フトン巻きのジローは2017年に設立。その前年よりコインランドリー事業を手掛けていたが、近年高まる布団洗いの需要をいち早く捉え、「布団洗いに特化したコインランドリー」という新たな市場の開拓を開始した。以後、FC展開を加速させることで100店舗も射程圏内に入ってきた同社。そのビジネスモデルを作り上げた森下洋次郎会長に話を聞いた。
旧態依然とした業態に活路見出し
コインランドリー大国で創業
―競合や大手企業も多いコインランドリー業界で2017年に設立されたとのことですが、普通に考えればなかなか参入しづらい環境です。どのような考えで参入を決意されたのでしょうか。
森下 事の始まりは、私自身の起業の失敗談をブログで発信したことに遡ります。元々私は東京でITの会社を経営していたのですが、当時は社員が離れてしまい、なかなか上手くいっていませんでした。そこでこうした経験を自身のブログに書いて発信していたのですが、 ある日それを見られた方から、「立命館大学の客員教授にならないか」とオファーをいただ いたのです。恐らく経営学の一環で、私のように苦労した起業家の話が面白いと思ったのだと思います。そしてそのご縁がきっかけで大学主宰のグローバルリーダーを育てるプロジェクトに参画し、プロジェクトの一環でアメリカに渡ったのですが、そこで「イノベーション」というテーマについて学んだことが大きかった。
イノベーションとは既存の常識とか概念を真逆に発想して、破壊的なことをやっていくことです。私もそれまで色々な新規事業を手掛けてきましたが、そこには「業種選び」という点が非常に重要であると気付いたのです。
―コインランドリーには、イノベーションを起こせる土壌があったと。
森下 以前、ITの会社を経営している時に、新規事業として民泊事業を行っていました。そこでシーツを洗うために頻繁に利用していたのが、コインランドリーです。その時は特に何かをするということはなかったのですが、先ほど申し上げたアメリカでの勉強を経た時にピンと来るものがあった。そこからコインランドリーについて深く調べ始めるのですが、面白い気づきがあったのです。旧態依然とした業態ではありますが、原価率はとても低く、 在庫もなく、機械さえ置けば成立する商売だったのです。コインランドリーは「暗い」「汚い」「怖い」という3Kの店舗が多いのですが、それでも成り立ってしまいます。また水道や電気、ガスといった原価率は20%ほどなのですが、それも機械にコインを入れない限り発生しない。つまり掛けがない商売なのです。これは場所と値段設定さえ間違えなければ、絶対儲かると確信しましたね。
―そこから事業化に至ったわけですね。
森下 これはチャンスだと思って物件を探し始めたのですが、私自身がIT出身なもので立地ビジネスのノウハウがなく、まずは全国各地を回ってみることにしました。そして沖縄に行った時に、現地に3Kのボロボロランドリーがたくさんあったのでよくよく調べたのですが、沖縄は高温多湿でコインランドリー大国だったのです。それで試しにキレイでおしゃれなコインランドリーを作ってみたのですが、これが大当たりしました。当時の沖縄には、都内では既に普及している大型の洗濯乾燥機といったものもなかったので、先進的なコインランドリーだと話題になり、初月から月商100万円を売り上げたのです。これは一般的なコインランドリーの平均月商の2・5倍です。
布団を巻く手法を開発し、サービスを確立
全国3億枚市場の開拓を開始
―当初は従来型のコインランドリーとしてスタートされたようですが、布団洗いに移行されたのはどのような理由からですか。
