「脱炭素」の動きが急速に世界中で広がっている中、環境産業がさらに注目されていくのは確実であろう。そこで今回は、環境省が発表している環境ビジネスに関する資料を参考にしつつ、環境産業の市場規模に着目し、日本国内における現在と将来の市場規模について解説していく。
目次
環境産業の定義とは?
まず、「環境産業」という言葉の定義を確認しておこう。2020年7月に環境省が発表した「環境産業の市場規模・雇用規模等の推計結果の概要について(2018年版)」によると、環境産業の定義は「供給する製品・サービスが、環境保護及び資源管理に、直接的または間接的に寄与し、持続可能な社会の実現に貢献する産業」とされている。
環境産業は、以下の4つの分野に分類されている。
(1)環境汚染防止分野:大気汚染防止や下水・排水処理、土壌・水質浄化など
(2)自然環境保全分野:緑化や水辺の再生、水資源の利用、環境保護の意識向上など
(3)廃棄物処理・資源有効利用分野:リサイクル強化や資源・機器の有効利用など
(4)地球温暖化対策分野:クリーンエネルギーの利用や省エネルギー化、排出権取引など
環境産業の市場規模
ここからは、環境省の「環境産業の市場規模・雇用規模等の推計結果の概要について(2018年版)」などの資料を参考に、環境産業の市場規模について解説する。
環境産業の国内市場規模:2018年の推計結果
国内の環境産業の市場規模の推計値は、2018年時点で105兆3,203億円と過去最大となった。2000年が約58兆円だったので、20年弱で2倍弱になった計算だ。
2000年から2008年までは一貫して伸び続けたが、2009年に大きく減少してしまっており、これはリーマンショックの影響が大きかったと考えらえる。2009年以降は、前年比割れする年もあるが、トレンドとしては上昇が続いている。
全産業との比較
環境産業の市場規模が全産業に占める割合は、2000年の6.1%から2018年には10.1%まで増加しており、環境産業が日本の経済成長に寄与する割合は大きくなっていることが伺える。一方で、他の産業が伸びれば必然的に割合は低下するため、ひとえに環境産業が停滞しているとは言えないものの、2013年以降は10%前後での推移が続いている。
雇用規模
国内の環境産業における雇用規模は、2018年に全体で約260.9万人にまで増加しており統計調査以来過去最大となった。2000年が約180万人だったので、20年弱で約1.45倍まで拡大した。
2018年時点での環境産業4分野の雇用者数は、環境汚染防止分野が約13万人、地球温暖化対策分野が約70万人、廃棄物処理・資源有効活用分野が約140万人、自然環境保全分野が約40万人になっている。2000年から比べて最も雇用者数が増えたのは地球温暖化対策分野で、2000年時点は約10万人だったが20年弱で約7倍にまで増加している。
環境産業4分野の2018年時点での市場規模
ここからは、環境産業4分野の2018年時点での市場規模を見ていこう。
1.環境汚染防止分野は約12兆円
環境汚染防止分野は、2018年時点で約12兆円の市場規模だ。全体の市場規模は、2007・2008年の排出量規制の導入に先駆けて、2005年から「サルファー(硫黄)フリーのガソリンと軽油」が供給され始めたことにより、「化学物質汚染防止」分野の市場が急拡大した。
現在では、「化学物質汚染防止」分野だけで7兆円以上の市場になっている。ただし、環境汚染防止分野全体で見ると、14兆円を超えた2014年から市場全体はやや縮小している。
2.地球温暖化対策分野は約37兆円
地球温暖化対策分野は、2018年時点で約37兆円の市場規模だ。多少の増減はあるが、2000年の約4兆円から一貫した拡大トレンドとなっている。
2004年以降の「低燃費・低排出認定車」「ハイブリッド自動車」などの成長による「自動車の低燃費化」分野が、特に急拡大している。また、2012年以降は、固定価格買取制度による太陽光発電システムなどの再生可能エネルギーに関する市場の急成長に伴い、「クリーンエネルギー利用」分野が大きく増加した。
3.廃棄物処理・資源有効活用分野は約48兆円
地球温暖化対策分野は、2018年時点で約48兆円の市場規模だ。環境産業の4つの分類の中で最も市場規模が大きく、2000年から2008年まで増加を続けたが、2009年のリーマンショックによる景気減速の影響を受けて落ち込んだ。
それ以降は増減を繰り返し、トップラインを更新できていない。約48兆円のうち、「資源、機器の有効活用」分野が約41兆円と大部分を占める。
4.自然環境保全分野は約8兆円
自然環境保全分野は、2018年時点で約8兆円の市場規模だ。2000年からは1兆円ほど市場が拡大している。小分類には「環境保護意識向上」「持続可能な農林水産業」「水資源利用」「緑化・水辺再生」があるが、20年間でそこまで大きな変化は見受けられない。
