アニメなどのコンテンツ市場が拡大した影響で、最近では多くの企業がIPビジネスに注目している。すでに成功を収めた企業も多く、今では数億規模の売上を記録するケースも珍しくない。興味をもつ経営者は本記事でIPビジネスの概要や実情を押さえていこう
目次
そもそも「IPビジネス」とは?
IPビジネスとは、自社が生み出した知的財産によって収益(ライセンス使用料)を得るビジネスのことだ。IPは「Intellectual Property」の略であり、日本語訳では知的財産を意味する。
知的財産を生み出した者には、その財産を使って利益を得る権利(知的財産権)が認められている。その権利は海外市場でも活用することが可能であり、最近では日本発の漫画やゲームが海外で販売されることも珍しくなくなった。
そのため、多くのファンを獲得できるような知的財産を考案すれば、想像以上のビッグビジネスにつながる可能性がある。
アニメやゲームだけではない!IPビジネスの具体例
知的財産と聞くと、アニメやゲームなどの作品をイメージする方は多いだろう。しかし、以下で紹介するようにIPビジネスにもさまざまな形がある。
・制作したアニメなどのコンテンツを、アプリや専用サイトで継続的に配信
・根強いファンを獲得した作品を、パチンコやグッズ製作などに二次利用
・アミューズメント施設やイベント施設とのコラボレーション
・革新的なシステムを開発し、他社にそのライセンスを販売
・CMやイベントへの出演
すべての知的財産に該当するわけではないが、IPビジネスではブランド力や訴求力の高いものを制作すると、その製作物を二次利用・三次利用できることがある。漫画の人気作品やマスコットキャラクターなどをイメージすると、大きなビジネスにつながることが分かるはずだ。
企業がIPビジネスを始める3つのメリット
では、一般的なビジネスと比べた場合に、IPビジネスにはどのようなメリットがあるのだろうか。ここからは企業が特に押さえておきたい3つのメリットを紹介する。
1.人気が定着すると息の長いビジネスになる
前述の通り、IPビジネスによって生み出した知的財産にはさまざまな活用方法がある。そのため、キャラクターや作品などに多くのファンがつくと、息の長いビジネスモデルを構築しやすい。
実際にアニメやゲームの製作会社の中にも、人気キャラクターのライセンス使用料によって経営を安定させている企業が存在する。
2.本業として取り組む必要がない
キャラクターなどの知的財産をライセンスとして販売すれば、グッズ製作やイベント運営などを自社で行う必要がない。これらのサービス展開はライセンスの購入者が行ってくれるので、IPビジネスは本業として取り組まなくても十分に成り立つ。
一方で、グッズ製作などを自社のみで行おうとすると、工場や機器を調達するためのコストや人件費がかかってしまう。ビジネスが成功するかどうか分からない状態で、これらのコストを負担することはハイリスクだ。
その点、グッズ製作などを外部に任せられるIPビジネスは、資金や人的リソースを削りたくない企業にうってつけなビジネスと言える。
3.自社のイメージアップや宣伝につながる
グッズ製作などの二次利用・三次利用が成功すると、一部の消費者は知的財産の考案者に目を向けてくれる。そこで新たなファンを獲得できれば、さらに多くの企業がライセンスを購入するようになるため、IPビジネスはスピード感のあるイメージアップ戦略として活用されるケースもある。
このような循環を作ることは簡単ではないが、消費者や顧客にアピールできるものは考案した知的財産だけではない。例えば、ホームページやSNSなどをうまく活用すれば、自社が取り組む別事業や別製品の宣伝にもつなげられる。
IPビジネスのデメリットと注意点
一方で、IPビジネスには深刻なリスクも潜んでいる。そのリスクによって経営が傾く恐れもあるので、次はIPビジネスのデメリットや注意点を確認していこう。
1.短期間では大きな収益につながらない
知的財産のライセンスを販売するIPビジネスは、長期間続けてこそ大きな利益になるビジネスだ。短期的な利益を重視するのであれば、知的財産そのものを売却したほうが目的を達成しやすい。
また、キャラクターやゲームをはじめ、知的財産には流行に左右されやすいものも存在する。もし多くのファンが離れると興味を示す企業も減っていくため、次第にライセンスの売上は落ちていくだろう。
したがって、IPビジネスにつながる知的財産を考案した際には、「短期・長期のどちらの収益を取るべきか?」を慎重に判断しなければならない。
2.知的財産の管理に手間がかかる
IPビジネスは副業としても成り立つが、知的財産の管理が不要になるわけではない。ライセンスの販売先にサービス展開を任せきりにすると、いつの間にかブランドイメージが低下することもある。
例えば、キャラクター本来のデザインとはかけ離れたグッズが販売されれば、原作が好きなファンは愛想を尽かしてしまう。どれだけ人気を得た作品であっても、一度離れたファンを呼び戻すことは難しい。
