経営者に必須の会社法の知識 M&Aに関する気になる言葉を解説
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会社に関する法律は「専門的で分かりにくい」というイメージを持つ人も多いのではないだろうか。しかし会社法は、会社経営するうえで必要な知識であり経営のトップから法務担当、新入社員に至るまで知っておいてほしい知識が含まれている。大企業にも中小企業にも影響を与える会社法の最低限の知識を紹介していく。

目次

  1. 会社法とは一体何か
    1. 会社法とは?
    2. 4種類ある会社の違い
  2. 経営者なら知っておきたい会社法の知識
    1. コンプライアンスの意義(法的リスクと社会信用失墜リスク)
    2. コーポレートガバナンスとアカウンタビリティ
    3. 会社の商号を考えるときの3つの留意点
    4. 親会社、子会社とは?
    5. 会社法上の犯罪とは?
  3. 経営者が気になる言葉を解説
    1. M&Aとは一体何?
    2. 会社の支配を獲得する方法(株式取得、TOB、MBO)
  4. まとめ

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会社法とは一体何か

会社法第3条によると「会社は、法人とする」とある。また同法第105条では、株主の権利について以下の3つの権利があると記載。

  • 剰余金の配当を受ける権利
  • 残余財産の分配を受ける権利
  • 株主総会における議決権

つまり会社は法人かつ営利を目的とする経済的な存在である。「営利を目的とする」とは、事業活動で得た利益を株主に分配することだ。最初に会社法の成立した背景と会社の種類から見ていこう。

会社法とは?

会社法は、会社の設立から組織、運営、管理に至るまでを定めた技術的な法律だ。2006年5月1日に施行され会社経営そのものに大きな影響を与える重要な内容が多く含まれている。「商法(第2編)」「有限会社法」「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」が統合され、「会社法」として単体の法律として再編成したものだ。

2014年6月に改正会社法が成立し2015年5月に施行されている。改正の目的は、親会社の規定の整備、コーポレートガバナンスの強化など多岐にわたる。今後も法改正内容のチェックはかかせない。2021年3月施行の改正では「取締役に対する報酬の付与や費用の補償等に関する規定の整備」「監査役会設置会社における社外取締役の設置の義務付け」などが行われている。

また2023年4月施行の法改正では、株主総会関連で「電子提供措置制度の創設」を予定している。詳しくは法務省のホームページを参照されたい。

4種類ある会社の違い

「会社」は、以下の2種類に分けられ、いずれも法人であり事業の行為は、商行為とされている。

  • 株式会社
  • 持分会社(合名会社、合資会社、合同会社)

会社法が施行される前は「有限会社」と呼ばれる会社があった。会社法施行に伴い廃止されたが現在も「特例有限会社」として存続している。特例有限会社は、会社法上の分類では株式会社であるが商号は「有限会社」と称することが必要だ。株式会社と持分会社の違いは、出資者の地位が「株式か」「持分か」にある。

・株式
流通させることが可能であり投資家から資本を集めた大規模な事業を行える。株主(=社員)がすべて有限責任となることも出資者を広く募ることを可能にしている。

・持分
譲渡するのに社員の同意が必要となるなどの制約があり、流通を目的にしていない。出資者(=社員)が同時に従業員となることから分かるように少人数の仲間で集まって事業を行う会社というイメージだ。

経営者に必須の会社法の知識 M&Aに関する気になる言葉を解説
  • 有限責任:出資者の会社債権者に対する責任は、出資した金額が限度
  • 無限責任:出資者の会社債権者に対する責任は、個人の全財産を失ってでも返済する必要がある

【株式会社の特徴】
株式会社の大きなメリットは、不特定多数の人から資金を集めることができることだ。大きな資本を集めることができるため、大規模な会社を作るのに適している。株式会社の以下の特徴を考えると資金を集めやすく会社の中でも圧倒的に株式会社が多い理由が分かるだろう。

・株主平等原則
誰でも株主となることができ株主は株式数に応じて平等に扱われる。

・有限責任
株主の責任は、株式の引受価額を限度に負い、会社の債権者などから直接請求されることはないため、安心して株主になれる。

・株式譲渡自由の原則
株主は、株式を自由に譲渡できるため、投資した資金をいつでも回収できる。

・善意取得
株券は、流通する有価証券だ。善意で取得したものであれば重大な過失がない限り権利のない者から取得しても株主としての権利が取得できる。

・所有と経営の分離
株主総会で選んだ取締役や執行役、取締役会で選んだ代表取締役や代表執行役に会社の経営を任せ出資者である株主(所有者)と区別されている。

【持分会社の特徴】
「社員」とは出資者のことである。株式会社では「株式」と呼び、持分会社では「持分」と呼ぶが、いずれも出資による社員の地位という点では大きな違いはない。持分会社の特徴は、原則、社員であれば誰でも業務執行権を持つことだ。社員が2人以上いる場合、持分会社の業務の意思決定は社員の過半数で決定する。また利益や損失の分配も自由に定款に定めることが可能だ。

