2019年のワイドバンドギャップ半導体単結晶世界市場は100億円突破を予測
~パワーデバイスの本格普及、搭載アプリケーション増加を背景に、市場は順調に成長~
株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、世界のワイドバンドギャップ半導体単結晶市場を調査し、製品セグメント別の動向、参入企業動向、将来展望を明らかにした。
ワイドバンドギャップ半導体単結晶世界市場規模推移・予測
1.市場概況
Si(シリコン)を代替する材料として、パワーデバイスを中心に採用が進んでいるワイドバンドギャップ半導体単結晶は年々市場が拡がっており、2019年のワイドバンド半導体単結晶世界市場(メーカー出荷金額ベース)を前年比102.4%の100億8,200万円と予測する。材料別の構成比では、炭化ケイ素(以下SiC)が54億100万円で54%、窒化ガリウム(以下GaN)が41億4,700万円で41%、酸化ガリウム(以下Ga2O3)が2億1,500万円で2%、窒化アルミニウム(以下AlN)が8,000万円で1%、ダイヤモンドが2億3,900万円で2%となっており、アプリケーションへの採用数が多いSiCが市場の半分以上を占める見込みである。
材料別に動向を見ると、既にパワー半導体の多くの用途に浸透しているSiCは安定的にそのポジションを維持する。現在は、照明用途が多いGaN はポストSiC として他アプリケーションの広がりへ期待が大きい。Ga2O3 は市場が立ち上がったばかりであるが、パワーデバイス向けのサンプル出荷を控え、大きな需要に向けた量産事業案も立ち上がっている。AlN は電子デバイスとしての素養はあるものの、現在は2インチより大きなサイズのウエハー量産が難しいため、使用用途は当面深紫外LED のみに限られる見込みである。ダイヤモンドは主に電子デバイス材料以外の工業材料として使用されるが、電子材料として活用するためにはまだ研究開発が必要である。いずれの材料も、まず研究開発用途での採用から、アプリケーションへの搭載、その用途の需要増加により成長を遂げており、継続的な成長を見込む。
2.注目トピック
SiC単結晶ウエハーは4インチサイズで「1インチ1万円」をクリア、新規参入増え、更なる価格低下も
SiCデバイスの採用本格化に向けて、デバイスメーカー側からウエハーメーカーに対し、これまでエピタキシャルウエハーレベルで「1インチ1万円」を求める声が多かった。
2019年現在、6インチのSiC単結晶ウエハー1枚あたりの単価は、一定リピート品で約8万円となっている模様で、ここ数年価格は大きく低下している。また、4インチのSiC単結晶ウエハー1枚あたりの単価は、一定量産により3~4万円の段階になっており、エピタキシャルウエハーレベルの面積単価は1.1~1.5万円/インチで、前述の「1インチ1万円」に手が届く状況になっている。
今後、SiC単結晶ウエハーは8インチに向かうことになるが、現時点ではトップメーカーからサンプルが提示されるのみで市販されるには数年かかると思われる。このため、その前に4インチや6インチでの歩留まり向上による、価格低下が期待される。
一方、新規参入プレーヤーが加わることでの競争激化により、更なる価格の下落の可能性も考えられる。新規参入メーカーとしては、Siウエハーサプライヤー大手GlobalWafersや中国のCETC、SICCAS、HebeiTech、CISRIが開発段階としており、日本の新興製作所も事業化に近づいている。また、韓国ではSK SiltronがDupontグループ企業のDupont Electronics & Imaging(米)からのSiCウエハー製造関連事業の買収を発表しており、2019年内に売却手続きが完了する見込みである。
3.将来展望
今後、パワーデバイスの本格普及、搭載アプリケーション増加を背景として、市場は拡大傾向にて推移し、2025年のワイドバンドギャップ半導体単結晶世界市場(メーカー出荷金額ベース)を245億3,900万円と予測する。材料別の構成比では、SiCが161億8,200万円で66%、GaNは49億5,000万円で20%、Ga2O3は21億8,200万円で9%、AlNは8億6,000万円で4%、ダイヤモンドは3億6,500万円で1%を予測する。
今後の状況を材料別にみると、SiCは搭載アプリケーションの採用・増加が進むことで、6インチ単結晶ウエハーの需要が急成長する見込みである。
GaNは4インチ単結晶ウエハーの本格普及が着実に迫ってきてはいるものの、現在中心サイズは2インチとなり、最終搭載アプリケーションであるレーザープロジェクターの需要と共に堅調に伸びていく見通しである。
Ga2O3ウエハーの製法は融液成長法であり、その特徴に大口径化が容易であることが挙げられる。そのため、4インチ基板の量産後、スムーズに6インチ基板の量産体制が敷かれると考える。下地に異種基板を使用したα-Ga2O3によるデバイスが市場へ浸透したタイミングで、β-Ga2O3単結晶基板による電子デバイスが登場し、Ga2O3デバイス全体のプレゼンスが上がることが期待される。
AlNは、AINを使用したデバイスが下地に異種基板を使用したタイプの深紫外殺菌デバイスに競合するポジションとなるが、AlN単結晶タイプを使用することで、高出力が期待でき、素子性能自体は異種基板を使用したタイプと比較すると確実に伸び代が大きいものとして普及すると考える。
ダイヤモンドは単結晶の物性値は良いものの、加工が非常に難しいため単結晶の技術だけでなく周辺技術の成熟に時間がかかるとされている。そのため2025年頃までは基本的に研究開発用途でのみ市場が形成されると考える。