M&A,成功報酬,レーマン方式
(写真=PIXTA)

M&Aを実施する際には、M&Aアドバイザーなどの専門家に相談をするケースが一般的だ。専門家は助言やアドバイスをくれるが、やはり発生するコストは気になるポイントだろう。そこで今回はM&Aアドバイザーの報酬体系について詳しく解説していく。

M&Aアドバイザーの報酬はどう決まる?基本的な報酬体系

M&Aアドバイザーの報酬は、大きく以下の4つに分けられている。

報酬の種類 概要
・成功報酬 M&Aが成立した場合に発生する費用。
・着手金 アドバイザリー契約を結ぶ際や、案件情報を開示してもらう際などに発生する費用。小規模案件での相場は数十万円ほどだが、大規模案件では数百万円に上ることもある。
・中間報酬 交渉を成立させたM&Aアドバイザーに対して、インセンティブとして支払われることが多い費用。成功報酬の10%など、成功報酬の一部として算出されることもある。
・月額報酬 「リテイナーフィー」とも呼ばれる、定額顧問料のこと。金額は案件の難易度によって異なるが、数十万円以上が相場とされている。

必ずしもすべての報酬が発生するわけではなく着手金が発生しないケースもあれば成功報酬以外の費用はほとんどかからないようなケースも存在する。つまりM&Aアドバイザーの報酬体系は依頼先によって大きく異なるため、依頼前にしっかりと確認しておくことが重要だ。また上記の中でも「成功報酬」は多額になりやすく特に内訳や仕組みをきちんと理解しておきたいポイントである。

相手が専門家だからといってすべてを任せると、いつの間にか多額の資金を無駄にしてしまう恐れがあるので注意しておこう。

M&Aアドバイザーの形態によっても報酬体系は変わる

報酬体系の基本的な知識として、もう一つ理解しておきたいポイントがある。M&Aアドバイザーは「ファイナンシャルアドバイザー」と「M&A仲介会社」の2種類に分けられるが依頼先がどちらに該当するのかによっても報酬体系が変わってくるのだ。ファイナンシャルアドバイザーの依頼元(クライアント)は、売り手・買い手のどちらか一方である。

そのため基本的には一方からしか報酬を受け取らない「片手取り」が採用されている。それに対してM&A仲介会社は売り手・買い手の間に入って両者をサポートするため、どちらからも報酬を受け取る「両手取り」を採用している。買い手側が最大限出せる予算から仲介報酬などを差し引き、その残りの金額が株式買収額として売り手側に渡される仕組みだ。

つまりM&A仲介会社を利用する売り手側は、株式売却額の減少という形で買い手側のコストも一部負担することになる。依頼先に支払う金額を見るだけでは、この仕組みに気づけない可能性があるので注意しておこう。

成功報酬は「レーマン方式」による算出が一般的

ここからは、前述で解説した報酬の中でも成功報酬に絞って詳しく見ていこう。一般的なM&Aアドバイザーは、以下の式によって金額を計算する「レーマン方式」を採用している。

・成功報酬の金額=報酬基準額×料率

上記の「報酬基準額」は、各M&Aアドバイザーが独自に算出しているベースとなる金額だ。詳しくは後述するが、実際に依頼者が成功報酬として支払う金額は、この報酬基準額に大きく左右されることになる。一方で「料率」もM&Aアドバイザーによって多少決め方は異なるが、かつてファイナンシャルアドバイザーの世界で主流だった以下の料率が一般的な相場とされている。

報酬基準額 料率
5億円以下の部分 5.0%
5億円超~10億円以下の部分 4.0%
10億円超~50億円以下の部分 3.0%
50億円超~100億円以下の部分 2.0%
100億円超の部分 1.0%

ここで気をつけておきたいのは、仮に報酬基準額が6億円であった場合に単に4.0%の料率をかける方法では計算できない点だ。この点をしっかりと理解するために以下で間違った計算方法と正しい計算方法の2つを見ていこう。

〇間違った計算方法
成功報酬=6億円×4.0%=2,400万円

〇正しい計算方法
成功報酬=(5億円×5.0%)+(1億円×4.0%)=2,900万円

つまり報酬基準額の6億円のうち5億円までの金額には5.0%の料率がかけられる。さらに5億円超~6億円までの1億円分については、4.0%の料率をかけて計算されるため注意しておきたい。この部分を間違って認識していると想定していた金額と実際の負担額の間に大きな差が生じてしまう恐れがある。上記の例を見て分かる通り計算方法が異なるだけで数百万円の差が出てくるため、レーマン方式の仕組みはきちんと理解しておくことが重要だ。

消費税も軽視してはいけないポイント

上記で計算した成功報酬に実は消費税が含まれていない。つまり2019年10月以降は上記の金額に加えて10%の消費税も課されるため注意しておきたい。例えば税抜きの成功報酬を2,900万円とすると消費税だけでも290万円の費用が発生する。この金額を見ただけでも消費税を軽視できない理由が分かるだろう。

