時は遡ること2013年10月13日。正体不明のアイデンティティでお馴染みのイギリス人ストリートアーティスト、バンクシーがニューヨークでオリジナルの作品を60ドルで販売していたことをご存知だろうか。当時はニュース番組も取り上げ、SNSの浸透が深まった現在は、TikTokに販売の様子を収めた動画が上がっている。バンクシー人気はもはや不動のものと言っても過言ではない今、改めて動画を振り返ってみたい。

バンクシー流の「社会実験」

動画は男性の自動音声で、「今日はsocial experiment(社会実験)をする」という宣言で始まる。猿やネズミなどの有名なモチーフから、代表作《Flower Thrower(Love is in the Air)》のスプレーアート作品を揃えた露店がセントラルパークに出現した。

@ban1ksy/TikTok
(画像=@ban1ksy/TikTok)

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目の前に「お宝」があるにもかかわらず、人々は興味を示さずに通り過ぎるばかり。それも無理もない。安い土産屋が並ぶ通りに、老人がバンクシーの作品を売っていても「偽物」としか思えないだろう。しかも、60ドル(約6,600円)という値段は決して安くはない。偽物と思っているものに払うのなら、なおさらだ。

@ban1ksy/TikTok
(画像=@ban1ksy/TikTok)

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午前11時頃に販売を開始して、ようやく初めての買い手が現れたのは、午後3時半のこと。ある女性が自分の子ども達のために、小さなキャンバス作品ふたつを50%オフの値段交渉成立の上で購入していった。売り手の老人はお金を受け取った後、「オーマイガー」とでも言うような表情で、思わず大きな口を開ける。この老人とバンクシーの関係性は不明(もしかして彼がバンクシーなのかもしれない?)だが、彼もこの「social experiment」を楽しんでいることが表情から伝わってくる。


@ban1ksy/TikTok
(画像=@ban1ksy/TikTok)

@ban1ksy/TikTok
(画像=@ban1ksy/TikTok)

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その30分後、ニュージーランド人の女性がふたつ購入。そしてその1時間半後に、シカゴから来た男性が自分の新しい家に飾りたいと、4つの作品を購入した。2人とも握手やハグをして帰るほど、満足な買い物が出来た様子。この時点では、まさか自分が本物のバンクシーを60ドルで購入できたとは、夢にも思っていないだろう。


@ban1ksy/TikTok
(画像=@ban1ksy/TikTok)

@ban1ksy/TikTok
(画像=@ban1ksy/TikTok)

@ban1ksy/TikTok

そして、午後6時で露店は閉店。その日の売り上げは全部で420ドル。動画の最後は「Another day, another dollar.」(「今日も相変わらずだよ」や「今日はこの辺にしておくか」といった意味)で締め括られる。

翌日、バンクシーはインスタグラムを更新。一回限りだという注意書きも添えて、オリジナル作品を60ドルで販売していたことを報告した。たまたまこの日、この露店を見かけ、「どうせ偽物だ」と思って通り過ぎた人は一体どれ位居たのだろうか。バンクシーの大ファンだったら、唇を強く噛み締めてしまうくらい悔しい思いをしたことだろう。

気になるオークション結果は?

気になる作品の行方だが、2014年7月2日、ロンドンで開催されたBonhams(ボナムズ)の「Post War & Contemporary Art」オークションにて、ニュージーランド人の女性が購入した作品が出品されて話題を呼んだ。

《Kids on Guns》
《Kids on Guns》は、モノクロと赤の風船がバンクシーの代表作である《Girl with Balloon》を彷彿させる作品。小さな少女と少年が立っているのは、ライフル銃や爆弾などの「武器」の山。少年は少女の肩に手を置き、山の上に立っていることから、彼らは何かしらの戦いに勝利したと言える。

《Kids on Guns》(2013年)
(画像=《Kids on Guns》(2013年))

画像引用:https://www.bonhams.com/

反暴力・反戦争を、作品を通して強く訴えるバンクシー。中には、絶望感だけが強く全面に出ているようなダークな作品もあるが、この《Kids on Guns》は、バンクシーが一部の人間の争いや理不尽な暴力から逃れ、打ち勝てることを信じる「希望」を表現した作品だと言われている。《Girl with Balloon》のオリジナル壁画にも「There is always hope.(そこにいつでも希望はある)」という言葉が添えられていることからも、「風船」はバンクシーの中で希望を表すモチーフと言ってもいいかもしれない。本作は、68,500ポンド(当時約1,196万円)で落札された。

《Winnie The Pooh》
1926年に発表された、アラン・アレクサンダー・ミランによる児童小説『クマのプーさん』のキャラクターをモデルにした作品。本作のキャンバス作品は、2002年から2007年の間のクリスマス、ロンドン周辺で開催された展覧会「Santa’s Ghetto」(サンタのゲットー)にて初めて展示された。

その後、第2弾として制作されたキャンバス作品が、2013年10月に1ヶ月にわたって開催したストリート展示「Better Out Than In」(または「Banksy Does New York」と呼ばれる)に再登場。その展示の13日目に、バンクシーは普通の露店に扮して「social experiment」を行なったのだ。

《Winnie The Pooh》(2013年)
(画像=《Winnie The Pooh》(2013年))

画像引用:https://www.bonhams.com/

「クマのプーさん」が熊を捕まえる罠にかかってしまい、身動きが取れずに泣いている姿が強いインパクトを与える作品。この作品でポイントとなるのが、トラップの奥に横たわっているのが、プーさんが大好きなハチミツが入った瓶ではなく、「$」マークがついた瓶であること。

このお金の瓶は、バンクシーが発信するメッセージのひとつである「資本主義」や「消費主義」への批判と捉えることができる。お金を欲するばかりに「罠」にかかってしまう堕落や本来誰もが持っていたはずの子ども時代の純粋さとの乖離を、まさしく子ども時代を象徴するような世界中で愛されるキャラクターをモチーフにして、皮肉を込めて描いている作品。この作品は、56,250ポンド(当時約982万円)で落札された。

ミステリアスな人物像、政治性の強いメッセージや意表をついたパフォーマンスによって人を惹きつけてやまないバンクシー。市場価格は高騰の道を辿るばかりで、誰もがバンクシーの作品を買える訳ではない。でもある時、道を歩いていたらバンクシーの作品を売る露店が出ていたのなら、素通りするか、足を止めて万に一度のラッキーを掴みに行くか。あなたはどうする?

ANDARTは、バンクシーのような価値あるアーティストの作品を共同保有するプラットフォームです。ANDARTの詳しいサービスは下の記事からご覧下さい。また、無料会員登録頂くと、オークション情報やオーナー権販売情報をいち早くお届けします。

参考URL
https://www.unilad.co.uk/viral/banksy-once-sold-original-artwork-for-60-and-people-just-walked-past/
https://www.dailymail.co.uk/news/article-2656841/Two-Banksy-originals-purchased-just-60-Central-Park-graffiti-artists-NYC-residency-set-fetch-160-000-auction.html
https://www.myartbroker.com/artist/banksy/winnie-the-pooh/
https://www.myartbroker.com/artist/banksy/kids-on-guns/

文:ANDART編集部