経営分析の手法「PPM」とは?特徴とメリット・デメリットを解説
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鈴木 まゆ子
鈴木 まゆ子(すずき・まゆこ)
税理士・税務ライター。税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。

経営分析にはさまざまな手法があるが、中でもスタンダードなのがPPMである。企業全体で経営の資源配分を検討する際には必要とされる手法だが、どのような特徴があるのだろうか。本稿ではPPMのメリット・デメリットも含めて解説する。

目次

  1. PPMとは何か
    1. 「PPM」は経営戦略フレームワーク
    2. PPM分析の前提
  2. PPMにおける4つの事業分類
    1. 問題児
    2. 花形
    3. 金のなる木
    4. 負け犬
  3. PPM分析の流れ
    1. 1.市場成長率を計算する
    2. 2.市場シェアを計算する
    3. 3.バブルの大きさを決める
  4. PPM分析のメリット2つ
    1. 1.自社の製品や事業を客観視できる
    2. 2.事業判断のミスを防ぎやすい
  5. PPM分析のデメリット3つ
    1. 1.事業間の関係を考慮できない
    2. 2.破壊的なイノベーションを見落とす
    3. 3.指標の取り方で結果が変わる
  6. まとめ

PPMとは何か

まずは、PPMを経営で活用する目的やPPM分析が成立する前提について解説する。

「PPM」は経営戦略フレームワーク

PPMは、1970年にアメリカのボストン・コンサルティング・グループ社(BCG)が提唱した経営分析の手法のひとつ。正式名称は「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(Product Portfolio Management)」である。

プロダクトとは「製品」だ。ポートフォリオは直訳すると「折カバン」「書類入れ」だが、金融業界では、投資家が保有している現預金や株式、債券、不動産などの金融商品の組み合わせのことだ。

つまり、PPMは「自社が世の中に送り出している製品や事業の組み合わせを、わかりやすい図にまとめて分析し、今後の事業の方針を検討する材料にする」手法なのである。

具体的には、「市場シェア(市場占有率)」と「市場成長率」を軸に自社製品や事業を4つのフェーズに分類し、「ヒト・モノ・カネ」といった経営資源の投資配分を決定していく。

PPM分析の前提

PPMの分析は、どのようなビジネスにも活用できるわけではなく、次の2つを前提としている。

1.経験効果や規模の経済が存在していること

生産量が多ければ、価格競争力が強くなって利益を確保しやすくなることがPPMの前提のひとつとなる。経験効果とは「ある製品の累計生産量が増加するにつれ、一定の比率でコストが減少すること」、規模の経済とは「一定の設備の下、製品の生産量が増えれば、その分コストも下がり、売上と収益が増えていくこと」である。

2.製品ライフサイクルがあること

製品ライフサイクルとは、「製品には導入期・成長期・成熟期・衰退期の4つのサイクルがあり、このステップを経ていずれ市場から撤退すること」である。PPMでは製品や事業をこの4つのサイクルに分けて分析を行い、経営戦略の土台とする。

PPMにおける4つの事業分類

PPMでは「市場シェア」「市場成長率」を2つの軸として、製品や事業を以下の4つのフェーズに分ける。

  1. 問題児
  2. 花形
  3. 金のなる木
  4. 負け犬

たいていの製品や事業は「問題児」からスタートし、「花形」「金のなる木」の順に成長する。しかし、徐々に需要が落ち、最後は「負け犬」という形で撤退を余儀なくされる。

ここでは、4つの事業分類の意義や考え方について解説する。

問題児

市場シェアが低く、市場成長率の高い製品や事業を指す。通常は、売り出したばかりの製品や始まったばかりの事業が「問題児」に分類される。

製品でも事業でも開始当初は売上がほとんどなく、「広告宣伝費などの投資コストがかかる」「市場での需要が成熟していない」といった理由で、売上があっても赤字になりやすい。しかし、赤字だから撤退すべきであると決断するのは早計だ。今後の市場での成長が期待できるため、今は赤字でも将来は大きな利益を生む可能性がある。

そのため、「問題児」に分類される事業は積極的な投資が必要とされる。ただし、投資をしても、次の「花形」に至ることなく「負け犬」になってしまい、撤退せざるを得ないときもある。

花形

市場シェアも市場成長率も高い状態の製品や事業を指す。事業が成長している最中であり、今後もさらなる売上や利益の増加が期待できる状態だ。

「花形」フェーズでの課題は、市場シェアを維持・拡大しつつ、次の「金のなる木」に移行させて安定的な収益の柱とすることだ。市場シェアが高い状態であり、尚且つ伸びしろもあるので、設備や販促活動への投資は必要となる。

金のなる木

市場シェアが高い一方で、市場成長率は低い状態の製品や事業を指す。市場シェアが高いので、あまり資金を投じなくても利益を生むが、すでに需要がピークに達しているため、今後の成長は見込めない。競合他社の製品や事業も、市場でひしめきあっている。

「金のなる木」フェーズに分類された製品や事業については、新たな投資を控えて、得られた利益を他の事業に充てる方がよい。加えて、「現在のシェアをいかに守るか」「今後の動向がどうなるか」を検討し、撤退の時期についても視野に入れておいた方がよい。

負け犬

市場シェアも市場成長率も低い状態の製品や事業を指す。収益が縮小し、将来の利益も期待できない。利益をできるだけ確保しつつも、撤退のタイミングを検討する対象となる。状況によっては事業売却を行い、得た資金を「問題児」「花形」に充てることで次の事業成長につなげられる。

