中国恒大集団、いよいよデフォルトか?3度目の利払い遅延で世界恐慌の再来も
(画像=xy/stock.adobe.com)

中国の大手不動産開発業者「恒大集団」が、3,000億ドルを超える巨額の負債を抱えて破たんする恐れが高まっている。現実となれば中国最大級の規模での経営破綻となり、リーマンショックのような現象が世界中に波及する可能性も捨てきれない。

デフォルト(債務不履行)へのカウントダウンが開始した今、市場には緊迫した空気が張り詰めている。

フォーチュン500企業、恒大集団とは?

1996年に設立し、広東省深圳市に本拠を置く恒大集団は、中国の急速な経済の波に乗って飛躍的な成長を遂げた企業のひとつである。2009年には香港で上場し、現在までに280以上の都市で800を超える不動産開発プロジェクトを手掛けてきた。不動産開発のほかに、インターネットから電気自動車(EV)まで事業の多角化にも積極的だ。

過去にはフォーチュン500企業にランクインした実績もあり、2017年のピーク時には時価総額が500億ドル(約5兆5,708億円)を突破するなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。創業者の許家印(シュー・ジアイン)は、2021年10月5日現在も118億ドル(約1兆3,148億円)の資産を保有する、フォーブス世界長者番付55位の大富豪である。

「中国最大級の破たんリスク」の背景

しかし、恒大集団の急成長の裏には過剰負債という大きな落とし穴があった。同社は中国都心部を中心とする不動産バブルの波に乗り、自社株や不動産を担保にした借入金に加え、投資家からかき集めた資金を元手に次々と土地や不動産を購入していった。

価格が上がればバランスシート上の資産額はどんどん増えていく。資産額が増えれば投資家や金融機関からの信用が高まる。信用が高まればさらに資金を集め、より多くの土地や不動産を買い占めることができる。

ところが、表面上は順調に見えた行く手に、突然暗雲が立ち込めた。2020年9月、経済の安定化を目指す中国政府が、不動産バブルの抑制と資産負債比率の高い企業への融資を制限し始めたのだ。投資金の大部分を融資に依存していた恒大集団は、たちまち資金繰りに行き詰まった。

事業継続のために不動産を割引価格で売却するなど先手を打ったが、これまでに発行した3,000億ドル(約33兆4,484億円)相当の債券の利払いには到底足りない。「金融当局がリスク分析に乗り出した」といった市場の不安をあおる報道が目立ち始めたことから、恒大集団は格安で土地を処分するなど財務の健全化に向けて動きだしたものの、すでに手遅れだった。

2021年7月にはオフショア部門の銀行預金凍結、湖南省邵陽市の当局による住宅販売の一時停止命令など市場の不安をあおる事態が相次ぎ、株価が急落した。同社は9月に入り「前例のない困難にぶつかった」事実を認め、「全力を尽くして経営を正常化する」と決意を露わにする一方で、破たん説を真っ向から否定した。

しかし、強気な姿勢とは裏腹に外国債の利払いの見送りを余儀なくされ、10月には香港株式市場で株式の売買が一時停止となった。破たん疑惑はもはや否定できないほど、現実味を帯びている。同社の株価は今年の初めから、約80%下落した。

競合大手が買収か?国営化の可能性も

恒大集団は1兆9,700億元(約34兆78億円)相当の負債デフォルトを回避するために、不動産や商業銀行の保有株を含む資産売却を試みているが、自力で経営を立て直すのはほぼ不可能に近いだろう。

10月5日現在、正式発表はされていないものの、ライバル不動産開発大手、合生創展集団が恒大集団の株式の51%を約50億ドル(約5,571億1,198万円)で取得する見通しが強まっている。合生創展集団は中国の大富豪、朱孟一族が運営する香港上場企業で、不動産セクターでは国内13位の時価総額を誇る。

一方では、ロックフェラー・グローバル・ファミリーオフィスのジミー・チャンCIO(最高投資責任者)のように、「資金力のある国営企業が引き継ぐことになるだろう」との見方もある。

資金繰りに喘ぐ中国の不動産業界

投資家の心理をさらに悪化させているのは、資金繰りに苦しんでいるのが恒大集団一社だけではないという点だ。

近年、中国の銀行や保険会社、債券ファンドは、不動産セクターに巨額の資金を提供してきた。中国人民銀行のデータによると、中国の金融機関の融資残高全体に不動産ローンが占める割合は、2020年9月末の時点で約30%に達するなど、金融システムが直面する重大なリスクの一つとなっている。

恒大集団問題を機に、デフォルトのドミノ作用を懸念した銀行や保険会社、シャドウバンク間では、国内の不動産開発業者への新たな融資を停止し、問題の見られるセクターへのエクスポージャーを緊急に見直すといった動きが出ている。このような引き締めは、デフォルト連鎖を未然に防ぐ役割を果たす反面、融資の流動性を低下させることになる。

破たんが日本経済・世界経済に与える影響は?

すでに金融市場では、恒大集団による信用不安の影響が拡大している。9月20日の欧米株式は軒並み下落した。ドイツ株価指数、FTSE100種総合株価指数、日経225先物 CMEも大幅に下落している。

しかし、多数の専門家は恒大集団の破たんリスクについて、「中国経済、ひいては世界経済に致命的な打撃を与える前に中国政府が介入する可能性が高い」との見方を示しており、リーマンショック級の金融危機につながる可能性に懐疑的だ。

このような比較的楽観的な予想に対し、恒大集団に続いて他の不動産開発会社が続々とデフォルトに陥る可能性を懸念する声もある。現実となれば中国の金融システムが受けた衝撃が、世界の金融システムへと波紋を広げることは間違いない。

恒大集団は崩壊するのか、中国政府が救うのか

10月12日までにドル建て社債の利払いを3回行わなかったことがわかっている。それ以降も複数の社債償還が控えているが、まずはこれを乗り越えられるか否かが一つの峠となるだろう。市場は、恒大集団がさらなる混乱を引き起こしながら崩壊するのか、中国政府が救済に重い腰を上げるのか、固唾をのんで見守っている。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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