矢野経済研究所
(画像=Sabrina/stock.adobe.com)

2021年11月
執行役員 上野雅史

ミレニアル世代とは1980年~1995年に生まれた世代を指す。インターネット普及直前に生まれた世代で、成長過程においてインターネットの普及やIT革命等を経験してきたことから、デジタル技術に対するリテラシーが高く「デジタルネイティブ」とも呼ばれる世代である。また、ミレニアル世代の特徴としては、「モノ」の所有に固執しないことが挙げられる。このため、シェアリングサービスやサブスクリプションサービスを積極的に活用する反面、住宅、自動車、アクセサリーなどの所有には関心が低いといわれている。

一方のZ世代とは、1990年代後半から2000年生まれの世代を指す。Z世代の特徴としては、ミレニアル世代と同様にデジタルに対するリテラシーが高いことに加えて、幼少期からソーシャルネットワーク(SNS)に慣れ親しんだ「ソーシャルネイティブ」であることが、ミレニアル世代との大きな違いとなっている。

仕事とプライベートを切り分けて、双方の調整を行う「ワークライフバランス」という働き方があるが、ミレニアル世代、Z世代は、逆に仕事とプライベートを切り分けず、連動して考えるという仕事観を持ちつつある。同時に社会的課題に対する貢献意欲が強く、仕事選びに際しても、給料や報酬よりも、その企業がどれだけ社会課題に向き合っているのか、また、自身がその企業で働く意味、目的を優先するケースも多くみられる。組織に対する考え方は、会社での出世やキャリア形成に関心が薄く終身雇用を含めた会社への帰属意識が低い一方、自分と同じ趣味や価値観を持つコミュニティを大切にする傾向がある。

さらにミレニアル世代、Z世代はデジタルリテラシーの高さから、企業のみならず社会の在り方まで変える潜在力を有しており、彼らの仕事に対する意識を高めれば、彼らのエネルギーでイノベーション起こせる企業が増えることが期待される。また、今後、企業と従業員が対等になっていく世界では、より彼らの価値観に合わせて組織を改善していくことも求められる。

厚生労働省の新規学卒就職者の離職状況によると、2018年3月に大学を卒業して就職した人のうち3年以内に仕事を辞めた割合は31.2%だった。前年調査より若干減少しているものの、大学新卒の約1/3は3年以内に会社を辞めていることになる。少子化により、今後も労働人口の減少が不可避であるなか、企業としては特にポテンシャルが高いミレニアル世代、Z世代の離職を食い止めたいという意向が非常に強くなっている。

そこで、企業、従業員双方にとって「従業員エンゲージメント」という考え方の重要性が高まっている。従業員エンゲージメントとは、社員が企業の経営方針や将来ビジョンを理解し、企業への貢献意欲を持つ状態を指す。 従業員エンゲージメントの重要性は、ミレニアル世代、Z世代への対応、従業員の離職防止策のほか、人的資本の情報開示など投資家からの要望により新しい指標が求められていること、SDGsやESGの潮流のなかで、働きがいに注目が集まっていることなども企業側の事情として挙げられる。また、社員側にとっても、人生100年時代を前提とする中で「自分が本当にしたいことは何か」「自分のやるべきことは何か」といったテーマで考える人が増えつつあることが、従業員エンゲージメントの重要性拡大の背景にある。

従業員エンゲージメント実現のための施策は、①適材適所の人材配置、②ワークライフバランスの推進、③納得感のある人事評価制度の整備、④インセンティブ制度の整備、⑤コミュニケーションの活発化、⑥企業理念の浸透、⑦環境・福利厚生、⑧部下の育成、成長機会の提供、⑨スキル構築とキャリア開発の機会を提供、⑩称賛(従業員表彰プログラムやピアボーナス、サンクスポイント)、⑪会社のバリューを明確に伝える、⑫機能的で快適な職場環境、⑬適したマネージャーの配置、⑭企業と個人の目標やビジョンのすり合わせ、⑮柔軟な働き方、テレワークなどの導入、⑯ダイバーシティ&インクルージョンなどが挙げられる。特にミレニアル世代、Z世代は組織やコミュニティ内においても互いの共感や個人の成長実感を大切にする傾向がある。評価においては、透明性や公平性を重視する。また、デジタルネイティブであるこことから、即時性の高いフィードバックを求め、一人一人の強みやキャリア志向にあったマネジメントを求めている。従業員エンゲージメントを実現していくためには、上司との1on1や評価のフィードバックを行い価値観の共有を図っていくことが重要になると考える。