商法とは?運送業の経営者必須の運送・海商に関するルールに要注意
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商法は、古い歴史を持つ法律である。しかし民法や会社法と異なり実務を取り扱う際にあまり気にかけない人も多いのではないだろうか。事業をするうえで商行為について定めた商法は、事業を行う者にとっては重要な法律である。会社法や民法と関係について確認することで商法の理解も深まるだろう。

またコロナ禍の外出自粛の影響もあって物流が盛んになっている。本稿では、運送業に関わる企業に影響を与える運送・海商に関するルールである「商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律」の改正ポイントも解説する。

目次

  1. 商法とは?商法と会社法との違い
  2. 民法と商法ではどちらが優先される?
    1. 民法と商法との関係
    2. 民法と商法とで異なる規定がある
  3. M&Aにおける会社法と商法
  4. 運送業経営者必須の知識 商法改正のポイント
    1. 運送全般のルールが新設
    2. 危険物に関する荷送人の通知義務の明文化
    3. 全部滅失の場合でも荷受人は損害賠償請求が可能
    4. 荷物の滅失損傷に対する運送人の責任期間が1年に短縮
    5. 旅客運送事業者の免責特約の効力に関する規定が新設
    6. 高価品の損害についての運送人の責任が変化
  5. まとめ

商法とは?商法と会社法との違い

商人の営業や商行為、その他商事について定めた法律が商法である。一方で「商法(第2編)」「有限会社法」「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」を統合し再編成したものが会社法だ。つまり会社法は、もともと商法にあった会社に関することを切り離した独立したものであり会社法と商法は関係が深い法律といえる。

会社法では会社としての目的を実現するために必要な以下のような実務的なルールを定めている。

  • 株主と株式の関係
  • 組織と運営
  • 組織再編
  • 設立・解散・清算など

会社経営そのものに影響を与える重要な内容が数多く含まれているのが特徴だ。

民法と商法ではどちらが優先される?

商法は、商売人同士の取引を定めた法律だ。しかし契約について定めた民法もある。商取引も契約に基づいて行われるものであり「民法と商法でどちらが優先されるのか」という問題がある。

民法と商法との関係

商法の第1条第1項では、以下の定めがある。

「商人の営業、商行為その他商事については、他の法律に特別の定めがあるものを除くほか、この法律の定めるところによる」
出典:e-Gov

つまり商法は、第1条で商人の営業や商行為、その他商事について定めた法律であることを宣言している。また同法第1条第2項では、以下の定めがある。

「商事に関し、この法律に定めがない事項については商慣習に従い、商慣習がないときは、民法(明治二十九年法律第八十九号)の定めるところによる」
出典:e-Gov

また法律には「一般法」と「特別法」があり、商法は民法の「特別法」の関係にある。一般法をさらに細かく規定したものが「特別法」だ。民法と商法に重複する内容の規定がある場合には「特別法」である商法が優先される。つまり民法と商法の優先順位は、商事に関していえば「商法>商慣習>民法」という順位で適用されることになるのだ。

民法と商法とで異なる規定がある

民法と商法で異なる規定があるのでその例をいくつか見てみよう。

・商行為における承諾

商法第508条
商人である隔地者の間において承諾の期間を定めないで契約の申込みを受けた者が相当の期間内に承諾の通知を発しなかったときは、その申込みは、その効力を失う。
出典:e-Gov

民法第525条
承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。
出典:e-Gov

商法では「相当の期間内に承諾がなかったときは効力を失う」ことになるが、民法では「相当な期間が経過するまでは撤回ができない」ことになり意味が異なる。商法では、事業の停滞がないように速やかな措置が取られている。

・商行為の代理

商法第504条
商行為の代理人が本人のためにすることを示さないでこれをした場合であっても、その行為は、本人に対してその効力を生ずる。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知らなかったときは、代理人に対して履行の請求をすることを妨げない。
出典:e-Gov

民法第99条
代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
出典:e-Gov

商法では、代理人が本人のためにすることを示さなくても効力が生じる点が民法とは異なる。民法での代理人は顕名主義が取られているが、商法では依頼人が推定できればよいと言っているのだ。もちろん、代理人であることを知らなかったときは、その代理人に対して履行を請求できる。

・商行為の債権の利息
以前は、商行為の債権の利息は年6%、民法の法定利率は年5%と異なる利率であったため、商行為に該当の有無で適用する利率を使い分ける必要があった。しかし2020年4月の民法改正に伴い、商法の法定利率は廃止され年3%に統一されている。ただし2020年4月1日より前に発生した商事債権により発生した利息は、商法上の債権の利率が適用されるため注意が必要だ。

M&Aにおける会社法と商法

M&Aにおいては、商売を譲渡する場合は商法が適用される余地があると考えられる。景気が好調・低調時のどちらにおいてもM&Aが活発に行われているのが現状だ。M&A専門で事業活動を行うコンサルタント会社も多くM&Aは、現在ビジネスとなっている。しかしM&Aは事業を譲渡する側も買収する側も会社であることが多い。

また株式取得や株式交換、株式移転、合併、会社分割などさまざまな方法がある。会社に関係するM&Aは、すべて会社法の手続きに則って行い、会社法に抵触しない方法で行う必要がある。そのためほとんどの場合、会社法を使用することになるだろう。

