大阪・北加賀屋。かつて造船のまちとして栄え、関連する工場や倉庫が立ち並ぶこの街で、今、国際的に活躍する現代アーティスト7名の大規模な作品展示が行われている。
会場は広さ約1,000㎡・高さ9mの鋼材加工工場・倉庫跡地。普段は大規模作品の保管庫として活用されている「MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)」が、期間限定で ”見せる収蔵庫” として公開されているのだ。
この記事では、「Open Storage 2021-拡張する収蔵庫」の展示の様子をレポートするとともに、今年の秋に近隣で開催されるアートイベントを紹介する。
▍迫力の巨大作品群に圧倒される!
会場はまさに「倉庫」らしく、アーティストごとの区画は整然と区切られているが、その一方で、各アーティストの個性が色濃く表れた巨大な作品群が同居するカオスな空間となっている。まずは、以前よりこの場を利用している国際的に活躍する現代アーティスト6名の作品を見て見よう。
ヤノベケンジ
会場の一番奥のスペースでありながらも強い存在感を放つのは、最初にこの倉庫の利用を始めたというヤノベケンジの作品だ。1990年初頭より、「現代社会におけるサヴァイヴァル」をテーマに実機能のある大型機械彫刻を制作してきたヤノベ。この展示では、歌って踊って火を噴く体長7.2mの巨大ロボット≪ジャイアント・トらやん≫をはじめ、東日本大震災の復興への願いを込めた《サン・チャイルド》、世界遺産・比叡山延暦寺に奉納展示された ≪KOMAINU -Guardian Beasts-≫ 等の存在感のある作品が並ぶ。
なお、MASK開館当初に収蔵されたシンボル的な作品 ≪ジャイアント・トらやん≫ は来年2月に開館する大阪中之島美術館への寄贈が予定されており、MASKでの展示は今年が最後となるという。会期最後の3日間はクロージングイベントとして、≪ジャイアント・トらやん≫のファイヤーパフォーマンスも予定されている。
名和晃平
白一色とシンプルでありながら、複雑な造形が印象的な彫刻は、名和晃平の《N響スペクタクル・コンサート 「Tale of the Phoenix」舞台セット》。2015年の「N響スペクタクル・コンサート」の舞台装置として制作された巨大オブジェだ。
中空の卵のような形状の彫刻は、一見アンバランスな形状でたたずんでおり、重力を感じさせないような不思議さがある。最新の3D造形システムを取り入れた彫刻を制作する名和ならではの作品だ。
宇治野宗輝
まるで家屋が変形したような、ひときわ大きなこちらの作品は、宇治野宗輝による《THE BALLAD OF EXTENDED BACKYARD,THE HOUSE 》。2015年にMASKにて滞在制作された作品だという。
90年代より、装飾トラックの電飾や電動ドリルなどの電気製品を用いたサウンド・スカルプチャーを制作し、国内外で数々のライヴ・パフォーマンスを披露する宇治野。オブジェとして見ても迫力のある本作品だが、さらに、天井の蛍光灯と電球が明滅し、部屋の中のミキサーなどの家電や電動工具たちが音楽を奏でる、人間不在のライヴパフォーマンスのような作品だ。是非会場で体験して欲しい。
このほか、遊園地の遊具たちをベースに制作された金氏徹平の《White Discharge(公園)》、2013年に制作された久保田弘成の《大阪廻船》、やなぎみわによる『日輪の翼』上演のための移動舞台車である《ステージトレーラー「花鳥虹」》など、美術館などではなかなか見ることができないような大型作品が次々と鑑賞者を迎えてくれる。
▍倉庫に新しい風を吹き込む! 新参画アーティスト 持田敦子の新作
今回のメインアーティストで、MASKでは初の展示となるのは、公募により選出された持田敦子だ。持田は既存の空間や建物に、仮設の壁面や階段などの「異物感」の強い要素を挿入し、日常の「あたりまえ」にゆらぎを与えるような作品を国内外で発表している。
2018年に東京藝術大学大学院先端芸術表現専攻を修了した持田。2018年には表参道のスパイラルの吹き抜け空間に巨大な階段状の作品 ≪距離、その落下、その痕跡について≫ を展示したほか、今年は、現在開催中の北アルプス国際芸術祭 2020 – 2021への参加に加え、TERRADA ART AWARD 2021のファイナリストにも選出されるなど、注目の若手アーティストだ。
今回、持田は2012年にMASKが始動して以来、ほぼ“開かずの扉”状態であったシャッターに着目。巨大な回転扉を設置し ≪拓く≫ という作品に仕上げた。先述の6名の巨大作品を徐々に収蔵していった結果、塞がれたままとなっていたシャッター。今回、作品設置のために各アーティストの作品を移動させ、新たに持田の作品スペースを入り口として設置。まさに新しい風が吹き込まれる形になったという。
来場者はこの巨大な回転扉を押して会場に入っていくが、この扉はなかなかの重さがある。押している間は1人だけの空間になるが、その前後の扉を誰かが押すと軽くなったり、逆に誰かが抜けると扉が動かなくなったりと、見えない「他人」にも思いを馳せてしまう。既存の建物への「介入」に加え、その建物との「身体的な関わり」も感じられる作品だ。
作品と人の関わりが大きいため、展示の際には安全対策にも大きな力を裂いてきた持田だが、今回も安全対策はもちろん怠らない中でも、MASKでは「よりチャレンジングな作品にも取り組める」と話していた。
▍この秋、北加賀屋ではアートイベントが多数!