森下 コインランドリーはその後も次々と出店し、5店舗まで出したのですが、当時はマーケティングもしていく必要があると思っていたので、私自身も店頭に立って接客をしていました。沖縄では大型洗濯乾燥機がまだ珍しかったので、カーペット、毛布、カーテン、布団など、とにかく大きなものを入れるよう勧めていたのですが、布団というと皆さん固まって、「布団って洗えるの?」って反応をするのです。それを見て、多くの人が布団は干すものだと思っていることが分かりました。だったら「布団を洗うというサービスを確立させればいいのでは」とひらめいたのです。そこで改めて布団の市場について調べてみると、一人当たりが持っている寝具枚数が2〜3枚だというデータが取れました。つまり、単純計算すると全国に布団は3億枚。洗濯単価を1枚2000円で見積ると、全国民が布団を1回洗うだけで6000億円の産業になる。これはコインランドリー業界で圧倒的に勝てるチャンスだと思いました。
―とても大きな産業ですが、一方でなぜこれまで未開拓だったのでしょうか。
森下 これまで布団ケアの方法としては、「クリーニングに出す」 や「天日干し」、「布団用掃除機で吸う」の3種類がありました。ただクリーニング店でいうと、布団洗いは非常に高価で1枚5000円ほどする。安い布団だったら買えてしまいますよね。またひとことに布団と言っても掛け布団と敷布団がありますが、クリーニング店は敷布団が取り扱えないところが多かった。つまり世の中に敷布団を洗う方法が存在しなかったのです。
検証重ね、独自の布団バンドとネットを開発
―敷布団を洗う方法をどのように生み出したのですか。
森下 敷布団を洗う時の問題点として挙げられるのが、「型崩れをしてしまう」「乾かない」の2点です。敷布団にはキルティング加工という、布団の表の生地と裏地の間に綿などの素材を入れ、一緒にミシン縫いをする加工があります。この加工がされた敷布団はそのまま洗っても問題ありません。しかし最近の敷布団は、寝心地に影響することからキルティング加工がされていないものが多く、そのような布団は洗濯機の圧力で中綿が自由に行き来してしまい、型崩れが起きてしまうのです。ですからそれであったら「中綿が動かないように縛ればいい」と思い付き、 布団を巻いて洗うという方法に繋がったのです。
―布団を巻くという方法は、これまで誰もやっていない手法だったのですか。
森下 実は紐で縛り付ける方法をやっている人はいたようですが、誰も特許を取ってはいませんでした。またこの方法では、力の弱い人が縛るとすぐ抜けて壊れてしまうというリスクも考えられます。そこで私はスーツケースベルトで固定する方法を思い付き、検証をしてみたのですが、 スーツケースベルトの留め具部分が機械に当たり、今度は機械を傷めてしま う。ただ固定するベルトの強さとしては問題がなかったので、スーツケースベルトを「布団巻きバンド」、また専用のネットを「布団巻きネット」という形にして自社で製造したのです。
ダニアレルゲンを97%除去
布団は「干す」から「洗う」へ
―開発した自社製品で布団洗いを可能にしたのですね。ただそもそも、多くの人が布団は干すものと認識している中、どうやって布団洗いのニーズを高められたのでしょうか。
森下 布団はダニの寝床だと言われており、アレルギー疾患の大きな原因になっています。先ほど布団のケアの方法は主に3つだと言 いましたが、天日干しや布団用掃除機、自社の布団洗いの3つで、ダニアレルゲンをどれだけ除去できるのかということを琉球大学医学部に所属するベンチャー企業と連携して検証しました。すると天日干しは0%、布団用掃除機は50%、それに対して当社のサービスは、97%が除去できるという結果が出たのです。実際にうちのサービスを使っていただいた方には、「もうジローがないとやっていけない」と言ってくれる方も多く、実際に喘息が改善されるなども体感し、必要なサービスだと感じてくれているようでした。その1回の体験がとても重要だと思っています。なぜなら日本人はとても清潔な人種なので、一度体験した清潔感の水準を下げることができなくな る。結果的にリピート率が高くなるのです。
平均月商は同業他社の4倍
要因は晴れの日需要の獲得
―独自のメニューがあることで他社よりも優位に立てる点は分かりましたが、その分、初期投資なども高くなるのでは。