運送業経営者必須の知識 商法改正のポイント

「商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律」が2018年5月に成立し、2019年4月1日から施行されている。近年は、コロナ禍の外出自粛により物流が盛んになった。そのため運送業に関わる企業は、契約書の内容や実務的な事業活動で大きな影響があると考えられる。物品運送に関する法改正のポイントの中でも重要なものを6つ解説していく。

運送全般のルールが新設

これまでは、航空運送や陸・海・空を組み合わせた複合運送に関する規定がなかったが、それらは現代の社会において一般的に行われている。この分野については、1899年の商法制定から約120年間、実質的な見直しがほとんど行われていなかったが、約120年間で時代は大きく変化しさまざまな問題が指摘されてきた。

そのため現代の社会情勢に対応することを目的に商法改正が行われたのである。また同時に片仮名・文語体で表記されていた商法の規定を平仮名・口語体に改め分かりやすいものにした。法改正の趣旨は、以下のような「運送全般に関する共通ルールの新設」「複合運送に関する特別ルールの新設」の2つがある。

・航空運送や複合運送に商法のルールが適用
商法では、物品運送や運送事業者の保護、法律関係の早期画一的処理を図ることを目的に多くの規定が定められている。法改正により航空運送や複合運送にも商法が適用されることになった。

・複合運送に関する特別な規律
複合運送は、陸・海・航の運送を組み合わせた運送であり複数の運送区間に分かれている。そこで荷物が壊れていた場合、どのように運送事業者へ損害賠償請求をするのかが問題になっていた。このような問題に対応するために各種新しい規定が創設されている。

危険物に関する荷送人の通知義務の明文化

荷物を送る際に必要な情報を通知しなければならない危険物は、ガソリン、灯油、高圧ガス、火薬類などの「引火性、爆発性その他の危険性を有するもの」である。送り主は、運送品が危険物であるとき引き渡しの前までに運送事業者に対して運送品の品名、性質など安全な運送に必要な情報を通知しなければならない。

送り主となる者には、一般の依頼人、事業者を問わず通知の義務がある。通知をしなかった場合、運送事業者に損害賠償の責任を負うことがあるため注意が必要だ。

全部滅失の場合でも荷受人は損害賠償請求が可能

法改正前は、受取人は一部でも荷物が届かなければ損害賠償を請求できない問題があった。荷受人の権利の見直しが行われ改正後は、運送品の全部が滅失した場合でも物品運送契約によって生じた運送事業者の権利と同一の権利を取得し損害賠償を請求できる。ただし受取人が運送品の引き渡しやその損害賠償の請求をしたときには、運送事業者はその権利を行使できない。

荷物の滅失損傷に対する運送人の責任期間が1年に短縮

法改正前において運送事業者が運んだ荷物が壊れていた場合、運送事業者の責任は指定された受取人に荷物を引き渡してから最長で5年の間と定められていた。運送事業者が損傷を知らなかった場合は1年、知っていた場合は5年の消滅時効となっていたのだ。

そのため引き渡しから1年以上経過後「運送事業者が損傷を知っていたはず」と主張されても運送事業者は知らなかったことを証明することが困難となり地位が不安定になる問題があった。改正後は、膨大な荷物を扱う運送事業者のリスク管理の観点から除斥(じょせき)期間として運送事業者の責任は、指定された受取人に荷物を引き渡してから一律1年となっている。

除斥期間は、消滅時効と異なり中断や停止が認められず期間の経過によって権利が消滅。受取人は、1年の制限期間内に損害賠償の請求をしなければならないため注意が必要だ。

旅客運送事業者の免責特約の効力に関する規定が新設

商法には、タクシーやフェリー、旅客機などの旅客運送もあるが運送業者を免責するような特約を規制する規定はなかった。そのため事故が起こった際、賠償額の上限を決める特約を設けたり運送業者が責任を負わない内容の誓約書を求めたりする事例が問題視された。改正後は、共通ルールとして旅客の生命・身体が損なわれた場合の運送事業者の損害賠償責任を軽減・免除するような特約は原則無効だ。

旅客の生命・身体の侵害についての運送業者の責任を減免する特約は、無効とする規定を新設し損害賠償が不当に制約されることを防止した。ただし以下のような例外事項もあるため、注意しておきたい。

  • 旅客列車における到着の遅れなど運送の遅延を原因とするもの
  • 被災地に救援物資を届ける人を運送する場合
  • 大規模な火災や震災などが発生した場合
  • 重病患者を搬送する場合など

高価品の損害についての運送人の責任が変化

高価品の損害の場合、運送業者の責任に変化があることにも注目したい。従前は、運送を委託する場合に高価品であることを通知しなければ運送業者は損害賠償の責任を負うことはなかった。しかし改正後は、以下のような場合、運送業者は損害賠償責任を負うため、注意が必要だ。

  • 物品運送契約の締結当時に運送品が高価品であることを運送業者が知っていたとき
  • 運送業者の故意・重大な過失によって高価品の滅失、損傷、延着が生じた場合

まとめ

コロナ禍の外出自粛の影響もあって事業活動は大きく変化している。このような時代だからこそ、商法が事業を行う者にとって重要な法律であることを再認識し理解を深めておきたい。近年商法のみならず民法や会社法、労働関連法などさまざまな法律が改正され事業そのもののあり方が大きく変化している。

経営者や法務担当者は、常日ごろから法改正にアンテナを張りめぐらし、適正に対応していくことが必要だろう。

文・加治 直樹(1級FP技能士、社会保険労務士)

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