消費税は商品・サービスの代金が高いほど税額が増える仕組みでありM&Aアドバイザーへの報酬のように数千万円の費用がかかるサービスでは、税額だけで100万円を超えることも珍しくない。資金に余裕がないようなケースでは、消費税分を支払えなくなる可能性も十分に考えられるため、税込みのコストをしっかりと把握しておこう。

同じレーマン方式でも金額が異なる?報酬基準額の決め方を理解しよう

前述でも触れた通り報酬基準額の算出方法はM&Aアドバイザーが独自に決めている。そのため仮に同じレーマン方式を採用していたとしても依頼先によって成功報酬は変わってくるので要注意だ。そこで次からは報酬基準額の基本的な4つの決め方を解説していこう。

1. 株式価値基準

株式価値基準は、売り手が売却する株式につけられた価値評価をベースにする算出方法だ。つまり「株式の売却額=報酬基準額」になるシンプルな決め方であり、例えば株式が10億円で売却されたとすると報酬基準額も同じく10億円となる。ただしM&Aの直後に役員退職金を支給する場合には、その金額も報酬基準額に加算されるため注意しておきたい。

2. オーナー受取額基準

オーナー受取額基準では、売却する株式につけられた価値評価に加えて「株主とその家族からの負債」も報酬基準額に加算される。例えば売り手側の企業に1億円の役員借入金がある場合には、この金額もすべて報酬基準額に含まれるのだ。したがってM&Aを実施する前に資産を細かくチェックしておき会社の負債状況を明確にしておくことがポイントになる。

3. 企業価値基準

企業価値基準では、株式の売買額にすべての有利子負債を加算したものが報酬基準額となる。つまり役員借入金に加えて銀行借入金も加算されるため、オーナー受取額基準よりも報酬基準額が高額になる。銀行からの資金調達に大きく頼っている中小企業は、特に注意しておきたい方式といえるだろう。

4. 移動総資産基準

移動総資産基準では、株式の売買額とすべての負債の合計金額が報酬基準額となる。役員借入金や銀行借入金はもちろん、企業の負債には買掛金なども含まれるため、今回紹介する中では最も報酬基準額が高額になりやすい。特に多額の負債を抱えている企業は、移動総資産基準のM&Aアドバイザーに依頼するだけで多くの成功報酬が発生してしまうので要注意だ。

報酬基準額の決め方 計算方法
1.株式価値基準 報酬基準額=株式の売買額
2.オーナー受取額基準 報酬基準額=株式の売買額+株主とその家族からの借入金(役員借入金など)
3.企業価値基準 報酬基準額=株式の売買額+すべての有利子負債(役員借入金や銀行借入金)
4.移動総資産基準 報酬基準額=株式の売買額+すべての負債(役員借入金や銀行借入金、買掛金など)

報酬基準額の基準によって成功報酬額には大きな差が出るため、依頼するM&Aアドバイザーを選ぶ際には軽視できないポイントだ。会社の負債状況などを確認したうえで自社に最適な仕組みのM&Aアドバイザーを見つけることが重要になる。

レーマン方式の具体例:実際に計算して理解を深めよう

文字だけではややイメージがしづらいため、ここからは以下のモデルケースを参考にしながら実際に成功報酬を計算していこう。

〇モデルケースの前提条件
・株式の売買額:5億円
・役員借入金:2億円
・銀行借入金:4億円
・買掛金:1億円
(※上記以外の負債はないものとする)

1. 株式価値基準の計算例

株式価値基準では「報酬基準額=株式の売買額」となるため、モデルケースでの報酬基準額は5億円だ。したがってM&Aアドバイザーの成功報酬は以下の計算式によって算出できる。

・成功報酬額=5億円×5.0%=2,500万円

計算方法は比較的シンプルだが、仮に上記の報酬基準額が5億円を超えた場合は、複数の料率をかけて計算をする必要があるため注意しておこう。

2. オーナー受取額基準の計算例

オーナー受取額基準では、報酬基準額は「株式の売買額+役員借入金」の式で算出される。つまり、モデルケースの報酬基準額は「5億円+2億円」となり、その合計額の7億円が成功報酬のベースになってくる。では複数の料率をかけることにも注意しながら実際に成功報酬を計算してみよう。

・成功報酬額=(5億円×5.0%)+(2億円×4.0%)=2,500万円+800万円=3,300万円

このように報酬基準額に役員借入金が加わっただけで株式価値基準とは数百万円の差が生じた。実際にこれくらいの差が生じることは珍しくないため、報酬基準による成功報酬の差を軽視しないことが重要だ。