今年の10月から11月にかけ、この「Open Storage 2021 ー拡張する収蔵庫ー」のほかにも、北加賀屋では多数のアートイベントが開催される。
例えば、増田セバスチャン展覧会「Yes, Kawaii Is Art」は、北加賀屋エリアの3会場に作品を展示し、街を巡回するかたちで作品を鑑賞し、日本発のカルチャー”KAWAII”の足跡をたどる。(会期:2021年10月30日(土)~11月21日(日)※会場ごとに異なる)
また、大阪最大のアーティスト・クリエイター向けシェアスタジオSuper Studio Kitakagaya(SSK)の「Open Studio 2021 Autumn」では、スタジオの一般公開を行うのと同時に、新作現代アートの展覧会を開催する。(会期:2021年10月23、24、30、31日、11月6、7、13、14日(計8日間))
現在、アーティゾン美術館でも大規模個展を開催中の大阪出身・在住の美術家・森村泰昌の個人美術館「モリムラ@ミュージアム」では、伝統芸能「人形浄瑠璃文楽」の人形遣いである桐竹勘十郎と、森村による初のコラボレーション展https://www.morimura-at-museum.org/" target="_blank">「お手を拝借!!」展を開催。(会期:2021年11月19日(金)~4月24日(日)※金土日のみ開館、年末年始休館有)
このほか、築約60年の文化住宅を補修した、食堂、ギャラリー、テナントが入居するまちの文化複合施設「千鳥文化」での京都市立芸術大学大学院彫刻専攻有志グループによる展覧会「ものとかすひと」(会期:2021年10月16日(土)~11月7日(日))や、ラバー・ダックの登場するアートなお祭「すみのえアート・ビート 2021」(日時:2021年11月14日(日)11:00〜16:00)なども。
北加賀屋地区には、壁画やパブリックアートも多数展示されており、これらの作品を探しながら街歩きを楽しむこともできる。この秋は、北加賀屋で楽しく現代アートに触れてみるのはどうだろうか。
【展覧会情報】
▍MASK (MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA) 「Open Storage 2021 -拡張する収蔵庫-」
約1,000㎡の鋼材加工工場・倉庫跡地を活用した大型現代アート作品の収蔵庫「MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)」にて、国際的に活躍する現代美術作家6名の収蔵作品展示とともに、MASK初の公募により選出された持田敦子が新作を発表します。今回持田は、これまで開かずの扉だったシャッター面を活用し、MASKに新しい入口を「拓く」ことを作品によって試行します。
会期:2021年10月16、17、23、24、30、31日、11月3、6、7、12、13、14日(計12日間)
※11/12~14はクロージングイベント参加者のみ入場可
時間:12:00~18:00
会場:MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)
入場:無料
メインアーティスト:持田敦子
参加作家(50音順):宇治野宗輝、金氏徹平、久保田弘成、名和晃平、やなぎみわ、ヤノベケンジ
ウェブサイト:https://www.chishimatochi.info/found/mask/
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文・写真:ぷらいまり