7月22日22時22分にVALUARTで開催されたオンラインオークションに、バンクシーの作品《SPIKE》のNFTバージョンが出品され、執筆時(8月2日)時点で、65ETH(約1,817万円)で取引されている。

この作品は、元々バンクシーが2005年にパレスチナとイスラエルを隔てる分離壁に「SPIKE」と描いた部分を削り取ったものだ。「宝探し」のシリーズとして発表され、岩の下に秘密のメッセージを書き込み、そのメッセージをバンクシーにメールで送った最初に人に、この作品の所有権が与えられた。この作品はその後アートコレクターの間で数多に取引され、最終的にValuart社の共同出資者であるオペラ歌手のヴィットリオ・グリゴーロ氏が所持していた。今回はこの《SPIKE》を3DスキャンによってCGで再現したデータと、彼自身の歌と組み合わせたものがNFT作品としてオークションに出品された。オークション販売益の50%は慈善団体に寄付される。

NFT界隈では以前にもバンクシーの作品が話題に上がった。2021年3月にはバンクシーのプリント作品《Morons》が焼却され、その様子を収めた動画が「Burnt Banksy」というツイッターアカウントで公開され話題になった。焼却される前のオリジナル作品をNFT化した《Morons》はその後オークションに出品され、元値が32,500ポンド(約487万円)のところ、10倍近い228.69ETH(約4,144万円)で落札された。これはバンクシーのシュレッダー事件に着想を得たという。

作者に無許可で作品をNFT化することは可能なのか
今回《SPIKE》の作品をValuatrt社とグリゴーロ氏がNFT化して販売したことに関して、事前にバンクシーの許可を取ってなかったことが判明し、物議を醸している。

まず押さえておきたいのは、作品の著作権とは、作品の所有者でなく制作者に寄与されるという点だ。NFTはデジタル上のモノの所有権を証明し、売買などができるシステムである。デジタル上の所有権を生み出せるのは、合法的にデータを制作した者(作者)及びその権利を譲渡された者であり、今回はこのデータを制作する過程で権利問題が発生した。3Dスキャンという既存の現物と限りなく同一なデータを制作し、販売することは本来ならば著作権を持っているバンクシー本人か、彼に許可を得た人物以外がするべきことだ。現物の所有者であるグリゴーロ氏及びValuart社が作品をNFTとして制作・販売する権利は持っておらず、違法になりうる。

ちなみに以前、アンディ・ウォーホルが生前残したデジタル画像を復元したデータをNFTとして販売された際、そのオリジナル性が物議を醸していたが、これはウォーホル関係の著作権ビジネスや視覚芸術の発展を支援する「アンディ・ウォーホル視覚芸術財団」によって制作されたデータであり、ウォーホルの遺志のもと、在籍する多くのウォーホルと制作を共にしていたメンバーによってNFT化されたという背景がある。

これに対しバンクシー側は
バンクシーや、その公式認証機関であるペスト・コントロールは、バンクシーの作品を第三者によって商業利用されることを許可していない。つまり、バンクシーの作品をモチーフにした商品を発売したり、バンクシーのクレジットを勝手に使うことはできないということだ。バンクシーのホームウェアブランド「Gross Domestic Product」では、バンクシーの画像は個人の娯楽の範囲内で非営利に使用する分には奨励されるが、不正な商業利用に対しては法的措置をとる可能性があることを明言している。

今回の《SPIKE》のNFT化をバンクシーが許可していない場合、上記の規約に違反する可能性があるため、バンクシーはValuart社及びヴィットリオ・グリゴーロ氏に対して訴訟を起こす可能性がある。

NFTがアート業界に存在感を現し始めて数ヶ月。市場が短期間で急成長したため、作品に関する権利問題(特にバンクシーは彼の匿名性や違法な制作スタイルからややこしい点である)や、今回のような不正利用に対する対策が十分に為されていないのが現状だろう。デジタル上のアート作品という新しい価値観において、今後議論を要する問題だ。

現時点では、未だこの一連に対するバンクシーの主張は上がっていないが、彼の今後の動向に注目が集まっている。

参考
https://www.domusweb.it/en/news/2021/07/19/nft-banksys-artwork-up-for-auction-without-his-knowledge.html
https://hypebeast.com/jp/2021/7/banksy-valuart-spike-nft-auction