国内リユース市場を牽引するハードオフコーポレーション(新潟県新発田市)。グループ店舗は915店と、1000店突破まであと一息というところまできた。コロナ禍にもかかわらず昨年度は212億円を売り上げるなど業績は順調で、今年度も年商240億円を目指して邁進中だ。山本太郎社長に今後の展望について聞いた。

(※2021年8月号「Top Interview」より)

山本 太郎 社長(40)
(画像=山本 太郎 社長(40))
山本 太郎 社長
山本 太郎 社長(40)
やまもと・たろう
1980年生まれ。新潟県出身。早稲田大学卒業後、ファーストリテイリングに入社。2007年にハードオフコーポレーションに入社後、常務、副社長を経て、2019年4月に社長に就任。

ネット販売の売り上げはコロナ前の2倍に

――社長になられて2年、就任当初はリアル店舗の出店を抑え、その代わりに当時、利用者が急増していたインターネットを使ったサービスの整備に力を入れているとお話しされていました。現在も、この方針に変わりはありませんか。

山本 我々はこれまで、「リンクチャネル」という独自のオムニチャネルを推進してきました。これについては、重要性はさらに増していると考えていて、今後もさらに強化していきます。一方でリアル店舗については方針を転換し、現在は精力的に出店しています。新型コロナウイルスがいつ収束するかは分かりませんが、今期も何店舗か出店する計画です。

――コロナ禍であらゆるネットサービスの需要が大きく伸びています。ハードオフのネット事業はいかがでしょうか。

山本 ネット販売の売上はコロナ前と比べて2倍になりました。また、ネットの買い取りについても、2・5倍から3倍近くに増えています。コロナ禍を予想してネットを強化してきたわけではないのですが、時間をかけてやってきたことが功を奏したというところでしょう。リアル店舗の場合、どんなにがんばっても、売上がいきなり2倍になることはありませんから、これはネットならではの強みだと言えると思います。

――ネットではどのような商品がよく売れていますか。

山本 家で過ごす時間が増えたため、趣味関連の商品がよく売れています。具体的にはオーディオや楽器、ゲーム関連といったところです。あと、アウトドアがブームになっていることもあり、キャンプ用品も人気です。逆にファッション関連は7割程度まで落ちました。これは、コロナ禍でデパートや商業施設などが休業し、新品のアパレルの流通が著しく落ち込んだためです。

――消費者同士が直接、物を売り買いする「メルカリ」が火付け役となり、リユース市場はかつてないほど盛況です。

山本 おかげで、「リユース」という言葉も消費者の中に浸透しました。ただ、個人間で直接取引きできるネットサービスは、手軽で非常に便利である反面、取引が難しい商品もあります。例えば高額な商品は、何かあったときのことを考えると、どうしても個人間だけでは取引がしにくい傾向にあります。しかし、我々のようなプロの業者が介在すれば、売る側からしても、買う側からしても安心です。そういう意味では、「メルカリ」などのサービスと、棲み分けはきちんとできていると考えています。

――今後、さらにネットを伸ばしていく上での課題を挙げるとすれば、どんなことがありますか。

山本 先程も申し上げたように、ネットの販売は順調に伸びていて、もう少しで第2の柱になるところまできています。とはいえ、売れる商品と売れない商品の選別については、まだ甘い部分もあるので、そこはきちんとテコ入れして、精度を高めていく必要があると感じています。一方、ネットの買取サービス「オファー買取」については、着実に伸びてはいるものの、まだまだだという印象です。現状、買取の9割は店頭で、ネットは全体の1割もありません。「オファー買取」は、アプリ上に出品された商品に対し、各店の店長が個々の判断で買取のオファーを出すのですが、店舗が忙しくなると、どうしてもそれが後回しになってしまいます。時間がかかると、出品を取り下げてしまう方もいるので、改善して機会損失を減らしていけば、おのずとネット買取の比率は上がっていくだろうと考えています。

▲ネット買取の量を増やしていくことは課題の一つ
(画像=▲ネット買取の量を増やしていくことは課題の一つ )

アウトドア、工具の専門ブランドを相次いで発足

――リアル店舗へのコロナの影響はどうでしょうか。

山本 一時的にはありましたが、今は以前の水準まで戻っています。ネットやアプリに力を入れているといっても、それはあくまでも店舗を良くするためのツールだという位置づけです。我々にとって一番大事なのは実際の店舗ですから、今後も集客には力を入れていきたいと思っています。

――先程の「オファー買取」もそうですが、仕入れの部分に関しては、基本的に店舗の裁量に任されているそうですね。これは、商品やサービスの均一化を目指す従来のチェーンとは異なります。

