近年若いコレクターが増加している
近年、アートの世界では、若く、野心的で教養のある新世代のアートコレクターが存在感を表している。特に若いIT起業家などに多く、起業家コミュニティの中にはアートの同好会なども存在するという。
UBSとアートバーゼルによる、2020年のグローバルアートマーケットレポートによると、調査対象の富裕層の中で、ミレニアル世代(38歳未満と定義)は、過去2年間で55歳以上のコレクターよりも6倍多くアートに費やしていたとの調査結果が明らかになった。元ZOZO代表の前澤氏をはじめ、日本の著名な起業家がアートをコレクションしているのを見てきた若い世代にとって、もはや資産としてアートを持つことが当たり前になりつつある。ミレニアル世代は、これまでのコレクターと比較しても資産としてのアートに肯定的であるとのことだ。
アートをコレクションする理由とは?
なぜ若い世代が続々とアート市場に新規参入しているのだろうか。
その理由として、近年ではアートに興味のない人でも、ファッションブランドとのコラボレーションや、仲間のSNSなどから自然とアートの世界に引き込まれる可能性が高いことが挙げられる。アートを生活の一部として取り入れることで、デザイナー家具や腕時計と同じように自分のライフスタイルに投資をし、金銭利益よりも美的利益を追求する人も多いのだとか。
アートをコレクションすることのもう1つの利点は、アーティストとの関係を築いたり、美術館のグループに参加したり、財団を支援したりできる社会的側面だ。いわゆる「人脈作り」である。これは、株式や不動産などの他の資産よりも魅力的な要素の1つとなりうる。アートフェアや展覧会のオープニングに行ったり、アーティストと一緒にスタジオに訪れることで、作品のストーリーや歴史を理解でき、他の意識の高いコレクターたちとアートについての意見を交わすことで有益なつながりを持つこともできる。
アートをコレクションすることは、目に見えて生活が豊かになることが実感できたり、アートを購入できる経済水準の人たちと交流することができたりするというメリットがある。
アートを購入する敷居が低くなっている
アートの世界がデジタル化したことにより、若い世代が参画しやすくなっている。例えば、オークションハウスは主要な販売をライブストリーミングしているため、アートオークションはますますオンラインに移行している。
さらに、オークションハウスは若い層を獲得するために、ストリートウェアに焦点を当てたデジタルプラットフォームや、ファッションブランド、インフルエンサーなど様々なコラボレーションを行なっている。
特にサザビーズがコラボレーションした台湾出身の歌手であるジェイ・チョウは、Instagramで640万人以上のフォロワーを持つ主要なインフルエンサーであり、コンテンポラリーアートのアジアセールをキュレーションした。2021年6月18日のオークションでは、ジャン=ミシェル・バスキア、ゲルハルト・リヒター、奈良美智などの著名なアーティストのほか、アメリカの画家ロイ・ホロウェルや日本のアーティスト、井田幸昌などの需要の高い若い才能が登場。売上高は約120億3200万円で、セールに出品された46点の作品は全品落札されるという快挙を成し遂げた。この販売におけるイブニングセールの購入者の25%以上が40歳以下だたっという。
サザビーズによると、この販売のマーケティングにはソーシャルメディアが大きな役割を果たし、ジェイチョウのアカウントでもライブ配信では約1,800万回の視聴を集めたという。
また、多くの美術館やギャラリーもソーシャルメディアの力を利用し、アートの世界を身近に感じられるような活動を行なっている。ミレニアル世代のバイヤーの多くがアートコレクションにInstagramを活用しており、それに準じてアーティストもソーシャルメディアを積極的に活用するようになった。ソーシャルメディアを通して気軽にアーティストにコンタクトを取ることもできる。さらに、世界中のオンラインサイトで、10万円以下からでもアートを購入することができる点もアート購入が身近になったきっかけだろう。
さらにアート業界の中で大きな存在感を表しているNFTもアート投資の敷居を下げている一つの要因だ。デジタル上で鑑賞するNFTは、アートを保管するスペースのない人たちでも気軽に購入することができる。投資目的の購入なら売却が簡単なのもメリットの一つだろう。
デジタルに精通した若い世代にとって、アート業界のこれらの変化はとても魅力的であるに違いない。今やギャラリーやオークション会場に足を踏み入れることなく、クリックひとつでアートを購入できる。もはやアートは昔ほど特別な買い物ではないのかもしれない。
アートは長期的な資産だ。今世界で最も評価されているアーティストたちも、最初はプライマリーでその作品を純粋に好きだという人に購入され、そういう人が増えていくことでセカンダリーでの評価が上がっていくことにつながってきた。自分が純粋に好きだと思った作品が、時を経てセカンダリーで評価が上がってきたときは自分の目利きをさぞ誇れるだろう。アートとアーティストへのリスペクトを忘れずに、ぜひ気軽に自分に合ったアートコレクションを楽しんでほしい。
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参考
https://www.kateigaho.com/migaku/104903/
文:ANDART編集部