実はイマイチわかってない?「資本主義」って一体何?
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資本主義は限界に近づいているという論調を目にする機会がある。果たして資本主義は終焉を迎えるのだろうか。この記事では、資本主義の概要をはじめ資本主義の歴史や限界論を解説していく。資本主義の行く末が気になる方はぜひ参考にしてほしい。

目次

  1. 資本主義とは何か
    1. 資本主義の構造
    2. 資本主義の歴史
  2. 資本主義の限界論3つ
    1. 限界論1.富の格差の拡大
    2. 限界論2.未開拓市場(フロンティア)の枯渇
    3. 限界論3.環境資源の持続可能性
  3. 資本主義は今後どうなる?

資本主義とは何か

資本主義という言葉は頻繁に使われるが、定義を深く理解していない人も多いだろう。さまざまな意見があることを承知のうえで、資本主義を一言であらわすと自由な経済体制であるといえる。

資本主義社会は自由に経済活動を行える社会だ。モノの価格やサービスの内容は市場の競争によって変動し、成功してたくさんの富を手にする人もいれば、そうでない人もいる。

自由競争によって価格はより安く、製品やサービスの質はより高くなることが多いが、需要と供給のバランスによって価格が上がることもある。

資本主義は終焉を迎える?3つの視点から考える限界論
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資本主義の構造

資本を持つ資本家が、労働者から賃金の対価として労働力を買い、賃金の価値を上回る商品やサービスを生産して利益を得る。経営者は資本家という立場だと考えてよいだろう。

原則として資本主義では、資本家側に回ると大きな富を築けるとされている。起業に制限はなく、誰でも資本家として事業を開始でき、才覚次第では1代で巨万の富を稼ぐことも可能だろう。

反対に自由競争でうまく打ち勝てず、失業してしまったり低収入しか得られなかったりするリスクもある。

資本主義の歴史

資本主義は封建主義の後に現れた体制といわれている。封建主義とは、領主が臣下に封土(領土)を与える代わりに成立する主従関係および、その統治システムだ。

産業革命および、アメリカ独立革命やフランス革命などの市民革命によって資本主義が確立されていった。

日本において、封建主義から資本主義に移行したのは、明治維新以後とされている。明治維新で身分制度(士農工商制度)が廃止され、誰でも好きな職業に就けるようになった

資本主義の限界論3つ

近年、資本主義は限界に近づいているという論調を目にする機会が多くなったと感じている人もいるのではないだろうか。ここからは、3つの視点から資本主義の限界論を解説していこう。

限界論1.富の格差の拡大

資本主義の限界論として、最も多く挙げられているのが富の格差の拡大だろう。

自由競争のもとで、富の格差が生じることは資本主義の大原則とはいえ、あまりにも格差が拡大してしまい、資本主義の持続可能性が失われているという論調だ。格差の拡大を示す指標をご紹介する。

【ジニ係数】

富の格差を確認する指標にジニ係数がある。ジニ係数とは、所得などの分布の均等度合を示す指標だ。イタリアの統計学者コラド・ジニにより考案された。

ジニ係数は0から1の値をとり、係数が0に近いほど所得格差が小さく、1に近いほど所得格差が大きいことを示す。一般的に0.5を超えると所得格差が高い状態となり、改善が必要といわれている。

厚生労働省が発表した「所得再分配によるジニ係数の改善の推移」によると、当初所得(再分配前)のジニ係数は1990年代以降に上昇傾向が続き、2017年は約0.56となっている。

しかし、再分配所得(再分配後)のジニ係数は1990年代にやや高まった後、2000年代以降は概ね横ばいとなっており、2017年は約0.37だ。

日本の所得再分配政策が、富の格差拡大の是正に一定の効果を発揮していると伺える。

2020年7月に独立行政法人経済産業研究所(RIETI)が発表した「日本の所得格差の動向と政策対応のあり方について」というレポートによると、2012年前後のデータ比較ではあるが、日本のジニ係数はアメリカやイギリスより低く、国際的に比較しても相当に高いわけではない。

しかし、1984年から2012年の推移を見ると、日本を含めた欧米先進国はジニ計数の上昇傾向がみられる

参考:
所得再分配によるジニ係数の改善の推移(厚生労働省)
日本の所得格差の動向と政策対応のあり方について(RIETI)

【r>g】

フランスの経済学者トマ・ピケティが主張する「r>g」も富の格差の拡大を示す。2014年の年末に和訳され、日本でも大ヒットした『21世紀の資本』のなかに書かれていた主張だ。「r」は資本収益率、「g」は経済成長率を示す。

『21世紀の資本』では、「資本主義の富の不均衡は放置しておいても解決できずに格差は広がる。格差の解消のために、なんらかの干渉を必要とする」と主張している。その根拠となったのが「r>g」という不等式だ。