山本 リユースである以上、持ち込まれる商品の種類や状態は、基本的にすべてバラバラです。だからこそ、あえて店舗ごとの個性や働いている人の色が出すことが大事だと思っています。1店1店、扱っている商品が違うため、グループ店舗を何店もハシゴする人がかなりいます。本部としてもこの部分は大事にしていて、アプリでは「ハードオフ巡り」という機能を実装しています。

――出店を精力的に行っているということですが、具体的な目標はどう なっているのでしょうか。

山本 中期的には2022年末までに1000店舗を計画しています。現在、直営・FC合算で915店舗まで来ましたので、何とかこの目標を達成できればと考えています。また、長期的には2000店舗を目標に掲げています。今の倍以上の数ですが、これには根拠があります。我々の本社がある新潟県の人口は約220万人ですが、県内にはグループ店舗が57店舗あります。これを基に算出すると、全国で2500店舗まで出店できることになります。したがって、2000店舗という数字は、決して実現不可能なものではないと思っています。

――「ハードオフ」を軸に、さまざまな業態を展開されています。目標の店舗数を達成する上で、新業態の開発も不可欠だと思います。

山本 去年、新たに2つのブランドを立ち上げました。一つはアウトドアの専門店で、「オフハウス」から独立させる形で作りました。間もなく新潟県内で3店舗目がオープンする予定です。もう一つは工具の専門店で、こちらは「ハードオフ」から独立させました。いずれの業態も専門特化させたことで、今まで入ってこなかったものがどんどん入ってくるようになりました。今後も、こうした専門店はどんどん増やしていきたいと考えています。

▲アウトドアと釣り道具の専門店の外観イメージ
(画像=▲アウトドアと釣り道具の専門店の外観イメージ)

――他に店舗を増やすための施策として行っていることはありますか。

山本 施策というわけではないのですが、従来よりも小ぶりな店舗を出店していこうと思っています。我々の主力業態である「ハードオフ」と「オフハウス」は、300坪前後の広さで複合的に出店するケースが大半です。しかし、このクラスの空きテナントとなると、それほど頻繁に出てくるわけではありません。場合によっては出店スピードを鈍化させる要因になってしまいます。それで今後は、100坪くらいの広さで、採算性の高い「ハードオフ」の単独出店にも力を入れていこうと考えています。これくらいの広さであれば空き物件の情報もかなり集まってきますので、今までよりも計画的に店舗を増やしていけるはずです。

――915店舗のうち、523店舗はFC店です。今後の出店比率はどのように考えているのでしょうか。

山本 私は直営とFCの黄金比率は3:7だと考えています。昨年、加盟企業だったエコプラスを完全子会社化した関係で、現在は直営の比率が少し上がっているので、バランスを考えると、しばらくはFC店の出店を推進していきたいところです。

加盟企業の成長のため少オーナーによる多店舗展開を推奨

――FC展開を始めてから25年以上が経ちました。経営者の高齢化に伴い、次世代に事業承継する加盟企業が増えてくるタイミングだと思います。

山本 実際、このところ事業承継する加盟企業が増えています。本部としても積極的に支援していて、例えば、後継者候補の方を、大学を卒業したタイミングで社員として雇用したケースは、過去に何件もあります。また、今は新型コロナの影響でできていませんが、「ハードオフ二世会」というものがあり、私も含め、15名くらいで定期的に集まって勉強会を行っています。

――FC523店舗に対して加盟企業が36社と、「ハードオフ」は少数のオーナーがそれぞれ多店舗展開されています。

山本 1店舗で上がる売上には限界がありますから、加盟企業は成長のために店舗を増やしていかなければなりません。新入社員を雇う上でも、将来的なポジションを用意しておく必要があります。しかし、同じエリアに何社も加盟企業があったらどうなるでしょうか。おそらく、加盟企業同士で出店場所を争うことになり、計画的に店舗を増やしていくことができなくなります。結局、加盟企業を増やして得するのは本部だけ。これは、〝ザーとジーの共存共栄〞という、我々が掲げる理念に反します。「ハードオフ」が新規の加盟募集を行わず、既存の加盟企業の多店舗化を推奨しているのは、このためです。加盟企業数が少ない方が、ガバナンスを利かせやすいという面もあります。

――以前から海外出店にも精力的に取り組んでおられます。

山本 アメリカ本土やハワイは、コロナの影響で一時的に売り上げが落ち込みましたが、ここにきてようやく、平時の9割くらいまで回復しました。台湾にある2店舗については、コロナの影響はほとんどなく、順調に業績を伸ばしています。いずれにせよ、リユースビジネスはエコブームの後押しによって、どこの国にもチャンスがあります。コロナ禍が落ち着き次第、再びアクセルを踏みたいですね。