定款の変更は、原則総社員の同意で行うことができ、出資割合に応じて議決権が与えられる株式会社とは内容が大きく異なる。株式会社では、株主が誰でも業務執行権を持つことはない。

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経営者なら知っておきたい会社法の知識

2014年の改正では、コーポレートガバナンスの強化や親子会社関係の整備が行われてきた。そのため今後も社会情勢の変化に応じて改正が繰り返されていく可能性がある。企業を経営するうえで経営者なら知っておきたい会社法の基本的な事項を見てみよう。

コンプライアンスの意義(法的リスクと社会信用失墜リスク)

コンプライアンスを守る意義は、リーガルリスク(法的リスク)の回避と社会的な避難を受けないようにする社会信用リスクの回避にある。企業は事業を行っていくうえで、さまざまな規制を受けるが、守るべきものは法律だけではない。企業には、社会的責任もあり法律や社内規則・規律だけではなく倫理や道徳的な規範や慣習も含めて守ることが必要だ。

SNSなどでブラック企業などと拡散されるようなことがあれば、会社そのものの存続が危ぶまれることになりかねない。他にも談合やインサイダー取引、架空利益の計上、情報漏えい、不正受給、パワハラなどリスクは多岐にわたる。これらの問題は、大企業の不祥事や犯罪というイメージがあるかもしれないが情報化社会やネット社会の進展に伴い中小企業においても他人事ではない。

コーポレートガバナンスとアカウンタビリティ

コーポレートガバナンスとは、企業統治システムを指す。社外取締役や社外監査役の要件の厳格化、監査等委員会設置会社が創設されたのもコーポレートガバナンスの強化を目的にしたものだ。経営を透明化し会社統治システムを構築することがコーポレートガバナンスの目的となる。それには、アカウンタビリティ(説明責任)が重要だ。

株主に対して納得が得られる説明をする責任を果たさなければ経営の透明化を図ることはできず、株主からも取引先からも信用は得られない。

会社の商号を考えるときの3つの留意点

商号とは「会社の営業上の名称」であり、原則どのような商号を用いるかは自由だ。しかし商号を決めるにも以下のようなルールがある。商号を決める際には、商法や不正競争防止法、商業登記法などでも規制されており損害賠償を請求されるなど訴訟リスクがあるので注意が必要だ。

  • 会社の種類を入れる(株式会社、合同会社など)
  • 同一商号、同一住所は登記できない
  • 不正目的で他人の商号を使ってはならない
  • 他の会社の種類と誤認されるような文字を使ってはならない
  • 会社でない者は会社と誤認するような名称や商号を使用してはならない

親会社、子会社とは?

親会社と子会社の関係は、以下のようになる。

  • 親会社:議決権の過半数を持っているなど他の会社の経営を支配している会社
  • 子会社:親会社によって支配されている会社

子会社は、親会社の株式を取得することを原則禁止されており、保有したとしても親会社の議決権を行使することはできない。その他にも、監査役の兼任の禁止規定や社外取締役、社外取締役の範囲などの基準もあるため、判断には注意が必要だ。

会社法上の犯罪とは?

会社法は、刑法の特別法でもあり罰則が厳しい。コンプライアンスを守るうえで重要であり代表的なものはチェックしておきたい。

・取締役等の特別背任罪(960条)
株式会社の取締役、会計参与、監査役、執行役などが自分や第三者の利益を図る目的や会社に損害を加える目的で任務に背き会社に財産上の損害を加えた場合(10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれを併科)。

・会社財産を危うくする罪(963条)
新株発行や新株予約権発行に際して現物の価額の評価について虚偽の説明をしたときや剰余金分配規制に反して配当したときなど(5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはこれを併科)。

・株式の超過発行(966条)
取締役や執行役などが株式会社の発行可能な株式総数を超えて株式を発行した場合(5年以下の懲役または500万円以下の罰金)。

・株式等の権利の行使に関する贈収賄罪(968条)
株主総会での発言や議決権行使に関して不正の依頼を受けて「財産上の利益を得る」「要求する」「約束を行う」といったことをした場合。(5年以下の懲役または500万円以下の罰金)

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経営者が気になる言葉を解説

好景気・不況時のどちらにおいてもM&Aは頻繁に行われニュースでも取り上げられている。経営者が気になるM&Aに関する言葉の意味も理解しておきたい。

M&Aとは一体何?