同書では、18世紀まで遡ってデータを分析した結果、「r」は常に「g」を上回っていると主張する。所得再分配政策を実施しても、資本から得られる富は労働から得られる富よりも成長が早く、富の格差は時間が経つほど拡大していくという。

特に「r>g」は景気拡大局面(株高局面)において顕著だ。フォーブスが2021年4月22日に発表した2021年版「日本長者番付」によると、日本の富豪上位50人の資産は合計で2,490億ドル(約27兆円)となり、昨年の1,680億ドルから48%増加した。

新型コロナウイルスによって倒産や解雇が増えていると報道される中、1年で資産を約1.5倍にした計算だ。

リスクを取って資本家側に回り、努力と才覚をもって勝ち続けた結果ともいえる。しかし、あまりにも拡大が広がり続けるシステムは持続可能性が低いという主張にも、一定の説得力があるだろう。

参考:
日本長者番付(フォーブスジャパン)
日本長者番付、孫正義が首位奪還 上位50人の資産総額は48%増加(フォーブスジャパン)

限界論2.未開拓市場(フロンティア)の枯渇

資本主義の限界論として、未開拓市場(フロンティア)が枯渇しつつあることも挙げられる。

資本主義のもとで資本家が利益を得るには、原則として「労働力を安く買う」か「付加価値の高い製品やサービスを高く売る」の二択となる。

後者でうまくいくビジネスもあるが、全ての製品やサービスで応用できるわけではない。どんなに美味しい飲み物であっても、ペットボトル1本を1万円で買う人はほとんどいないだろう。

「資本主義が安定的に成立するためには安い労働力が不可欠」と仮定すると、未開拓の市場(安い労働力を提供する場所)がなくなりつつあるのは大きな課題だ。

自国の労働者を雇って資本を拡大し、自国が豊かになると労働者の賃金も上がる。賃金が上がると生産コストが上昇し、自由競争の資本主義で勝ち残れなくなる。そのため、安い労働力を求めて他国に進出しなければならない。

しばらくしたら、その国も豊かになり、その国の労働者の賃金も上がる。生産コストが上昇するので、さらに安い労働力を求めて違う国に進出する。このようなサイクルを繰り返してきたのが、これまでの資本主義経済だった。

歴史を遡っても、大航海時代にヨーロッパ列強が安い労働力を求めて植民地獲得に乗り出し、世界中で争いが繰り広げられた。資本家が安い労働力を求めて相次いで中国に工場を設立したのは記憶に新しい。足元では他のアジア地域で同様の動きが広がっている。

アフリカは最後のフロンティアと呼ばれており、アフリカを開発し終わるまでは、まだ成長の余地があるかもしれないが、その後の未開拓市場は見えてこない。

総務省統計局の「世界の統計2021」によると、アフリカにおける人口の年平均増加率は、2015年頃をピークとして下落に転じている。右肩上がりの資本主義経済の成長が止まる懸念はあるだろう。

参考:世界の統計2021(総務省統計局)

限界論3.環境資源の持続可能性

資本主義の限界論として、環境資源の持続可能性が危ぶまれていることも挙げられる。

当然ながら環境資源は無限ではない。これまでの大量生産・大量消費型の資本主義はサステナブルではないという指摘だ。

一方で2020年10月26日の第203回臨時国会の所信表明演説において、菅義偉内閣総理大臣は「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言した。

引用:2050年カーボンニュートラルの実現に向けて(環境省)

脱炭素、再生エネルギー活用は世界的なトレンドであり、ますますの促進が期待される。

資本主義は今後どうなる?

それでは今後の資本主義はどうなるのだろうか。

現状の資本主義には問題点や課題もある一方で、アメリカや日本、ヨーロッパ主要国など、中国を除くGDPランキング上位国が資本主義を採用しており、急に資本主義がなくなることは考えづらい。

これまで構築してきた経済システムと金融システムを一新するには多大な労力がかかる。

しかし、社会主義市場経済を掲げる中国の台頭も相まって、中長期的に新しい経済システムに移行する可能性はあるだろう。

資本主義の始まりは諸説あるが、仮に1789年のフランス革命を起点にしたとしても、資本主義に移行してから250年も経過していない。

資本主義以前の統治システムであった封建主義が鎌倉時代から明治時代にかけて続いたことを考えると、資本主義が万能の統治システムだとは断言できないだろう。

そのため、資本主義の限界はいつか訪れるかもしれない。しかし、今すぐ体制転換することは考えづらく、日本で生きる以上は資本主義で生活していくことになる。

時代の動向を見据えつつも、資本主義にアジャストする生き方をしたほうが良いだろう。

文・菅野陽平(ファイナンシャルプランナー)

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