東京都・六本木の「ペロタン東京(PERROTIN)」では、2021年10月1日~11月20日の会期で、フランス人のアーティスト JRの個展「CONTRETEMPS」が開催されている。2012年に制作された「Unframed」シリーズの初期作品と、故郷パリで制作された新作のバレエシリーズにより、JRのルーツを振り返る本展。本記事では、実際に訪問した際の様子と、本展の見どころを紹介する。
JRとは
ストリートアーティスト、写真家として知られるJRは、1983年パリに生まれ、1990年頃からグラフィティを描き始め、本名Jean René(ジャン・ルネ)のイニシャル「JR」として活動。17歳の時にカメラを拾ったことがきっかけで写真を撮るようになり、巨大な白黒写真を世界の各都市に出現させてきた。2019年には、ルーブル美術館のシンボルであるピラミッドを、白黒写真で覆ってだまし絵のように消失させるインスタレーションが話題に。社会問題に関するメッセージや、アートの見え方についての問いを提示する作品を発表し、テート・モダン(ロンドン)やポンピドゥー・センター(パリ)など世界有数の美術館の展覧会に参加するなど、国際的な評価が高まっている。
コロナ禍の故郷で撮影された新作シリーズ
ギャラリーに入ってすぐの広い空間に展示されているのは、バレリーナを題材にした新作群。高い塔で抱擁するカップルや屋根の上に座るバレリーナの姿など、非現実的なシチュエーションの作品が並んでいたためコラージュかと思ったが、実際に撮影されたものだという。
Exhibition view of JR “Contretemps” at Perrotin Tokyo. Photo by Kei Okano. ©JR / ADAGP 2021. Courtesy of the Artist & Perrotin
塔の上で抱き合うカップルの作品は、1930年代後半からフランスで活躍した写真家ウィリー・ロニ(1910〜2009年)の作品《バスティーユの恋人》にインスピレーションを得て制作された。美しいパリの街並みを背景に、60年以上前に撮影された作品のイメージを、パンデミックの影響で世界から断絶された現代の風景として再構築している。
画像引用:https://www.holdenluntz.com/
閉鎖中のルーブル美術館の屋根で撮影された作品も、コロナ禍だからこそ実現したといえる。世界中から大勢の人々が押し寄せる観光地で、ひみつの時間を楽しむような可憐なバレリーナの姿が幻想的だ。よく知っているはずのものの、普段は見ることのできない一面を垣間見ることによって、現実がこれまでと少し違って見えてくる。
また、作品によってはプリントが立体的に貼られているため、リアルな風景に違和感が生じている。ぜひさまざまな角度から鑑賞して、不思議な感覚を味わってみてほしい。
忘れられた日本の村に出現した報道写真
ギャラリー奥のスペースには、「Unframed」シリーズの初期作品が展示されている。2009年から続けられている「Unframed」は、巨大なサイズに拡大した記録写真を野外に貼り付けるプロジェクト。
先程のパリの風景とは打って変わって、日本的なイメージが並ぶ。JRは2012年に日本全国を旅した際、報道写真家の渡部雄吉(1943〜1992年)の写真に触発された。写真が貼り付けられているのは、松尾鉱山があった岩手県の村の廃墟や岩陰だという。
かつて松尾鉱山は東洋有数の硫黄の産出地だったが、高度経済成長期以降は需要が減り、1970年代前半に完全に閉鎖された。今は鉱山労働者の住宅として使われていた建物などが廃墟として残っている。そのようなゴーストタウンと化した村に、歴史的な状況を暗示する写真が出現。一体ここで何があったのだろうと、昔の風景や出来事を想像させられる。
JRは、採用した写真の撮影地ではなく、重みのある歴史を持つ別の場所に作品を配置することによって、新たな物語を生み出すことを目指している。複数の場所と時間を交差させることで、複雑に重なりあう歴史に想いを馳せさせるのだ。
コロナ禍に入ってからパリで撮影されたバレエシリーズと、10年程前の岩手県・松尾で撮影された「Unframed」シリーズ。時代も場所も異なるが、どちらからもJRの活動の根幹にあるものが伝わってくる。展示作品には画像で見るのとは違う存在感があるので、ぜひ足を運んで実物を鑑賞し、そこに生まれる新たな物語を想像していただきたい。
展覧会概要
JR「CONTRETEMPS」
会期:2021年10月1日~11月20日
火曜日〜土曜日 12:00-18:00 日・月・祝休廊 予約制
会場:ペロタン東京(東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル1階)
展覧会HPはこちら
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文・写真:稲葉 詩音