現代アートの投資熱がますます広がっていますが、最近はウイスキーも投資対象として着目されています。

ウイスキー評論家・土屋守氏によると、「ウイスキーがオークションに出まわり、注目されるようになるのは2000年以降」。「ミレニアムになり、スコッチの人気が回復し出したころ、ロンドンの老舗オークションハウス・ボナムスや、スコットランドに拠点を置くマクティアーズが、ウイスキーに特化したオークション」を始めたのだといいます。(『ビジネス教養としてのウイスキー なぜ今、高級ウイスキーが2億円で売れるのか』より)

2018年1月には、サザビーズ香港でサントリー「山崎50年」が約3,250万円で、2020年8月には、ボナムズ香港でサントリー「山崎55年」が約8,515万円で落札されています。

サントリーシングルモルトウイスキー 山崎50年
(画像=サントリーシングルモルトウイスキー 山崎50年)

画像引用:Sotheby’s

また昔からオークションで人気があるワインも、2018年10月にサザビーズニューヨークで、1945年の「ロマネ・コンティ」が約6,300万円という、高値で落札されました。

オークションハウスのサザビーズやボナムスには、美術品やジュエリー、時計だけでなくワイン・スピリッツ(蒸留酒)の部門があります。こうしたオークションハウスにはそれぞれの部門ごとにスペシャリストがいて、審美眼を必要とするアートはもちろん、ワインやスピリッツにも専門家が在籍しています。

お酒とアートは、資産としてどのような違いがあるのでしょうか。指標のひとつである伸び率について、今人気のウイスキーとアート作品とで比較してみました。

「マッカラン60年」と現代アートの価格の伸び率を比較

「マッカラン60年」と現代アートの価格の伸び率を比較
(画像=「マッカラン60年」と現代アートの価格の伸び率を比較)

画像引用:https://unsplash.com/

今回は、オークションで高額落札される「マッカラン60年」と、販売された年が比較的に近い現代アート作品で比較してみましょう。

『ビジネス教養としてのウイスキー』によれば「マッカラン60年」とは、「1926年に蒸留されたのち60年間シェリー樽で熟成され、1986年に瓶詰め・発売」されたボトルのこと。蒸留後に熟成させるウイスキーは熟成中に量が減り、アルコール度数も下がるため、ほかのウイスキーとブレンドして度数を40%以上にしてから瓶詰めすることが多い中で、「マッカラン60年」は「シングルカスク(単一の樽から瓶詰めされたウイスキー)」で、かつ「60年物とは思えないボディ」と「深遠な味わい」のある、非常にレアなボトル。そのため世界最高レベルの高値がつくのだといいます。

お酒とアートの比較
(画像=お酒とアートの比較)

まず、1993年にリリースされた「マッカラン60年」。こちらはイギリスで開催されたボナムスで2018年10月に、約1億2300万円で落札されました。発売当初のボトル1本の価格が約100万円のため、約123倍の値がつきました。

現代アートからは、ダミアン・ハーストの作品を取り上げてみましょう。ガラスケースにイタチザメをホルムアルデヒドで保存した1991年制作のインスタレーション《The Physical Impossibility of Death in the Mind of Someone Living(生者の心における死の物理的な不可能性)》は当時、膨大なコレクションを所有するイギリス人コレクターのチャールズ・サーチが制作費用を出資しています。このときにかかった費用は、5万ポンド(約700万)でした。

サーチは2004年に、同作を資産家のスティーブンA.コーエンに売却。価格は推定800万ドル(約7億5733万円 / 2004年年間平均レート 1ドル=108.19円で計算)と言われています。もともとの制作費用は高額でありながらが、約100倍の価格がつきました。

画像引用:https://www.independent.co.uk/

お金とアートの比較
(画像=お金とアートの比較)

次に、1986年リリースの「マッカラン60年」。こちらはイギリスのサザビーズで2019年10月に、約193万ドル(2.1億円 / 2019年年間平均レート 1ドル=109.01円で計算)で落札されています。発売当初の価格は1本約6000ドル(100万円 / 1986年年間平均レート 1ドル=168.52円で計算)。約321倍の価格がつきました。

現代アートは、ジェフ・クーンズの代表的なシリーズであるバルーンアートをモチーフにした作品と比較してみましょう。2019年5月にクリスティーズニューヨークで、1986年に制作されたクーンズの《Rabbit》が、9107万5000ドル(約100億円)で落札されました。初めに販売された価格は4万ドル。2000倍以上の価格で落札された本作は、存命アーティストにおける史上最高額を更新しました。

Jeff Koons《Rabbit》(1986) CHRISTIE’S
(画像=Jeff Koons《Rabbit》(1986) CHRISTIE’S)

画像引用:https://www.forbes.com/

投資目的だけで購入するべきでない理由

アートとお酒の投資には、類似点がいくつかあります。たとえば、オークションで高額で取引きされるようなワインやウイスキーの銘柄であれば、アートのように偽物が出回っていることがあるため、注意が必要です。

また、環境に影響を受けやすいデリケートなワインに対して、比較的ウイスキーは品質管理がしやすい、といった違いは、絵画や彫刻、版画、デジタルアートなど、素材や作品の種類によって保管の手間が異なるアートと似ています。

大きな違いを挙げるなら、価格が上がるまでは鑑賞して楽しめるアートに対して、ワインやウイスキーは飲んでしまえばなくなってしまう点でしょうか。とはいえ、投資目的だけで対象を選ぶと、その分野の旨味は味わいきれません。ときにはビンテージワインや貴重なウイスキーを楽しみながら、資産形成にも目を配る方が良いでしょう。

2019年6月にロンドンのクリスティーズで、難破船から見つかった17世紀のワインが出品されました。クリスティーズは1本約350万円から約400万円の予想落札価格を付けましたが、歴史的価値は高いものの、このワインの飲用は難しいのだとか。

画像引用:Christie’s
(画像=画像引用:Christie’s)

たとえば、アートとお酒のどちらにも関心があるなら、ラベルに着目してもいいかもしれません。前述した1986年リリースの「マッカラン60年」のラベルは、イギリスを代表するポップ・アーティストのピーター・ブレイクがデザインしています。アーティストに特注したラベルのプレミア性は、アート愛好家とウイスキー収集家の両者から注目されています。

現代アートもお酒も、専門的な知識が必要な分野であることから、自宅でじっくり楽しみながら、嗜好する延長で知見を深めていき、気になる銘柄や作品を投資対象として検討していく方が、文化的に豊かな時間が過ごせる上に、自身の教養を深めることができます。中長期的な視点で捉えるなら、総合的にもリターンの大きい投資になると言えるでしょう。

The Macallan 1967
(画像=The Macallan 1967)

画像引用:https://www.sothebys.com/

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参考:
『ビジネス教養としてのウイスキー なぜ今、高級ウイスキーが2億円で売れるのか』土屋守(2020、KADOKAWA)
『現代アートビジネス』小山登美夫(2008、アスキー・メディアワークス)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000019756.html

https://www.bonhams.com/auctions/26252/lot/354/

https://www.newsweek.com/french-wine-sold-record-breaking-558000-sothebys-auction-new-york-1168821

https://toyokeizai.net/articles/-/421847

https://wired.jp/2019/05/29/how-jeff-koonss-rabbit-became-big-game/

https://en.wikipedia.org/wiki/Rabbit_(Koons)

文:石水典子