森下 一般的なコインランドリーの初期コストは3000万円くらいだと言われています。しかし私たちのモデルは、居抜きテナント40坪程度の場合で総額約5000万円となっています。 そのため、確かに一般的なコインランドリーに比べると高いと驚かれますが、 通常のコインランドリーは全国に約2万店舗あり、1000億円の市場。またクリーニング店は全国に約3万店舗あり、3600億円の市場。それに対して、私たちのサービスは6000億円の市場であり、未開拓のマーケットのため競合も少ない。必然と売上も高く取れます。実際、一般のコインランドリーの平均月商は40万円と言われていますが、当社の店舗平均月商は4倍の160万円となっています。
―他社の4倍の月商を出せるのはなぜでしょうか。
森下 一般的なコインランドリーは、通常雨の日に需要が高まりますよね。しかし私たちの場合、雨の日の通常利用に加え、晴れた日は布団洗いを訴求し、晴れの日こそ単価の高い布団洗いの需要が高まります。この天候に左右されないビジネスモデルが大きな強みとなります。また一般的なコインランドリーの利用者は、世帯利用者が10% しかいないニッチビジネスとなっていますが、私たちは誰もが保有する布団洗いを訴求し、マス市場をターゲットとするという明確な差別化を図っています。さらに布団洗いの利用者を増やし、「布団洗いは年に4回行うこと」を推奨して、利用頻度を上げていることも売上実績に繋がっていると思います。
―ほかに類似する業態がないため、立ち上げ時から上手く稼働できるか心配になるオーナーもいらっしゃると思います。その点はどのように対応していますか。
森下 加盟店のために、「ジロー大学」という充実した研修制度を取り入れています。研修は本社で合同形式で行っており、他のオープン月の近いオーナーが一緒に研修を受けるため、オーナー同士で強い連帯感が生まれ、横の繋がりができる環境にしています。またオンラインコンテンツも豊富に揃えています。このコンテンツは加盟店オーナー自ら撮って頂き、現場の貴重なノウハウが学べるというものです。このように既存オーナーも積極的に入っていただき、新規の方でも安心して学べる環境を揃えています。
フトンDX化のためアプリ開発
最高の顧客体験の提供を目指す
―現在は、「フトンDX」という取り組みを行われているそうですが、これは具体的にどういったものなのでしょうか。
森下 スマートフォンの普及によって、私たちの生活は劇的に変化しています。私自身、会議は全てスマホ上のオンラインで行い、買い物にも行かずほとんどの物をAmazonで揃えています。このように、皆さんの生活習慣もいつの間にか書き換わっているはずです。ただそんな中でも、コインランドリーやクリーニングといった清潔産業全般は、このスマホ化の波に乗れていないと気付いたのです。ここに強い危機感を覚え、もっと顧客体験を劇的に変化させるためのプラットフォームとして、「フトンDX」というアプリ開発に取り組んでいます。「布団洗いによってお客さまに最高の顧客体験を提供する」という概念を提供していきたいですね。
―「フトンDXアプリ」には、どのような機能が搭載される予定ですか。
森下 利用者はもちろん、加盟店オーナーにもメリットを持たせています。まず利用者側でいうと、どの店舗で使っても、使えば使うほどポイントが貯まるようにしています。また誕生日、お友達紹介でポイントが貯まるサービスなども提供予定です。ほかにもGPS機能を用いることで、近隣の店舗がすぐ見つけられ、その店舗がどんなサービスに対応しているか一目で分かるようにする予定です。加盟店オーナーからしてみると、顧客情報の管理を一元化でき、わざわざ新たに広告を出さなくても、アプリ内でキャンペーンを打ち出すことで売上を上げることができる。さらにお客様からのレビューや評価を確認できるようになるなど、売上に大きく貢献するような機能も搭載予定です。
―アプリの導入はいつ頃になりますか。
森下 今年の11月を予定しています。現在はフトンDXのために、当社でもこれまでにない大型の資本を投下し、 命懸けで取り組んでいます。加盟店の皆さんにも協力を仰ぎ、着実に準備が進んでいるところです。フトンDXで利用者、加盟店双方に劇的な変化を感じていただき、フトン巻きのジローのファンになってもらえれば嬉しいですね。