足を運んでほしい。

展覧会概要
石橋財団コレクション選「特集コーナー展示 挿絵本にみる20世紀フランスとワイン」

会場:アーティゾン美術館 4階 展示室
会期:2021年10月2日(土)〜 2022年1月10日(月・祝)
休館日:月曜日(1月10日は開館)、12月28日〜1月3日
開館時間:10:00〜18:00(毎週金曜日は20:00まで)*入館は閉館の30分前まで
*日時指定予約制 予約は公式サイトで

【同時開催】
ジャム・セッション 石橋財団コレクション×森村泰昌 M式「海の幸」ー森村泰昌 ワタシガタリの神話

同時開催の展覧会の様子も、少しだけご紹介。石橋財団コレクションと現代美術家の共演企画「ジャム・セッション」の第2弾として、アーティゾン美術館は森村泰昌を迎えた。森村といえば、有名なアーティストに扮したポートレート。フィンセント・ファン・ゴッホ作《包帯をしてパイプをくわえた自画像》(1889年)に扮した《肖像・ゴッホ》(1985年)を発表して以来、「自画像的作品」をテーマに制作を続けている。

M式「海の幸」ー森村泰昌 ワタシガタリの神話
(画像=M式「海の幸」ー森村泰昌 ワタシガタリの神話)

今回、森村は《海の幸》をはじめとする同財団の青木繁コレクションに改めて向き合い、研究を重ねて新たな作品シリーズに昇華させた。本展ではその過程でつくられたジオラマや習作から、10点のヴァリエーションで展開される《M式「海の幸」》まで、50点以上の新作を含む森村作品約60点が、同財団のコレクション約10点と合わせて展示されている。

森村泰昌《M式「海の幸」》(2021)展示風景
(画像=森村泰昌《M式「海の幸」》(2021)展示風景)

中でも圧巻は、大きなスペースをぐるりと囲むように配された10点の《M式「海の幸」》。青木の《海の幸》が制作された明治から現代まで、それぞれの時代を象徴するシーンが描かれている。10点合わせて85人の登場人物がおり、なんと森村ひとりで全員を演じた。

実際に森村が着用した衣装や小道具の展示
(画像=実際に森村が着用した衣装や小道具の展示)

実際に森村が着用した衣装や小道具の展示も。ヴィデオ・インスタレーション《「ワタシ」が「わたし」を監視する》に制作の様子が収められているが、メイク、衣装、撮影、すべてを自分で行っているというから驚きだ。

スケッチやノートなどの展示資料
(画像=スケッチやノートなどの展示資料)

スケッチやノートなどの展示資料からは、森村が青木を研究した軌跡がうかがえる。さらに、18分30秒にわたる動画《ワタシガタリの神話》には、眼鏡と口ひげを付けた和服姿の森村が登場。青木に扮して一人でひたすら語り続ける。

研究資料と完成作を眺め、森村の口から語られる青木への思いを聞くことによって、《M式「海の幸」》の全体像が浮かび上がってくる。青木と森村という2人のアーティストの時を超えたセッションを堪能することができる、貴重な展覧会だ。

公式サイトはこちら

展覧会概要
ジャム・セッション 石橋財団コレクション×森村泰昌 M式「海の幸」ー森村泰昌 ワタシガタリの神話

会場:アーティゾン美術館 6階展示室
会期:2021年10月2日(土)〜 2022年1月10日(月・祝)
休館日:月曜日(1月10日は開館)、12月28日〜1月3日
開館時間:10:00〜18:00(毎週金曜日は20:00まで)*入館は閉館の30分前まで
*日時指定予約制 予約は公式サイトで

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文章・写真:ANDART編集部