PPM分析の流れ

次に、PPM分析の流れについて解説する。

製品や事業を4つのフェーズに分けるにあたり、PPM分析の座標面において、「市場成長率:x軸」「市場シェア:y軸」に置く。

この2つ以外に「売上高」の要素が必要であり、これはバブルの大きさを意味する。

1.市場成長率を計算する

市場成長率は、基本的に「今年の市場規模÷前年の市場規模」で計算する。例えば、2021年の市場規模が120億円、2020年の市場規模が100億円ならば、「120億円÷100億円=1.2(120%)」だ。したがって、市場成長率は120%となる。

なお、「市場規模」は、各業界団体や民間調査会社、財務省、経済産業省などが公開しているデータを参考にする。

2.市場シェアを計算する

市場シェアには、以下の2種類存在する。

・絶対的市場シェア:市場規模に対する自社の売上高
・相対的市場シェア:業界トップ企業の絶対的市場シェアに対する自社の絶対的市場シェアの割合

PPM分析に用いるのは「相対的市場シェア」である。

PPMの市場シェアは、「自社のシェア÷自社以外のトップ企業のシェア」で計算する。もし業界トップ企業のシェアが60%、自社のシェアが20%ならば、「20÷60=0.3」で30%が市場シェアだ。

ただし、自社や他社のシェアが分からないときは「売上高÷市場規模」で計算する。市場規模が20億円、売上高が10億円なら、「10÷20=0.5」で50%のシェアとなる。

3.バブルの大きさを決める

PPM分析におけるバブルの大きさは、xy座標面の目盛りの大きさとなる。

バブルの大きさは売上高によって決まるが、業種や企業によって経済規模が異なるので、1目盛りを1億円とするか10億円とするかは、その都度、売上高で調整するしかない。

PPM分析のメリット2つ

PPM分析で今ある事業を見直すと、より効率よく収益を上げるための選択と集中の判断が可能となり、事業拡大につなげられる。具体的には、PPM分析には次のようなメリットがある。

1.自社の製品や事業を客観視できる

いったん事業を始めると、例え収益性がなくても撤退を決断しにくいのが現実だ。開始して間もない事業だと、なおさら判断は難しい。事業に将来性が本当にないのか、あるいは単に機が熟していないだけなのか、判断する材料が少ないからだ。

PPM分析を使えば、こういった事業の状態を「市場シェア」「市場成長率」といった指標で可視化し、客観的に分析できる。事業の状態を可視化できれば、どの事業に資金を投じ、どの事業から撤退すべきか判断しやすくなる。

2.事業判断のミスを防ぎやすい

事業判断の指標としてよく用いられるのが、財務諸表だ。各事業に関わる損益を基準にすると、「赤字だから撤退しよう」「黒字だから資金を投じよう」と、単純に考えがちだ。

財務諸表による判断は正しいように感じられるが、事業は単純に「赤字」「黒字」で切り分けられるものではない。赤字でも、将来性のある赤字と先行きのない赤字がある。同じ黒字でも、これから伸びる黒字と既に成熟しきった黒字がある。また、始めたばかりの事業でも将来性があるとは限らない。

財務諸表の数字だけで判断してしまうと、本来まだ伸びる事業を切り捨ててしまったり、あるいは既に安定化して投資のいらない事業に資金を投入してしまう可能性もある。財務諸表の数字も経営判断上は大事な指標だが、PPM分析で別の視点から事業を見直すことで、事業の判断ミスを防ぎやすくなる。

PPM分析のデメリット3つ

PPM分析は、メリットだけではなくデメリットもある。「規模の経済」「製品のライフサイクル」が前提ということもあり、次のような3つの限界や欠点もある。

1.事業間の関係を考慮できない

PPM分析の限界のひとつは、事業同士の影響を考慮していないことだ。

製品や事業を単体として見るだけで、相互に与えている影響を鑑みない。そのため、「負け犬」に区分された事業をバッサリ切り捨てると、「花形」「金のなる木」が衰退してしまう恐れがある。現実には、一見利益や成長性が見込めない事業でも、間接的に企業全体の収益に貢献していることもあるからだ。

2.破壊的なイノベーションを見落とす

PPM分析は、「規模の経済・経験効果」「製品ライフサイクル」を前提としている。見方を変えれば、「既存のビジネスや製品だけしか分析できず、将来の戦略を立てられない」ため、破壊的なイノベーションの発掘は見込めない。

PPM分析では、「市場シェアが低い=高い利益は生み出せない」と考えてしまう。しかし実際には、一部のベンチャー企業が、革新的な技術や商品であっという間に高収益のビジネスモデルを構築し、高いシェアを占有してしまうことはよくある。

PPM分析のメリットで、「判断ミスを防げる」と説明したが、数字以外の複雑な要素を含めた予測まではできないのだ。

3.指標の取り方で結果が変わる

市場シェアも市場成長率も、絶対的な数字を使うのではなく、さまざまなデータからどの数字を採用するかで分析結果は変わってくる。また、「トップ企業はどこか」「市場はどこか」の考え方ひとつで、採用する数字は異なる。1つの製品や事業が複数の分野にまたがる場合は、競合他社や市場を慎重に選ばなくてはならない。

まとめ

PPM分析は、財務諸表などの経営の数字だけでは分からない製品や事業の市場での立ち位置を明らかにしてくれる。ただ、客観視や経営判断として使えるのは、これまでの経験値に基づくものがほとんどだ。そのため、PPM分析は万能の経営分析ツールとは言い難い。

PPM分析を実際に使う際は、「財務諸表での経営判断を補う」「製品や事業の立ち位置を視覚化して判断しやすくする」程度に割り切った方がよいだろう。

文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)

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