3. 企業価値基準の計算例

企業価値基準では、銀行借入金も含めたすべての有利子負債が報酬基準額に加算されるため、モデルケースでの報酬基準額は11億円(5億円+2億円+4億円)となる。報酬基準額が10億円を超えると、さらにかける料率が増えるため計算式はやや複雑になるが、一つずつ見ていけばそれほど難しい計算ではない。

・成功報酬額=(5億円×5.0%)+(5億円×4.0%)+(1億円×3.0%)
      =2,500万円+2,000万円+300万円
      =4,800万円

株式価値基準と比べると報酬基準額に有利子負債が加わっただけで両者の成功報酬には2倍に近い差が生じていることが分かる。

4. 移動総資産基準の計算例

移動総資産基準では、株式の売買額と有利子負債に加えて買掛金も報酬基準額に含まれてくる。つまりモデルケースでの報酬基準額は「5億円+2億円+4億円+1億円」となり、その合計額は12億円だ。 ここからM&Aアドバイザーの成功報酬を計算すると依頼人が支払う金額は以下となる。

・成功報酬=(5億円×5.0%)+(5億円×4.0%)+(2億円×3.0%)
     =2,500万円+2,000万円+600万円
     =5,100万円

では、ここまで計算したモデルケースの成功報酬を報酬基準別にまとめてみよう。

報酬基準額の決め方 モデルケースでの成功報酬額
1.株式価値基準 2,500万円
2.オーナー受取額基準 3,300万円
3.企業価値基準 4,800万円
4.移動総資産基準 5,100万円

(※いずれも税抜価格)

上の表を見て分かる通り株式価値基準と移動総資産基準とでは、成功報酬に2倍以上の差が生じている。企業の負債が増えるほど差はさらに開いていくため、特に多くの負債を抱えている売り手側の企業は、報酬基準額の決め方を事前に確認しておくべきだろう。ただし本記事の冒頭でも解説した通りM&Aアドバイザーに支払う費用は成功報酬だけではない。

できるだけコストを抑えたいのであれば着手金などほかの費用の仕組みも理解したうえで全体のコストを比較することが必要だ。確かに成功報酬は特に大きいコストだが、それ以外の費用が想定以上に高くなる可能性もあるため、全体のコストを細かく比較することを心がけよう。

M&Aアドバイザーへの報酬が発生するタイミングは?

ここまでM&Aアドバイザーの報酬体系を細かく解説してきたが、いずれの報酬も高額となる可能性があるため、発生するタイミングも押さえておきたい。実は支払うタイミングについても以下のように報酬の種類によって変わってくるため注意が必要だ。

報酬の種類 発生する一般的なタイミング
・成功報酬 M&Aの成立時、もしくはM&Aの最終契約時
・着手金 最初に契約を結んだときなど、M&Aの初期段階で発生する。なお、買い手に関しては対象会社の情報を提供してもらう際に、「情報提供料」として着手金が発生することも
・中間報酬 M&Aの入札時、もしくは基本合意書の締結時など。文字通り、M&Aのプロセスの中間あたりで発生することが多い
・月額報酬 依頼先によって大きく異なる

基本的には上記のタイミングとなるが各報酬が発生するタイミングについても各M&Aアドバイザーが独自に決めている。つまり依頼先によってコストが発生する時期は異なるので、その点も事前に確認しておくことが望ましい。なかでも月額報酬は、M&Aを検討している段階から発生する場合もあれば基本合意書を結んだタイミングで発生するケースもある。

費用の準備が遅れるとM&Aの計画自体が遅れてしまう。そのため各コストが発生するタイミングを細かく把握したうえで必要な資金をしっかりと準備しておくのが賢明だ。

成功報酬の「最低保証額」の確認も忘れずに

ちなみに今回詳しく解説した成功報酬には「最低保証額」が設定されていることもある。なぜなら株式の売買額が著しく低い小規模案件を請け負った場合にM&Aアドバイザーの成功報酬が業務内容と見合わない金額になってしまうためだ。したがって自社の企業価値が低いからといって、必ずしもM&Aのコストを大きく抑えられるわけではない。

この最低保証額も各M&Aアドバイザーが独自に決めているため、契約を結ぶ前にしっかりと確認しておこう。

情報を一つずつ整理し、最適なM&Aアドバイザーを選べる環境を

M&Aアドバイザーの報酬体系は、そこまで難しい仕組みではない。しかしすべての報酬を合わせると数千万円に及ぶケースも珍しくないため、計算を少し間違えるだけで資金繰りが間に合わなくなる可能性がある。そのため今回解説した内容はしっかりと理解したうえで利用するM&Aアドバイザーを比較・検討することが重要だ。

また消費税だけで数百万円になるケースもあるため、税込みのコストを把握しておく点も忘れてはいけない。ほかにも各コストが発生するタイミングや最低保証額など、いくつか注意しておきたいポイントがある。必要な情報を一つずつ整理しながら、最適なM&Aアドバイザーを選べる環境を整えていこう。

文・THE OWNER編集部