日本が「世界最強の技術大国」に復活するための3つの課題
(画像=417pp/stock.adobe.com)

かつて、ものづくり大国であった日本だが、今や発展途上国を含む他国のIT技術の進歩や成長に追い上げられ、国際市場における競争力が著しく低下している。しかし、「技術大国一位」として復活する可能性に期待する声もあるなど、状況は絶望的というわけではないようだ。日本が再び国際市場をリードするためには、どのような要素が必要なのだろう。

日本に技術力は10年前から変化なし?

まずは、「世界技術革新力ランキング(Global Innovation Index=GII)」を参考に、国際技術分野における日本の位置づけを見てみよう。

GIIは世界132ヵ国・地域の技術革新力を、公共機関・人的資本および研究・インフラ・知識と技術のアウトプット・創造的アウトプットなど7項目、80の指標に基づいて評価したものだ。国連(UN)の専門機関、世界知的所有権機関(WIPO)が毎年発表している。2021年の上位10ヵ国以下の通りである。

日本が「世界最強の技術大国」に復活するための3つの課題

日本は前回(2020年)から3つ順位を上げたものの、総合順位は13位とトップ10入りを果たせなかった。5つ順位を上げてトップ5入りした韓国、2つ順位を上げて12位となった中国、8位の座を維持したシンガポールと比べると、勢いのなさが目立つ。

さらに、長期的な推移を知るために2009~10年版と比較してみると、日本の順位が10年前から不動であるのに対し、韓国は15、中国は35も順位を上げている。

「日本の強み」とは?

かつて、世界トップクラスだった日本の技術力は、本当に二軍落ちしてしまったのだろうか。近年の日本の国際的位置づけとしては、半導体からパソコン、ソフトウェア、社会のデジタル化まで、さまざまな技術分野で競争力を失ったことは事実である。しかし、一方では「日本の強みを活かすことで、世界最強の技術大国に復活できるかもしれない」というポジティブな意見もある。

それでは「日本強み」とはなにか。GIIの「新しい科学技術(S&T)」が活発化している都市ランキングでは、北京やロンドン、パリといった他の大都市を抑えて横浜が首位をキープしている。

政府予算の研究開発への割り当ての伸びは世界8位。さらに、インスティテューション(7位)とインフラ(9位)はともにトップ10入りした。人材やクリエイティブアウトプット(18位)、人材・リサーチ(20位)が苦手分だが、総体的に日本は国単位の研究開発や知的財産権、長年培ったノウハウなどで高評価を得ている。

技術力だけではトップになれない?日本がクリアすべき3つの課題

しかし現状に満足しているようでは、技術大国との差がどんどん広がるばかりだ。日本がトップに返り咲くためには、課題への取り組みが必須となることはいうまでもない。日本の国際技術分野における競争力の低迷の要因として、「レガシー問題」「社会の高齢化」などが挙げられることが多い。その根底にある課題は、以下の3つが指摘されている。カギを握っているのは、企業の発想の転換だ。

1.プラスアルファの要素に欠ける

1つ目は、日本が誇る「高度な技術力」や「高品質」が、国際成長の足かせになっているというものである。要するに、日本は技術力や品質ばかりを重視して、柔軟性や創造性に欠けるのだ。

現在の技術大国となる上で、これらの要素が重要であることは、AmazonやApple、Teslaなど過去10~20年間で急成長を遂げた国際企業を見ると一目瞭然である。高度な技術と品質が市場で大きな強みとなることは間違いないが、それだけでは国際競争に勝てない時代なのだ。

2.研究開発(R&D)に消極的

2つ目は、日本の民間企業がバブル崩壊以降、研究開発(R&D)に消極的なことである。これが日本の新興技術や産業に対応する能力を低下させているという。

AmazonやAppleなど国際市場で技術競争力の高い企業は、スタートアップとの提携や買収をバネに競争力をどんどん拡大していった。しかし、日本の大企業はインハウス(社内)ですませようとする傾向が強く、外部とのコラボレーションから生まれる新たなアイデアや革新力を阻んでいる。

2018年に日本銀行が発表したホワイトペーパーでも、日本のR&Dは革新的な商品・サービスの開発ではなく、「段階的な改善」に重点を置いている実態が示唆されていた。

3.起業・人材育成環境の欠落

スタートアップの支援や優秀な人材の育成は、技術革新力を強化する上で欠かせない要素である。それにも関わらず、なぜ日本はスタートアップへの投資に消極的なのか。これが3つ目の課題のカギを握っている。

たとえば、米国や中国ではストライプやスペースX、バイトダンスやなどユニコーン(時価総額10億ドル/約1,138億2,143万円以上の新興企業)が続々と生まれているが、日本の起業・人材育成環境は他の技術大国と比べると極めて弱い。

米ビジネスサポート企業ゼン・ビジネスのデータによると、2020年の時点で米国には400社、中国には158社のユニコーンが存在したのに対し、日本はわずか6社と足元にも及ばない。スタートアップへの投資に消極的であるがゆえに新興企業が成長するチャンスを逃し、新興企業が育たないから投資が活発化しないという、負のサイクルに陥っているのではないだろうか。

復活か衰退か…

もちろん、これらの課題は現時点で表面に見えているものであり、水面下ではより複雑な問題が日本の競争力の足かせとなっている可能性も考えられる。他国が凄まじい勢いで技術革新力を増している今、技術大国として大復活を遂げるか、あるいはこのまま衰退していくか、日本は分岐点に立たされているのかもしれない。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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