したがって、IPビジネスではライセンスの販売先を慎重に選び、契約内容についても細かく調整することが必要だ。知的財産のブランドは自社のイメージにもつながるので、IPビジネスを行う企業自身もサービスの展開方法を考えなくてはならない。
3.一部の地域では権利が無視されることも
IPビジネスの最大の脅威とも言えるものが、「海賊版」の存在だ。海賊版とは、知的財産権や著作権を無視して作られる製品を指す。
本来、ベルヌ条約の加盟国では知的財産権や著作権が守られるものの、一部の地域ではこれらの権利が無視されることもある。海賊版製品の販売によって生じた利益は、発案者の元には当然入ってこない。
IPビジネスを成功させるには、メリットだけではなくデメリットも理解しておく必要がある。中でも海賊版の存在は深刻なリスクであるため、サービスの展開方法やライセンスの販売先は慎重に見極めよう。
国内におけるIPビジネスの背景と実情
近年、国内では多くの企業がIPビジネスに乗り出している。ここからは国内におけるIPビジネスの背景と実情をまとめたので、IPビジネスを検討している経営者はしっかりとチェックしていこう。
IPビジネスが注目された背景
IPビジネスが注目された背景としては、「SNS」の存在が大きい。Twitterなどが世界的に浸透した影響で、最近ではクリエイター側が作品関連の情報を頻繁に発信するようになった。
また、SNSではクリエイターと直接コミュニケーションを取ることも可能であり、作品に対する感想や応援などのコメントを残すユーザーも珍しくない。中には「こんなグッズを出して欲しい」と具体的な要望を伝えるユーザーも見られるなど、SNSの影響で作品とユーザーの距離は確実に縮まっている。
そのほか、テレビ以外のメディアが急速に発達した点も、IPビジネスが注目されている一因だろう。ネット番組や動画配信サービスなど、さまざまな形でコンテンツを発信できるようになったため、クリエイター側がアピールする手段も増えてきている。
IPビジネスの実情
では、SNSや新しいメディアが普及した影響で、IPビジネスの市場はどれくらい膨らんでいるのだろうか。一般社団法人日本動画協会が公表した「アニメ産業レポート」によると、アニメ業界の市場規模は以下のように推移している。
次は、金融庁の情報をもとに算出されたIPビジネス全体の業界ランキングを紹介しよう。
上記を見ると分かるように、特にアニメ業界の市場規模は2010年代後半(※SNSが広く普及し始めた時期)から拡大している。また、サンリオやNexToneが売上高の上位に入っていることから、キャラクターや音楽に関するIPビジネスも大きな需要を生み出していると考えられる。
成功事例から学ぶIPビジネスのポイント
IPビジネスの成功事例からは、知的財産を生み出したりリスクを抑えたりするポイントを学べる。ここからは日本国内における成功事例を2つまとめたので、これからIPビジネスを始める経営者はぜひ参考にしていこう。
【成功事例1】IPビジネスと資本業務提携を組み合わせ、海外へと進出
カードゲームなどのコンテンツ製作を手がける「ブシロード」は、自社の知的財産をアニメやゲームの製作会社に提供している。また、2017年には海外進出の足がかりを作るために、配信プラットフォームをもつシンガポールの企業「MobiClix Pte Ltd」と資本業務提携を結んだ。
この事例を見ると分かるが、知的財産を活用する方法はIPビジネスだけではない。資本業務提携などほかの経営戦略と組み合わせれば、さらに大きなビジネスチャンスをつかめる可能性がある。
IT化やグローバル化が進んだ影響で知的財産の活用方法は増えてきているため、IPビジネスの計画を立てる際には視野を広げることが重要だ。
【成功事例2】知的財産の活用事例が多いパートナー企業と契約
総合エンターテイメント企業である「KADOKAWA」は、知的財産のライセンスを購入する側の企業だ。
同社は人気キャラクターのグッズ化のほか、タイアップや舞台化、書籍化など幅広いライセンス事業を手がけている。中でも伝統工芸品と作品をコラボレーションさせた製品は、ほかではあまり見られない斬新な発想だろう。
KADOKAWAのように活用事例が多い企業を選ぶと、発案者は自分の作品をより活かしやすくなる。実際にKADOKAWAを通して新たなファン層を獲得したケースも多いため、特に知的財産のブランドや知名度を重視している方は、こういったパートナー企業を探してみよう。
IPビジネスはじっくりと計画を立てることから始めよう
世界的にIT化が進んでいる現状を考えると、今後もIPビジネス市場は拡大する可能性がある。ただし、そもそも需要のある知的財産を生み出すことが難しいため、安易に会社のメイン事業を切り替えるべきではない。
本記事でも解説したように、IPビジネスは本業でなくても成り立つビジネスなので、まずは時間をかけてじっくりと計画を練るところから始めよう。