M&Aは、合併と買収(Mergers and Acquisitions)という意味だ。一般的に企業の全部、または一部の移転を伴う取引を指す。しかし広い意味で複数企業間の組織の再編として使われている傾向だ。他の会社を吸収合併して事業の多角化を狙うことも株式を取得して子会社とし企業規模の拡大を狙うケースもある。

また他の会社の株式を買い占めて支配力を強めて高値で株式の買取を要求するケースも少なくない。最近では、中小企業においても事業成長のための時間的コスト削減や税制面のメリットから後継者のいないオーナーが会社の株式をすべて譲渡して、会社ごと売却することがよくある。M&Aの目的は、事業の多角化や事業承継、競争力の強化、企業規模の拡大などさまざまだ。

M&Aとひとくちにいっても株式取得や合併、事業譲渡、会社分割、株式交換、株式移転など方法は多岐にわたる。ここでは、代表的な方法としていくつか取り上げてみよう。

・合併
合併は、2つ以上の会社が契約により1つの会社になることをいう。また合併には「新設合併」「吸収合併」の2つの方法がある。「新設合併」は、合併する会社がすべて解散し同時に新会社とする方法だ。「吸収合併」は合併する会社の一方が存続し、もう一方は解散して存続会社が吸収する方法である。

・事業譲渡
ある事業の全部または一部を他の会社に譲渡するのが事業譲渡だ。事業には、単なる事業用の財産だけではなく取引先やノウハウなども含まれる。譲渡の対象となる事業や資産、引き継ぐ負債は、契約により自由に選択できる点はメリットだろう。しかしデメリットもある。債務や契約上の地位を引き継ぐには、債権者の同意が必要となる。

従業員の移転には、各従業員の同意が必要となり退職者には退職金の準備も必要となるであろう。また許認可を必要とする事業の場合、許認可の取り直しもしなければならない。

・会社分割
会社分割は、会社の事業の全部または一部を他の会社に譲渡する方法で、種類は「新設分割」「吸収分割」の2つとなる。対価が原則株式となる点や事業に関する権利義務が包括的に継承される点が事業譲渡とは異なる。「新設分割」は、新会社を設立して新しく設立した会社へ既存の事業を継承させる方法。「吸収分割」は、すでにある会社へ事業を承継させる方法である。

会社の支配を獲得する方法(株式取得、TOB、MBO)

M&Aの手段としては「買収」「分割」「合併」の3つの方法がある。事業譲渡も株式取得と同じく買収の方法の一つだ。

・株式取得
取締役は、株主総会で株式数に応じた多数決で選ばれるため、株式取得は会社の支配を獲得することになる。株式取得は、取得方法によって以下に分けられるのが一般的だ。

  • 株式譲渡
  • 第三者割当増資
  • 株式交換
  • 株式移転

株主が変わっても経営権が移るだけで対外的にはほとんど変わらず、事業活動は可能である。M&Aの中でも株式取得は、最も簡単なものといえるだろう。

・TOB
TOBとは、Take Over Bidの略で株式公開買付のこと。上場会社などの株式を市場外で購入するために取る方法の一つである。買付者は、対象会社や買付期間、価格などの条件を公開し勧誘、所定の手続きがが必要となる。

・MBO
MBOとは、Management Buyoutの略で対象となる会社の経営陣が会社の株式や事業を買取すること。例えば以下のようなケースがある。

  • グループの経営方針で親会社が事業部門の一部を切り離す際に経営陣が会社の株式を購入して会社から独立するケース
  • 株式公開のメリットが薄れた上場会社が株式非公開にする手段として使うケース

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まとめ

会社法は、会社の設立から組織や運営、管理に至るまでを定めた技術的な法律だ。また会社が企業としての目的を実現するために必要な実務的なルールを定めている。そのため今後も社会情勢の変化に応じ改正が繰り返されていく可能性があるだろう。経営のトップ、法務担当としては、会社法の知識を身につけ実務において適切に対応しておくことが必要だろう。

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加治 直樹
著:加治 直樹
特定社会保険労務士。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。銀行に20年以上勤務。融資及び営業の責任者として不動産融資から住宅ローンの審査、資産運用や年金相談まで幅広く相談業務を行う。退職後、かじ社会保険労務士事務所を設立。現在は労働基準監督署で企業の労務相談や個人の労働相談を受けつつ、セミナー講師など幅広く活動中。中小企業の決算書の財務内容のアドバイス、資金調達における銀行対応までできるコンサルタントを目指す。法人個人を問わず対応可能であり、会社と従業員双方にとって良い職場をつくり、ともに成長したいと考える。
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