適応ビジネスの市場規模
続いて適応ビジネスの市場規模を見ていこう。「適応ビジネス」とは、「気候変動の影響による被害の回避・軽減に寄与し、また新しい気象条件を利用するビジネス」を指す。
前述の環境省資料での調査対象は、経済産業省が「企業のための温暖化適応ビジネス入門」で選定した民間企業の製品やサービスが、適応策として貢献できる7分野に限定されている。
7事業分野のうち、「①食料安定供給・生産基盤強化」「②気候変動リスク関連金融」「③保険・衛生」の3分野における適応ビジネス市場規模は、2015年を除き、2014年から2018年で6,100億円から6,700億円ほどの間で推移している。2015年は、約9,400億円となっているが、これは火災保険の寄与率が高いためである。
「ZEB/ZEH」の市場規模
続いて、「ZEB(net Zero Energy Building)/ZEH(net Zero Energy House)」の市場規模を見ていこう。「ZEB/ZEH」とは、省エネ対策や再生可能エネルギーの活用などにより、建築物の年間での一次エネルギー消費量を正味でゼロ又は概ねゼロに抑えている建築物のことだ。
ZEBは2019年度に約2,400億円、ZEHは2018年度で約1兆6,000億円、ZEH-Mは227億円の市場規模となっている。ZEBはBELS(建築物エネルギー性能表示制度)における認証が開始された2016年度から2019年度(2月まで)、ZEHは「ZEHビルダー/プランナー実績報告」が公表されている2016年度から2018年度、ZEH-Mは「ZEHディベロッパー実績報告」が公表されている2018年度を対象期間としている。
環境産業の2050年の市場規模予測
ここまで、環境産業の現在までの市場規模を紹介してきた。環境配慮の重要性が高まっている昨今、より重要なのは今後の市場規模がどのように推移していくかであろう。まずは、国内全体の市場規模の推計結果を見てみよう。
国内の市場規模は、2050年にかけて上昇傾向を続け、約133.5兆円まで成長すると推計されている。2018年時点で105兆3,203億円だったので、約30年で30兆円ほど増加するという試算である。
なお、本推計は既存産業のみを推計対象としているため、新たな産業分野の創出は未考慮である。そのため、新しい環境産業分野が創出されれば、本推計を上回る市場成長を遂げる可能性がある。
ここからは、環境の4分野の将来の市場規模を個別に確認していこう。
環境汚染防止分野は約9.4兆円に縮小
環境汚染防止分野は、2018年時点で約12兆円の市場規模であるが、2025年頃まで減少し、その後2050年にかけてほぼ横ばい、あるいは微減傾向を続ける予想だ。2050年には9.4兆円となると推計されている。2050年の構成比率は「化学物質汚染防止」が約50%となっている。
地球温暖化対策分野は約62.6兆円と大幅増加
地球温暖化対策分野は、2018年時点で約37兆円の市場規模であり、今後も増加を続け、2050年の市場規模は約62.6兆円と推計されており、約30年で約1.7倍になると予測される。2050年の地球温暖化対策分野の構成比率は、「自動車の低燃費化」が40%と最も多く、「省エネルギー建築」がその後に続いている。
廃棄物処理・資源有効活用分野は約53.3兆円と微増
廃棄物処理・資源有効利用分野は、2018年時点で約48兆円の市場規模だが、その後も緩やかに伸び続け、2050年の市場規模は約53.3兆円と推計されている。2050年の同分野の構成比率は、「リフォーム、リペア」分野が39.2%と最も高く、「リサイクル素材」「資源有効利用製品」と続いている。
自然環境保全分野は約8.1兆円と横ばい
自然環境保全分野は、2018年時点で約8兆円の市場規模であるが、2030年代前半まで拡大を続け、2050年にかけて市場が縮小していく推計になっている。2050年の市場規模は約8.1兆円であり、2018年時点とほとんど変わらない。2050の構成比率は、「持続可能な農林水産業」が59.9%と最も多い。
環境産業で最も伸びるのは「地球温暖化対策分野」
ここまで、環境省が発表している資料を参考にしながら、日本国内における2018年時点と2050年の環境産業の市場規模について解説してきた。
環境産業の4つの大分類の中で最も市場規模が拡大するのは「地球温暖化対策分野」であり、2018年時点で2000年に比べて9倍以上になっており、さらに、2050年にかけて約1.7倍になる推計だ。
その他の環境産業も、概ね市場規模は拡大および維持していくと見積もられている。市場が拡大していくということは競合が増えることも予想されるが、環境産業は基本的には有望なビジネス分野と言えるだろう。
文・菅野陽平(ファイナンシャル・プランナー)