矢野経済研究所
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中国雲南省昆明で開催中の国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)は、13日、「昆明宣言」を採択、2030年までに生物多様性の損失を逆転させ、回復すると宣言した。オンラインとの併用で開催された今回の会議は、来年4月に予定されているリアルでの本会議に向けた言わば “前哨戦” だ。公表された目標は21項目、2030年までに陸域と海域の30%を保護地域とすること、農薬の使用制限、侵略的外来種の侵入防止、途上国に対する支援策などが協議される。

COP15は、2010年のCOP10「愛知目標」の成果を踏まえて、次の10年間の目標を採択する重要会議である。とは言え、その愛知で合意した20項目は “一部達成” が6項目、14項目は “未達” という状況だ。昆明の21項目はそれを更に上回るものであり、実現に向けてのハードルは高く、かつ、経済成長を優先させたい発展途上国と先進国との溝を埋める作業の困難さも想像に難くない。

また、生物資源を安価で買い付け、利用し、消費する先進国と途上国の対立も根深い。COP10では “遺伝子資源の取得とその利用から生じる利益の公正な配分” を主題とした「名古屋議定書」も採択されたが、そもそも医薬やバイオ産業の利益を守りたい米国がCOPに参加しない理由がここにある。
オンラインで会議に参加した習近平氏は途上国支援のために15億人民元を拠出、「昆明生物多様性基金」を設立すると発表した。米国不在の国際会議において、とりわけ途上国に対して中国の多国間主義をアピールする外交戦略の一環とも解せる。とは言え、例えそうであっても、合意形成に道筋をつけることが出来るのであれば歓迎だ。

生物多様性の喪失は、生態系全体の微妙なバランスを崩すことにつながる。結果、人間社会と野生動物との不自然な接点が増え、そこが新たな感染症の発生源になる。SARSや新型コロナウイルスも動物由来との説が有力だ。
名古屋議定書はその第8条で “人の健康に損害を与える差し迫った緊急事態であると国際的に認められた事態” に対して “特別な考慮” を要請している。つまり、動物由来とされる病原体に関する情報の共有や研究成果の公正な分配も重要テーマであるということだ。
議長国である中国には生物多様性の回復に向けての実効性の高い枠組みづくりと、今、まさに世界が戦っている動物由来の感染症に関する情報開示を期待したい。

今週の“ひらめき”視点 10.10 – 10.14
代表取締役社長 水越 孝