現実社会では会社の売却が行われており、将来の売却を視野に入れながら会社を興す経営者もいる。自分の会社を売却すると儲かるのか、相場が気になっている経営者もいるだろう。今回は会社の売却方法をはじめ、相場を知る手がかりを取り上げる。
目次
会社を売却する2つの方法
会社の主な売却方法として株式譲渡と事業譲渡を紹介する。
売却方法1.株式譲渡
株式譲渡とは、株式の売却をさす。株式会社では、発行されている株式の過半数を所有すれば会社全体を支配できる。そのため、発行されている株式を売却すれば、会社の支配権を手放すことになり、結果として会社そのものを売却したことになる。
株式の売却は非常にシンプルだ。株式を対価として、買手と合意した金額の受領で成立する。株式譲渡は、会社売却の方法として極めて一般的だといえよう。
売却方法2.事業譲渡
事業譲渡は、事業の売却を意味する。株式譲渡が会社全体の譲渡とすると、事業譲渡は会社の部分的な譲渡だといえる。
事業譲渡が行われる場合、譲渡対象に含まれる資産や負債の詳細をリストアップし、買手と売手の間で合意しなければならない。また、譲渡事業に所属している社員は、譲渡先に雇用関係が移転する。
もちろん、職業選択の自由は憲法で保障されているため、社員が新たな雇用契約の締結を拒むことも当然ありうる。
しかし、事業部門のみが譲渡対象となる場合、社員の移転を前提としているケースもある。事業のキーマンは、譲渡契約において条件の一つであることも珍しくはない。
会社売却の相場を知る3つの方法
会社売却の場合、株式譲渡や事業譲渡の方法にかかわらず、買手と売手の合意があればその取引価額で成立するのが原則だ。
しかし、あまりにも高額だったり安すぎたりすると、税務上において買手と売手の間に寄付や贈与があったとみなされてしまう可能性がある。したがって、社会的常識の範囲内で取引を行わなければならない。
通常は外部の第三者に株価算定などを依頼し、その価額を参考に売買される。株価の算定に用いる代表的な方法を確認してみよう。
算定方法1.純資産法
貸借対照表の純資産の価額が会社の株式価値であると考えて株価算定を行う方法である。純資産法には、簿価純資産法と時価純資産法がある。
簿価純資産法では、貸借対照表の簿価をそのまま利用する。時価純資産法では、貸借対照表の資産及び負債を時価評価して、その差額である時価純資産を株式価値だと考える
各方法で株式価値の例を示すと以下の通りだ。
【簿価純資産法】
(資産の簿価200、負債の簿価100)
【時価純資産法】
(資産に含み益が100あり、資産価値は300)
算定方法2.類似会社比較法
類似会社比較法とは、売却対象となる会社に類似する会社を上場会社から選出して、その評価額を算出する方法である。
非上場会社の場合、企業規模等が上場会社と類似していることは稀だろう。そのため、業界や取り扱いサービス、地域性、戦略などに着目して類似企業を抽出するのが一般的である。
類似する上場会社のPERに着目して、自社の一株当たりの利益から株価を逆算するのも手軽な方法といえる。
算定方法3.DCF法
DCF法とは、割引現在価値法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)を英語表記した略称である。
割引現在価値とは、将来に受け取れる収益が仮に現時点で受け取れるとしたときの価値をあらわす。DCF法は上場会社も含めて利用されることが多い株価算定方法である。DCF法を図にすると以下のようになる。
左から右に時間軸がある。将来期待できる会社の営業利益や事業利益をキャッシュ・フローとし、CF1、CF2、CF3…で表している。それらを割引率で現在価値に変換してPV1、PV2、PV3…へ割り引く。
このとき、現在価値であるPV1、PV2、PV3…の合計と投資額を比較して、合理的かつ適切な投資案件を判断する。
割引現在価値についてさらに知りたい方は以下の記事も参考にしてほしい。
会社売却価格を相場より高める3つのポイント
会社売却では、売却価格を相場よりも高くしたいと考えるのが通常だ。買手の視点に立って売却価格を高めるポイントを3つ紹介する。
ポイント1.成長可能性
買手からすると、対象会社の成長可能性が極めて重要である。成長というのは、売上や利益、会社規模の拡大をさす。成長しなければ十分な利益を得られないため、投資をする意味がなくなってしまう。しかし、必ずしも対象会社だけの成長が求められるわけではない。
買手が対象会社と同様の事業を行っている場合、取得後のシナジー効果が期待できれば、全体としての成長につながるからだ。
ポイント2.生産性
買手が対象会社に対して初めに行うことは、決算書を過去3年程度見ることである。決算書によって対象会社の経営状況がある程度わかるからだ。
たとえば、貸借対照表の「固定資産」や「投資その他の資産」に、事業とは直接関係ないゴルフ会員権やリゾートマンション施設などの資産が含まれていないかを確認できる。また、「棚卸資産」に説明のできない在庫金額が積みあがっていないかも確認できる。
損益計算書では、役員報酬や地代家賃、交際費などが多額かどうかもわかる。目につきやすい項目から、無駄のある会社と無駄のない会社を判別できるだろう。
無駄のない筋肉体質の会社は生産性が高い。必然的に会社の売却価値が高くなる傾向がある。
ポイント3.組織力
会社の売却を期に、オーナーであった創業社長は一般的に退任する。しかし、社長がすべての経営判断を行ってきた会社も珍しくはないだろう。
買手からすると、創業社長が会社から抜けてしまうデメリットがある。たとえば、重要な取引先を失ったり、重要な幹部がいなくなったりして、会社が回らなくなってしまうという懸念を抱く。
創業社長に顧問という役職を与え、2~3年は会社に残ってもらう方法もあるが、やはり社長がいなくなった後の心配は尽きない。
したがって会社の売却価値を高めるためには、社長がいなくても回る組織を普段から作っておくことが重要だ。社長が朝から晩までオフィスに張り付いていなくても、各自の判断で適切に行動できる組織が理想だろう。
会社売却の注意点
買手は、買収時のみならず買収後のリスクも忘れてはならない。
会社組織には、創業当時からの従業員がいるほか、取引先との強力な信頼関係もある。しかし、新しくオーナーになった買手は、一から信頼関係を確認していくことになる。
通常は株式譲渡契約で、重要な取引先の取引継続や、重要な従業員の継続雇用を求める文言が記載されている。しかし、新体制の方針に反発する古参社員が大量に退職し、重要な取引先との契約に影響を及ぼすことも十分に考えられる。これらの可能性は、どのような契約でも完全に排除できない。
また、当初予定していた収益が得られるとも限らない。買収時の前提条件に変化がないかどうか、事業の推移をみていく必要がある。
会社売却は相場やリスクをふまえて実行
会社の売却では、創業者が体の一部を失うような思いをするだろうし、買手も社員の離職や取引先への影響を考慮しなければならない。売手や買手のみならず、さまざまな立場が関与する。相場やリスクをふまえた適切な判断で会社売却を実行してほしい。
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文・風間啓哉(公認会計士・税理士)